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【書店員さんからの感想続々!】素晴らしい読後感に出会える小説だった――宮内悠介さん『ラウリ・クースクを探して』感想まとめ

 宮内悠介さんの新刊『ラウリ・クースクを探して』が、朝日新聞出版より2023年8月21日(月)に発売となりました。発売から約1週間で、木澤佐登志さん(週刊現代)、小川哲さん(読売新聞)など書評掲載も相次いでいます。多くの感想を寄せていただいているなかで、発売前から続々と寄せられていた書店員のみなさんからのご感想を一挙に公開いたします。

宮内悠介『ラウリ・クースクを探して』(朝日新聞出版)

 コンピュータープログラムに魅せられたラウリ。プログラムだけが彼の友達だった。孤独だったラウリに生涯忘れられない時、切っても切れない友情が輝き出す。国の体制に翻弄されながらも心には確かに彼女、彼らとのつながりが存在した。自分の真の気持ちと彼らの気持ちはすれ違い、途中歯がゆさでいっぱいになった。
 読み終わり、こんな人とのつながりがあってほしい。こんな友情があってよかったと心から思った。
 わたしの正体を知った時、心が震えて、胸がいっぱいになった。
(ジュンク堂書店滋賀草津店 山中真理さん)


 同じ夢を持ち切磋琢磨する少年少女達の心の交流が繊細で丁寧に描かれていて、光のような輝きであふれています。ページをめくる指先から多感な10代が感じるみずみずしい感情が伝わってくるようでした。社会がどんなに彼らを離ればなれにしてしまってもプログラミングという夢で強く結ばれている。信頼という絆のコードで書かれた、これからも続いていく友情のプログラミングに胸に熱い気持ちがこみあげました。無限の可能性を秘めた、未来へ続く優しい数式があふれた物語。読み終えた今も、穏やかな光で包まれているような温かな余韻がずっと胸に残っています。
(紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん)


 ラウリの半生を夢中になって読んだ。
 私はラウリと同世代。子どもの頃、エストニアの子どもたちがどういう立場だったのかなんて全く知らなかった。
 少年期、青年期を経て現在にたどり着いた時、お互いの思いを感じて驚きと共に涙が出てきた。どの時代も簡単な時代ではなかった。難しいことだらけだった。そんな中自分の生きる道を見出して生きてきた三人を知ることができてとても嬉しかった。
 読んでいる時、テレビから流れてくるロシアのニュース。国の情勢から考えるとロシア近くの国々はまだまだ大変だろうと思う。そんな中だからこそ「歴史に翻弄された一人の中年の親父」の物語が心を打つのかもしれない。
(宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみさん)


「停車駅を乗り過ごしてしまう傑作に久しぶりに出会った」
 人類の三大発明と言えば、火薬・羅針盤・活版印刷が上がりますが、こと年代を20世紀後半から私たちが今生きている21世紀に限定すれば原子力・宇宙開発そしてコンピュータになるはずだ。
 本作の主人公・ラウリ・クースクはこのコンピュータ黎明期に産声を上げ、幼少期からプログラミングに魅了され、それが彼の天性の素質と相まって著しい成果を上げる。その過程が生き生きと描かれ、読んでいる私たちもウキウキしてくる。居場所がなかった彼が、コンピュータのお陰で生涯の親友と出会える瞬間が素敵だ。ソ連崩壊が大きく影響したエストニアを、ラウリの生涯を通してこのような視点から捉えることは、歴史の年代を暗記するだけよりも余程肌に沁みこむだろう。なんにしても久しぶりに停車駅を乗り過ごしそうになった作品に出会えたことに感謝したい。
(谷島屋 マークイズ静岡店 小川誠一さん)


 エストニアも、コンピュータープログラミングも、少なくとも私にとっては遠い場所であり、遠い題材です。遠いはず、遠いはずなのに、歴史に翻弄されたラウリの人生が、三人の関係性が、体に沁み込むようにとても自然に伝わってきました。ラストでは物語が終わったと同時に涙が流れました。私は知識不足もあり、戦争批判や、今まさに激動のロシア周辺に対する言葉を持ちません。ただこの作品を通して得たものはたくさんあり、三人の姿が「今」に届いたとき、途方もない歴史に自分も共に居るのだと感じさせられ、本当に読んでよかったと思いました。
(田村書店吹田さんくす店 村上望美さん)


