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これからの企業に欠かせない「DX人材」が注目する業界別3つの最前線トレンド

「いわゆるレガシーシステムはDX(デジタル・トランスフォーメーション)の足かせでしかありません。トラブル続きの銀行が典型ですが、早急に負債化している旧来のITシステムなどを整理して、より有効なデジタル技術を活用し続けなければいけない。どの企業にとっても明暗を分ける大きな課題であり、それを担うDX人材には、最新の成功事例の収集など、常にDXリテラシーの更新が求められます」
 こう話すのは『デジタル技術で、新たな価値を生み出す DX人材の教科書』(朝日新聞出版)の著者、鶴岡友也さん。480社以上の企業のDX推進を支援する株式会社STANDARDの若きCTOが、今後DXの加速が確実視されているデジタル技術のビジネス応用の最新トレンドを紹介します。

著者の鶴岡友也さん。株式会社STANDARD 代表取締役CTO。1996年生まれ。明治大学在籍中から、AI エンジニアのフリーランスとして複数の開発案件に携わる。東大人工知能開発学生団体HAIT Labの運営を通じながら、株式会社STANDARD を共同創業。各産業のDX 推進支援やDX リテラシー講座の作成、グループ会社の設立などに従事。(撮影/写真部・張溢文)

■「デジタルツイン」が加速する!

 いまDXへの投資が最も進んでいる業界は自動車業界でしょう。よく言われるCASE(Connected・Autonomous・Shared・Electric)やMaaS(Mobility as a Service) といったトレンドワードが示す通り、各社は積極的にデジタル技術の活用に投資しています。

 トヨタが建設中のスマートシティ「Woven City」を見てもわかるように、ハードウェアからソフトウェアへ、ビジネスの軸を変革しようとしている。IT企業の電気自動車・自動運転分野への参入がその流れを強力に後押ししていることは言うまでもありません。

 自動車業界に限らず、製造業は全般的にDXが進んでいます。製造ラインの人手不足の常態化に加え、コロナ禍の影響もあって、製造プロセスにおけるデジタル技術の活用がより加速しています。

 たとえば、目視検査工程のAI画像認識技術による自動化。あるいは製造設備をIoTで結び、データの収集・統合・解析を自動化して一元管理する、スマートグラスを活用してリモートで保守点検をするなど、様々なデジタル化が行われています。

 特に注目したいDXトレンドは「デジタルツイン」です。これは、リアル空間にある情報をセンサーで収集し、それをもとにデジタル空間上でリアル空間を擬似的にシミュレーションするテクノロジー。IoTなどのセンサー技術やクラウド、処理技術の進歩によって、5年ほど前には技術的に難しかったものが、いまでは難易度が相当下がっています。

 デジタルツインによって設備保全・メンテナンス時期の予測や最適な製造プロセスの設計などが飛躍的に効率化、あるいは自動化されます。今後は製造業だけではなく、大きな設備を持つ電力や石油などの業界でも同じように応用が加速していくでしょう。

石井大智著/鶴岡友也著『デジタル技術で、新たな価値を生み出す DX人材の教科書』
石井大智著/鶴岡友也著
『デジタル技術で、新たな価値を生み出す DX人材の教科書』

■「トランザクション・レンディング」がメジャーに!

 DXの遅れが目立つ金融業界ですが、一方で「FinTech(フィンテック)」 というトレンドワードもあります。テクノロジー的には、投資アルゴリズムのAI化やブロックチェーンの活用などがよく知られていると思います。

 ただ、その本質はあくまでも「金融の民主化」です。特定の企業が独占していた金融サービスが、デジタル技術を活用することによって、顧客視点で様々な企業(非金融業)が提供する、より便利で高付加価値なものになっていく。この流れは海外では既にメジャーになっており、今後日本でも確実に進んでいくでしょう。

「民主化」という意味で、特に強調しておきたいトピックがあります。それは「トランザクション・レンディング(デジタルデータ化されている取引履歴を利用して審査を行う融資)」です。

 従来の金融機関よりも、たとえば営業ツールや会計ツールを提供している会社(非金融業)のほうが、顧客の営業・決済状況などに関するデータをより詳しく収集しているケースが多くあります。それをもとに「与信」の仕組みを作れば、より短期間で適切な融資サービスを提供することが可能になる。実際、Amazonや楽天などは、出店している事業者向けにトランザクション・レンディングを行っています。

 もちろん、顧客データの利用は金融サービスに限りません。顧客データは「新しい石油」とも言われています。それをどのように価値に変換するか、戦略的に考えていくことがまさにDXの肝であり、どの企業にとっても喫緊の課題なのです。

■「Beacon(ビーコン)」が当たり前になる!

「新しい石油」の発掘・活用が最も急がれている業界の一つが、O2O(Online to Offline)やOMO (Online Merges with Offline)という顕著なDXトレンドが存在する小売業界です。

 小売業界では今後、オフラインとオンラインが統合されて、よりよい購買体験を作り出す動きが加速していきます。早晩、リアル店舗とECサイトの垣根もなくなるでしょう。

著者の石井大智さん、鶴岡さんが経営する株式会社STANDARD。2017年の創業ながら、ソフトバンク・NTTデータ・パナソニック・リコー・みずほフィナンシャルグループなど、大手企業を中心に500社近くにDX人材育成、コンサルティング、プロダクト開発を提供している
(撮影/写真部・張溢文)

 この流れは、リアル店舗で言えば「箱もの経営」からの脱却に他なりません。要は、オフラインの強みを生かしつつ、いかに「顧客接点」をオンラインで持つかが死活問題ということ。なので、消費者一人ひとりを深く理解するための細かいデータを収集する基盤やシステムの整備、つまりDXが必要不可欠になっているわけです。

 リアル店舗のDXが急がれている背景には、言うまでもなく、すっかり定着したECサイトの影響があります。

 たとえば、多くの消費者が店舗で実際の商品を見ながら、その商品を Webで検索してレビューを確認し、価格を比較してより安いECサイトで 購入しています。この購買行動の変化にリアル店舗はどう対応するか。

 そこで開発されたテクノロジーが「電子棚札」です。これはオフラインとオンラインをつなげ、リアルタイムで一つひとつの商品の値札を自動的に差し替えていくデジタル技術。こうしたECサイトと同じように価格調整などを行う取り組みは、今後リアル店舗の主流になっていくでしょう。

 当然ながら、リアル店舗で商品を販売するメーカーにとっても「顧客接点」をより多く持つことは死活問題です。大量の商品が並ぶ中で、他社商品ではなく、自社製品を買おうと思ってもらうためには、やはりオフラインとオンラインの組み合わせが必要不可欠でしょう。

 そこで注目されているのがBeacon(ビーコン)技術の活用です。Beaconとは、一定時間ごとに数十メートル範囲に信号を発する装置の総称。Bluetooth Low Energy規格(BLE)を搭載したBeaconは消費電力が小さく、コイン電池でも長時間の使用ができ、比較的安価なのが特徴です。

 たとえば、これを商品棚に取り付けておけば、自社商品に近づいたお客さんのLINEなどにキャンペーン情報などを通知したりできます。これにより、少なくとも自社商品の存在に気づいてもらえるわけです。

 Beaconを人やモノに組み合わせると位置関係が測定可能になります。とてもシンプルで安価なテクノロジーですが、道路交通情報の通知や紛失防止など、様々な場面で活用されており、これからも活用事例が増えていくことは確実でしょう。

 DX人材には、自分が関わっている業界に留まらず、こうした「デジタル・トレンド」について、広くウォッチし続けていくことが求められているのです。


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