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リモート会議の「伝わらない!」を変える小さな習慣とキラーワード

 満員電車も乗らず、徒歩0分で仕事場に到着。「移動時間なし」という点では、夢の「どこでもドア」のようなリモートワーク。コロナ禍ですっかり定着した感がありますが、「システム的には慣れてきたけど、なかなかうまく伝わらないなあ」というモヤモヤ、ありませんか。
 パソコンの「画面」を通した人との会話は、顔が見えてはいるけど実際の「対面」のようにはいかないなぁ、と苦手意識を持つ人も少なくないでしょう。ふだんから、見えない相手であるリスナーに向けて会話をしている、人気ラジオDJで著書に『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』(2017年)がある秀島史香さんに、リモートでの会話のコツを聞きました。最新刊『なぜか聴きたくなる人の話し方』も好評発売中です。

秀島史香著『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』
『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』

 ラジオでは、基本的にラジオの向こう側にいるリスナーを想像しながらお話ししています。

 同じ空間に居なくても、距離を感じさせないように気を付けていることは、臨場感と「この人の話に耳を貸そう」と思わせるための工夫です。これは、リモートでのコミュニケーションにも応用できるところがあり、「ちゃんと伝わっているか不安」「うまく話せない」「無駄に緊張する」など、お互いのストレスを減らせると感じています。

 リモートにおいて、「まずはこれだけ意識しておけば大丈夫!」と私が最も大切にしているのは、「無言の相づち」です。番組では、ゲストをお迎えしてインタビューするコーナーがありますが、その模様をリスナーに届けるというのは、いわば二重のコミュニケーションになります。リスナーの方々にゲストの言葉をきちんと伝えるために意識して使っているのは、話し手を邪魔せず話しやすい雰囲気を作る、「3割増しの無言の相づち」です。

 オンラインだと、相手の顔のアップとずっと向き合っているという状況の緊張や、話が途切れてしまった時の「間」の持たなさを不安に思うあまり、焦って言葉を足してしまい、相手とぶつかりがち。「あ、すいません!」「いえいえ、こちらこそ」「どうぞ」「そちらから」とぶつかった挙句、何往復ものゆずり合い。はがゆいリモートあるある、ですよね。

 話す側は常に、「この話、ちゃんと相手に伝わっているかな」と相手の反応が気になるもの。しかしそこで良かれと思って「分かります」「なるほど!」という声を出しての相づちは、かえって相手のテンポを乱してしまうことがあります。対面ならほどよい「相づち」の声も、リモートでは必要以上にしっかりと届けられてしまい、互いの声がぶつかりあって、相手には話しづらい状況に。他の参加者にとっても混乱を招きます。

 では、どうすればいいのか。無言ではあっても、いつもの3割り増しの無言リアクションです。大きくうなずいたり、「なるほど」という表情をしたりと、「聞いています」「理解しています」というサインを無言で送ります。モニターでこちらの顔も相手は見えるわけですから、しっかり無言でうなずくことで「受け止めています」感は伝えられます。相手の言葉を遮らない、ぶつからない、腰を折らない。相手もしゃべりやすいですし、自分と相手以外の参加者も、本題の話に集中できます。「なぜだかこの人とは話しやすいな」と感じる人は、相手を決してさえぎらない、相づち名人です。小さなことですが、これがなかなか難しい。あなたも次回のリモートでぜひ試してみてください。相手の表情、反応が違ってきますよ。

 最後に、リモート会議でのキラーワード2つを紹介します。一つは「ここまで大変よくわかりました」。同じ空間にいると、話し手は相手が理解しているのか、聞き手は相手が気持ちよく話しているか、細かい表情やしぐさなどで感じられますが、「画面」ではそれがなかなか伝わってきません。その「モヤモヤ」を回避するのが、このワード。相手が話し終えた後、その合間合間におたがいの理解度を確かめ合い、さらに「わかりました!」ときちんと伝えることで、相手のトークにも弾みがつきます。

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 もう一つが、「ありがとうございます」。これは、相手が長めの発言を終えた後に添えたい言葉です。このやりづらいコミュニケーションの中、懸命に伝えようとしてくれたことへの感謝と敬意をシンプルに伝えられますし、ここからは自分が引き取って話しますよ、というやわらかな宣言にもなります。話が長いな、他の参加者との発言バランスが崩れてきたな、と感じる時など、その場の流れにやんわりと句読点を打ち、場の空気をリフレッシュすることができます。

 リモート会議は「細かいニュアンスがなかなか伝わらない」とイライラするという人も多いようですが、「だからこそできること」もあります。先日、とある生放送のラジオ番組にゲストとしてリモート出演したのですが、そのとき、パソコンのすぐ上の壁に、メモ書きの「カンペ」をいくつも貼り付けておいて、「あなたを見てますよ」としっかり目線はキープしつつ、さりげなくもちゃっかりカンペを活用するという「裏技」を編み出しました。(相手にはバレバレだったかもしれませんが。笑)

 大切なのは、環境がガラリと違うのだから戸惑うのは当たり前、とまずは受け入れること。そして本番では「3割増しの無言の相づち」を意識しながら、「いかに自分がリラックスできるか、慌てないで済むか」を目指して、自分に合った方法を色々試してみること。自分にとって一番読みやすいメモ作りや、「これを見せたら相手が喜んでくれるかな?」と相手の興味を惹きそうな小道具を用意してみたり、相手から見えない下半身は思いきりリラックスできるウエアを着てみたり、足元でひそかにマッサージグッズを転がしてみたり、お気に入りの香りで気分を上げたり。ちなみに私の友人は、「モニターの真上の壁に「推し」の写真を貼ったら、いつも無表情になってしまうリモート会議で自然と笑顔になれた」と嬉しそうに教えてくれました。これには「なるほど!その手があったか!」と思わず唸りました。これも日々の仕事を楽しくするための「マイ技」ですね。これからますますリモートでのコミュニケーションは増えていきます。文字通り「アウェイ」でなく「ホーム」で一番自分に合った方法を自分でアップデートしながら、うまくプラスに生かしていきましょうね。

秀島史香(ひでしま・ふみか)
ラジオDJ、ナレーター。1975年、神奈川県茅ケ崎市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。大学在学中にラジオDJデビュー。J-WAVE『GROOVE LINE』、NHKラジオ『英語で読む村上春樹』のほか、NHK総合『着信御礼!ケータイ大喜利』などのテレビ番組にも出演。映画、テレビ、CM、アニメなどのナレーション、美術館音声ガイド、機内放送など活動は多岐にわたる。ニッポン放送『文豪ROCK!~眠らせない読み聴かせ 宮沢賢治編』で令和元年度文化庁芸術祭「放送個人賞」受賞。現在FMヨコハマ『SHONAN by the Sea』、JFN系列局『Pleaseテルミー!マニアックさん。いらっしゃ~い!』、NHKラジオ『ニュースで学ぶ「現代英語」』、NHK Eテレ『高校講座 現代の国語』などに出演中