 夜空に煌めく星を探すように、懐しい思い出を心いっぱいに抱えて“ラウリ”を探したい。“ラウリ”に会いたい。伝えたい言葉が雪のように降り積もって、探して。彼らの人生が繋がる未来に会いたいって、願いたくなる。生きるっていうことは人とのかかわりあいだから、生きてゆくかぎり、きっとまた会える時がくる。何度だって巡り会って、語り合って、「生きている」この時間を大切にしたくなる物語!
(紀伊國屋書店クレド岡山店 河東優衣さん)


 作中の「わたし」と一緒にラウリ・クークスという人物を探しながらエストニアを旅しているように夢中になった。ラウリだけではなく、彼のことを調べる「わたし」は一体何者なのか。先が気になってどんどん読んだ。これは本当にフィクションなのか?
 まるで、ラウリたちの人生を表すかのように、バルト三国は強国の影響を常に受けている。だからこそ、領土ではなく、国と国民のデータを守ろうと挑む彼らの姿に胸をうたれる。奇しくも、我が国ではそのデータ活用に揺らぎが生じてきた。平和な時代を長く謳歌している私たちにはもしかしたら無理なことなのかと少し考えてしまった。
(紀伊國屋書店さいたま新都心店 大森輝美さん)


 社会情勢が不安な真っ只中、時代の波に吞まれながら彼らが過ごした青春時代。
 まだコンピュータが世に出始めた頃、ラウリの透一さが光る。
 彼らの真の友情は国や社会を越え揺るぎないものなんだと証明されたことがとてもうれしく思えた。
(あおい書店富士店 望月美保子さん)


 主人公の探求心や純粋なひたむきさに惹かれてどんどん物語の中に引き込まれていきました。正直なところ歴史やプログラミングについての知識はなかったのですが、その時代を生き抜いてきたラウリの孤独と友人たちの数奇な巡り合わせに幾度となく心動かされました。全て読み終わった後に残る余韻まで心に染み入る良作でした。
(有隣堂町田モディ店 原田明美さん)


 ある男の壮大な物語。読んでいて、現実なのか物語なのか、わからなくなった。
 読み終わった時、私はラウリ・クースクの偉大さを感じた。
(ジュンク堂書店西宮店 水口真佐美さん)


 エストニアという知らない人の知らない国の話だと、最初は少し距離を置いて読んでいました。ですが、ラウリのひたむきさにだんだんと彼のことが好きになってきて、そんな彼が民主化とソ連のあいだでふりまわされる様子を心配し、だんだんと現代の彼へと追いついてきて――。そこで初めてこれが現実と地続きの物語であることに、強い衝撃を受けました。エストニアのマイナンバーカードの話もそうですが、この現代性と、無名の人物へのやさしい視点とが相まって、とても読み心地のいい小説でした。やっぱり宮内悠介さんの小説はおもしろいですね。
(宮脇書店松本店 月元健伍さん)


 ラウリという人の天才少年の物語ではなく、時代とずれて生まれてどこまでも純真な彼が成長していく。恋と言う気持ちも口にうまくだせないような、どこまでもまっすぐで、友情を裏切ることもない。今でもそうだが国の都合で自由に生きられない、でも一生けんめい生きる彼らの青春群像に感動しました。
(ジュンク堂書店三宮店 三瓶ひとみさん)


 才能を持ちながら何もなさなかったラウリ・クースク。
 ある記者が彼を追い求めた理由。全ては必然だった。
 これは遠い異国の物語。今よりも不自由な社会でもがく若者たちが進む道は厳しいけれど確実に未来へ進み続けていた。
(ジュンク堂書店郡山店 郡司さん)


 歴史に翻弄されながらも友を思い夢を追いかけるラウリ。
 英雄ではないにしても誰かに必要とされ、それに応えようとする姿に、その喜びに、計り知れない幸福をかんじた。
(喜久屋書店小樽店 渡邊裕子さん)


 大活躍しない主人公を丁寧に追っているといつのまにか読み終えてた。
(未来屋書店宇品店 河野寛子さん)


 国家に囚われ、国家に翻弄される友情。これは伝記なのか?ミステリーなのか?それが何であれ、今こそ読むべき物語。「ラウリ・クースク」を探しているのがだれなのかが明かされた時おどろきや喜び、沢山の感情が一気にあふれ出した。憂い多き、今の世界への希望が見えるような作品でした。
(有隣堂藤沢本町トレアージュ白旗店 小出美都子さん)


