映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』完成披露試写会と【読書ノート】
11月11日桜坂劇場で映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』完成披露試写会がおこなわれました。この映画は、沖縄テレビの平良いずみ監督がフリースクール珊瑚舎スコーレ(那覇市)に通う、石川県出身の坂本菜の花さんを追っかけたドキュメンタリー番組の劇場版です。菜の花さんは沖縄での3年間の体験を故郷の北陸中日新聞のコラム「菜の花の沖縄日記」に連載し、同タイトルにて今年8月に書籍化もされました。以下に、読書メモと映画の感想を書きます。
『菜の花の沖縄日記』坂本菜の花(へウレーカ 2018)
連載の第一回目(2015年4月)のタイトルは「おじい、なぜ明るいの?」です。中学1年生で初めて沖縄に来て感じた空気感を綴ります。ゆいレールに乗ったとき「みんなの目がキラキラとして、元気に見えたんです。/本土とは何か違う空気を感じました。私が沖縄に惹かれていったはじめの一歩だった気がします」。そして、中学3年生のとき訪れたオスプレイヘリパッド建設反対運動現場の高江集落での思いが続きます。「高江は明るいです。全然知らない人とも夜になると、ずっと知り合っていたかのように仲良くなっています。/でも楽しいことがある反面、すぐ後ろにはいつも米軍基地のことがあります。/沖縄の人には嫌なニュースの方が多いはずです。なのに、高江で会ったおじいはよく冗談を行って笑わせてくれます。どうしてこんなに明るくいられるんだろう?」連載では、3年間の沖縄生活の中での出会い、珊瑚舎スコーレ夜間中学のおじいおばあ、度重なる事件事故などの出来事を通して、「おじい、なぜ明るいの?」という疑問に自ずと迫っていく様子が描かれています。
評者は、高校を卒業するまではずっと沖縄で生活していました。県外の大学に進学しいろんな地域の友達ができ、自分の生まれ島の歴史に興味を持ち勉強するまでは、“平和”や“沖縄戦”についてあえて意識を向けることはあまりありませんでした。沖縄で生まれ育ったからこそ、ついおざなりになり忘れてしまいがちな大事なことを、本書からは教えてもらえました。「慰霊の日だけ平和のことを考えても、平和にはなりません。いつも考える。今日は一年の振り返りをする日。また新しい一年が始まります。」(2015年6月)先人たちの命や想いを受け継いで、6月23日からまた平和な1年をつくり繋いでいかないといけないんだと気付かされました。
菜の花さんが沖縄滞在中に度重なる米軍による事件や事故は、本土出身である彼女のポジショナリティーを厳しく問い続けます。2016年に起きた米軍属の男性による、うるま市の二十歳の女性に対し暴行殺害し死体を遺棄した事件では、本土で報道される抗議活動が大きくなる「恐れ」や、最悪な「タイミング」などの言葉が使われました。そういう本土側の受け止め方や、事件が起きても有効的な対策がなされない状況に触れ、菜の花さんは「『沖縄だから』という潜在的な差別意識が心のどこかにあるように感じます」(2016年5月)と述べました。
彼女は遠い昔のような沖縄戦から今も起き続ける出来事に直面するたびに、自分と沖縄を重ねて悩み考え続けてきたのだと思います。「高江のヘリ墜落炎上」「自衛隊基地配備問題」「チビチリガマ」、「しまくとぅば」「三線」「ハーリー」などの沖縄文化にも触れ、彼女は沖縄の地でたくさんのことを学んでいきます。
そして自問自答の中で最後には第一回目のコラムの問い「おじい、なぜ明るいの?」に一つの答えを導いていきました。ネタバレをしすぎると読書の楽しみを奪うことになってしまうのでぜひみなさんも『菜の花の沖縄日記』をお手にとって読んでみてください。親元を離れ沖縄での高校生活に時にはハラハラしながらも、彼女の体験を通して一緒に多くのことをきっと学ぶことができます。
映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』では本にも出てくる場面と、菜の花さんご自身の自然な言葉、津嘉山さんの包み込むようなナレーションがとても温かかったです。辺野古の人から話を聞き涙ぐむ彼女に言った「泣くなよ、辺野古の綺麗な海見て笑って帰ろよ」はとても優しかったです。人と人との出会いがたくさん描かれています。また、菜の花さんが珊瑚舎スコーレを卒業したあとの県知事選挙の様子や「辺野古」県民投票での活動も映し出されていました。
映画は2020年2月1日(土)に桜坂劇場にて先行上映され、ポレポレ東中野ほか全国順次公開される予定です。ぜひ劇場に足を運んでみてください!