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『A Space For The Unbound 心に咲く花』レビュー

A Space For The Unbound 心に咲く花』は、90年代後半のインドネシアのある田舎町を舞台とした、2D横スクロールのSFファンタジー・アドベンチャーゲームだ。

主人公は恋人同士であるアトマとラヤ。ふたりはある種の不思議な力を持っていて、人の心や現実に干渉することができるが、それ以外はどこにでもいるような高校生だ。

夢か現実か定まらない記憶と時間軸、まるで異世界のような空間、超能力、人の言葉を喋る猫など如何にもSFファンタジー的な要素を孕んでいるが、同時に日常の酸いも甘いもある出来事や登場人物たちの想いに触れていくようなストーリー展開が待っている。

開発:Mojiken
販売:Toge Productions
配信日:2023年1月19日 / 日本語サポート有
Steamにも同レビューを公開中:Link

ゲームシステム

ゲームとしては章立てとなっていて、主にアトマの視点でキャラクターを操作して、その章における目的や目標を達成していくことでストーリーが進行していく。

例えばそれは野良猫の家を作るために廃材を集める探索ベースのものであったり、不思議な本の力を使って他人の心の中へと入り、その葛藤のもとを取り除くといったパズルベースのものであったりする。

それらは観察や記憶、ある種の閃きを必要とする場合もあるが、その多くは難しいものではないため、魅力的なストーリーに集中することができるはずだ。

ただ一方で、90年代当時のインドネシアの文化や風土に根ざした要素が多く登場するため、その土地に馴染みのない日本人の筆者にとってはピンとこないものがあった。

原風景的なものに対してノスタルジーな感情を得られることもまた本作の魅力のはずで、そこに共感できないことは仕方がないこととは言え・・・残念な部分だろう。

日本語サポート

ボイスは無く、UI/テキストが日本語に対応。翻訳は同スタジオの『Coffee Talk』や『When the Past was Around』なども手掛けた、小川公貴氏 (@transneko) が担当されている。

少年少女らしい言葉遣いややり取り、時として重いテーマにも触れるような扱いの難しい表現も丁寧に訳されており、その品質は高い。

ただ先にも書いたとおり、現地の文化や風土に根ざした表現や言葉はそのまま用いられているため、日本人として理解はできないとしても翻訳のせいではないことは付け加えておきたい。

気になるポイント

ストーリーの一部として、例えば児童虐待とも取れるような現実的且つ重いテーマが扱われているシーンがある。これは必須の体験となるため、物語に深みを与えている一方でそこにストレスを感じてしまうプレイヤーもいることだろう。

ゲーム側としてもこうしたシーンが登場することに注意喚起はしているので、よく理解した上でプレイをしてほしい。

総評

緻密に描き込まれたピクセルアートの背景は美しく、多くのロケーションや天候の変化なども相まって、目に鮮やかに映る。現地の街並みなどを知っていればより楽しめる部分でもあるのだろう。

また本作では音響効果にもこだわりが感じられ、土や敷板を踏むような足音ひとつをとっても耳に心地よい。これもコンポーザーのMasdito “Ittou” Bachtiar氏の巧みさゆえだ。

重いテーマの取り扱いもあるため注意は必要だが、綿密に練り込まれ、少しずつ明らかになっていく物語を好むプレイヤーにはおすすめだ。


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