 時代に翻弄された人たちの弱さと強さに圧倒された。
 時代や国家という抗い難いものに囚われながらも、一人の人間としてのあり方を見せつけられた。
 ラウリ・クースクはこの世界のどこかにいる遠い誰かであり、身近にいる人であり、私自身だ。
 終盤は、あっと驚く物語としての仕掛けの面白さに心躍った。
(東京旭屋書店新越谷店 猪股宏美さん)


 ガチ文系の私には、無味乾燥な記号の羅列に思えたプログラミングも、音楽や美術や文学と同じように、世界の美しさを写しとる手段。そう思ったらラウリたちの見ている世界が羨ましく思えた。きっとどこの国にも、いつの時代にも、ラウリはいて、こんなふうに恋や友情に悩んだり、時代の流れに翻弄されながら少しずつ世界を変えているのだろう。
(TSUTAYAウイングタウン岡崎店 中嶋あかねさん)


 青春時代の友情の絆と友情の絆と言う感情的なものから一番遠いコンピュータが繋いだ青春の結末。永遠の青春なんて……といい大人になり、青春なんてものを信じられなくなってきたら、読んでほしい。
(三省堂書店有楽町店 平山佳央理さん)


 時代は違えど、今もどこかでラウリのような子がいるのかと思うと、その若い芽を大人の事情で潰してはいけない。なんて残酷なんだと思った一方で、それを帳消しにするくらいのラストに、してやられた感があった。
(くまざわ書店新潟亀田店 今井美樹さん)


 リアルすぎて、ノンフィクション?と思ってしまった。
 社会としては決して明るくない中、かけがえのない友情があったということ。国と国との関係は、友人や家族関係を巻き込んでしまい、争いに勝者はいないのだということ。
 エストニアや旧ソ連時代を知らない世代にこそ読んでほしい。とてもメッセージ性のある作品。
 拝読の機会を頂き、ありがとうございました。
(ブックセンタークエスト小倉本店 竹内裕美さん)


 プログラミングが彼の世界を広げ、さまざまな出会いを経て成長していくラウリ。彼の人生はまぎれもなく私の心に刻まれました。一人の男の人生に、こんなにも夢中になるとは思いませんでした。
 友情と愛情の間で揺れ動く彼の青春から目が離せませんでした。
さりげなく張られた伏線に気づいた時は思わず鳥肌が立ちました。すばらしい小説です……!
(未来屋書店碑文谷店 福原夏菜美さん)


 今読むならタイムリーな作品だと思う。ロシア、ウクライナ侵攻。ロシアがソ連だったころのエストニアで生まれ育った主人公ラウリ・クースク、コンピュータプログラミングの天才。先が知りたくハラハラドキドキの展開。読む手が止まらず一気読み。コンピュータプログラマーがいかにして生まれたかが良くわかる。
 ラストにふるえてしまいました。
(くまざわ書店南千住店 鈴木康之さん)


 まるで計算機のようだった少年。運命とも言える友人たちとの出会いで、大いなる夢を叶えていく。こんな素晴らしい友情や、鮮やかに成長する人々を感じていたいと思う。なぜなら、私たちはそれを心の栄養にできるから。国境を、時代を、イデオロギーさえも超えて美しい想いや願いを熱く感じることができました。
(蔦屋書店熊谷店 加藤京子さん)


 ソ連末期に思春期を過ごしたエストニア人エンジニアを追う。
 幼少期にプログラムと出会い孤独だった世界が広がり、友人を得、将来や恋慕の感情に想いを馳せ惑う様は極一般的な若者と何ら変わりはないが、そこに民族、祖国の有り様というアイデンティティの根幹に関わるものが介入することでもたらされる感情は緊迫感、諦観よりも切なさを多く含むように感じてしまう。ほぼ同世代の人間として世界が大きく変わっていっているという実感を懐かしく思い出すと共に、ウクライナ介入による緊張感やデータに込められる存在の意義など今の混迷の世に国として個としての在り方を問う作品。
(明林堂書店南宮崎店 河野邦広さん)


 時代や生活上の重い空気のなかで、どんなに小さくても彼らにとって大切な知るという行動を丹念に救う場面の連なりが心を打つ。はたしてその先に幸福な人生の出口が開けていくのだろうか。素晴らしい読後感に出会える小説だった。
(大盛堂書店 山本亮さん)


