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やっぱり『昭和ガマ』を置き去りにしなかった安室奈美恵【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 女装家・タレントのミッツ・マングローブさんが時代を駆け抜けた「アイドル」たちについてつづった書籍『熱視線』(2019年8月刊)より、珠玉のコラムを選りすぐりで紹介。今回は安室奈美恵さんについてお届けします。

ミッツ・マングローブ『熱視線』
ミッツ・マングローブ『熱視線』

 突然の引退宣言により、各紙で『安室奈美恵論』旋風が巻き起こっている様子。中年女装だらけの楽屋で第一報を聞き、皆「40歳を節目に引退されちゃったら、私らの立つ瀬ないじゃない!」と叫んでいました。 

 安室ちゃんは、聖子・明菜・ユーミン世代の『昭和ガマ』と、あゆ・宇多田・Perfumeらがアイコンの『平成ガマ』を繋ぐ数少ない日本の歌姫です。彼女には古き良き芸能界・歌謡界特有のスター風情(光と影)があります。言うならば安室奈美恵は、私を含め『昭和ガマ』が信用できる最後のアイドル歌手なのかもしれません。

  私が初めて安室ちゃんを見たのは高校2年(17歳)の秋。通っていた男子校の文化祭にデビューして間もない『スーパー・モンキーズ』という沖縄出身の5人組がやって来て、その真ん中にいたのが当時14歳の安室奈美恵でした。それまでの女性アイドルにはないディーバ的歌唱とリズム感に度肝を抜かれ、帰りに地元のCD屋さんでデビュー曲『恋のキュート・ビート/ミスターU.S.A.』を買いました。

安室奈美恵さん/イラスト:ミッツ・マングローブ
イラスト:ミッツ・マングローブ

  以来、青春期の傍ら、ずっと頭の片隅でスーパー・モンキーズが(ひいては安室奈美恵が)売れる日を心待ちにしていた私。こんなことを言うと、まるで「自分は最初から安室に目をつけていた」アピールをしているようですが、事実『全校生徒約3千人の男子校で歌っておきながら、引っかかったのはオカマぐらい』な状態で、安室ちゃんのキャリアはスタートしたのです。

  そして数年後、彼女が時代の寵児となったちょうどその頃、私は初めて新宿2丁目に足を踏み入れ、同じように『ひっそりと安室に引っかかっていたゲイやオカマたち』を目の当たりにし、それまで誰とも共有できなかった『はみ出た感性』の拠り所を見つけて嬉しい気持ちになったのを覚えています。

  2000年代に入り、安室ブームが落ち着き、いわゆる『低迷期』とされた時期(2004~2007年ぐらい)も、むしろそれまで以上の熱量で彼女の人気を支え続けたのは、2丁目を始めとする全国のゲイシーンでした。今年で12年目となる『安室奈美恵ナイト』は毎回溢れんばかりの盛況っぷりで、安室ちゃんが9年ぶりに1位を獲得した2008年には、ご本人がお忍びで訪れたほど。かく言う私は、ゲイシーンにおける熱狂が高まるほどに、その勢いとスピードについていけなくなり、いよいよ『昭和ガマ街道』まっしぐら。そのまま現在に至ります。

ミッツ・マングローブ

  安室ちゃんについていけなくなったことは、私にとってまさに『歳をとった証し』そのものでした。そして10年以上、安室ちゃんをフォローすることを諦めてしまっている事は、音楽好き・アイドル好きとしてまさに不徳の致すところでもあります。なので正直『引退宣言』と聞いて、まず頭をよぎったのは「これでもう焦らずに安室ちゃんの音楽と向き合える」ということでした。これからは自分のペースで『失われた10余年』を含む安室奈美恵の音楽を存分に堪能しようと思っています。

  先の沖縄ライブで22年ぶりにデビュー曲『ミスターU.S.A.』を歌った安室ちゃん。個人的には、その衝撃と興奮が冷めやらぬ内(その沖縄ライブの3日後)に『引退』のニュースが飛び込んできたため、妙にすべてが繋がって感じられてしまったのも事実です。

  次回は、後世に残すべき名曲『ミスターU.S.A.』について積年の想いを綴るつもりでいますので、どうぞお楽しみに。

 (初出:週刊朝日2017年10月6日号)


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