ラストダンスなど踊らないで  

    フカザワカズキ


未真魚(みまな)暁(あかつき)は

都立高校の一年生。
右乳房にしこりがあるのを見つけたのは、
二月の中旬頃だった。
「おかあさん、ごめんね」
暁は台所で味噌汁を作っていた
母親の京香にポツンとつぶやいた。
「ごめん。病気になんかなっちゃって」
「いいのよ。いちばんつらいのはアンタ
なんだから」
京香が振り向き、暁のオデコにキスをした。
「やだーっ、なにするのよ、おかあさん」
暁が激しく胸の前で両手を振った。
「もう、お別れだから。これが最後のキスよ」
京香が縁起でもないことを言った。
「もーっ、ママ、まだ癌はステージ1なんだからね」
「冗談よ。まったく日本人は冗談が通じないんだから」
二人が声を揃えて笑った。





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