 歴史のうねりの中で埋もれていた一つの命を紐解けば、そこには愛おしい青春と一途に生きた日々があった。テクノロジーに魅せられた夢、反転する世界にままならない現実。理性と感性を同時に揺さぶる本物の感動がここにある。これぞ紛れもない世界文学だ!
(ブックジャーナリスト 内田剛さん)


 この物語に振れたものは皆、ラウリのファンになってしまうことだろう。
真っ直ぐに生きることがままならない革命の時代。翻弄されながらも怖々と伸ばし続けた彼の手の中に、最後に残ったもの。
 あまりにも純粋な彼らのライフストーリーに励まされ、予想以上のラストに涙する、心に永く残る一冊だった。
(ジュンク堂書店吉祥寺店 田村知世さん)


 ラウリ・クースクの軌跡を追う「わたし」は一体何者なのか。なぜ歴史に名を残す訳でもない彼を調べるのか。その背景が明かされるラストに心が震えました。孤独な子ども時代を送ったラウリにとって、初めて同じ景色を見ることのできるイヴァンとの出会いは、何物にも変えられない喜びで、一生胸の中に残る宝物であったことと思います。そして、イヴァン、カーテャも、ラウリと同じ思いを抱き、彼ら三人が時代に翻弄されながらも、青春時代の煌めきを忘れずにいたことに深く感動しました。
(ジュンク堂書店旭川店 松村智子さん)


「ラウリ・クースク」って誰!?と思っていたはずが、気付けば夢中で読み進めていました。
 国の境界線が変化する中で過ごした少年少女たちの心の揺れが伝わって来ました。
(文真堂書店ビバモール本庄店 山本智子さん)


 未来に希望を持てるラストが良かった。このラストに辿り着くまで、一気に読まされて傑作でした。
(くまざわ書店錦糸町店 阿久津武信さん)


 歴史のうねりに翻弄された才能ある若者の生きた軌跡に喜び、不安、絶望、虚無感といったあらゆる感情を刺激された。民族問題では終わる兆しのないロシアのウクライナ侵攻を憂い、革命後のエストニアのデータ国家としての成功と我が国の現状を比べ嘆息する。青春物語、ミステリー要素もあり読みどころが満載のこの小説の極めつけはラストの美しさである。なんという味わい深さだろう!彼らと共に美酒を味わいつつ醒めることのない余韻に浸りたい。
(三洋堂書店新開橋店 山口智子さん)


 異国を舞台にその土地で生きた人を描くドキュメンタルのような作品。
こういうテイストはなかなか入り込めず集中できない事が多々あるが、気づけば没頭していた。
 エストニアという国の事は「名前は聞いたことがあるかもしれない」という程度。
 旧ソビエト連邦だ、ロシアだとくると当然意識はロシアとウクライナの戦争に繋がる。
 帰属意識、民族意識を問う一面がある本作品はライライ教授の「国とはなにか」の考えに私自身自問自答しました。日本という島国ではなかなか向き合う機会の無い、こういったアイデンティティの問題。本当はアイヌや琉球といった文化が日本にもあるんですけどね。普段は意識しませんね。
 実際のウクライナ戦争でもクリミア半島の住民達の帰属意識がロシアなのか、ウクライナなのかで選挙云々もありニュースでけっこう取り上げられていましたね。
 ラウリと友人たちのやり取りを見ていて思い出しました。自分の過去(ルーツ)を辿ればこっちだけど、将来を考えるならあっちの方がメリット大きそうとか自分の立場がグラつく気持ちも理解できます。
 ロシアという大国の隣国として存在する以上、領土問題は常に頭にあり、その対策の最終手段的に“データ”を活用する。情報空間を利用する。
理にかなっているが敵国に凌辱される土地に果たして我慢できるだろうか。
こうやって歴史を振り返るとソ連解体も昔のようでさほど昔では無く、全てが地続きで現在進行系の問題として存在している。
 歴史や時流に翻弄されながらも、その時代を生きる一人の人間を個人としての問題や大局に巻き込まれる形での問題を描いていた。
 そして人生とは常に何かしらの問題と直面していてそれでも気づけば“今を生きていて、明日に立ってる”という人の一生を丹念に健気に表現している作品と感じました。
 今の戦争が終わりを迎えた時、ウクライナの人は、ロシアの人は何を思うのだろう。
(紀伊國屋書店仙台店 齋藤一弥さん)


■宮内悠介さんによる刊行記念エッセイ

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