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NHK朝ドラ「なつぞら」でなつの花嫁姿に草刈正雄が鼻水が出るほど泣いた理由

 5月17日から放送が始まった新朝ドラ「おかえりモネ」。気象予報士を目指すヒロインの成長を描いたドラマで、主演の清原果耶さんの演技が光る。その前の週に涙の最終回を迎えた「おちょやん」とはまた違った朝の楽しみとなりそうだ。
 これまで多くの名作を生み出してNHK連続テレビ小説だが、広瀬すずさん主演、大森寿美男さんオリジナル脚本の「なつぞら」も話題を呼んだ。同ドラマで頑固オヤジ泰樹を演じた草刈正雄さんは、著書『人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ』(朝日新書)で、なつの花嫁姿を見たときの涙はホンモノだったと明かしている。草刈さんが他にも教えてくれた撮影裏話を、特別にお届けする。

■堰を切ったように涙があふれ出た

 初夏、晩夏、秋、冬と4回くらいに分けて行われた北海道ロケでした。初回は6月に1カ月程滞在して、まだまだ寒い日も多かった。ロケには「炊き出し」の協力があり、地元の方々が食事をつくってくれました。小学生まで来てくれて、豚汁や牛乳でつくったスープを用意してくれたのです。これまた圧倒的に美味しくて。皆さんのでっかい優しさと一緒にジャガイモにしても豚肉にしても、いま居る大地の味をちゃんと教えてくれました。

 それらが『なつぞら』のもうひとつの背景でした。北海道があって、地元の人々がいて、熟練スタッフが集まって、そこに芸達者の役者がずらりと集結して。さすがの役者陣、皆さん、化粧をしてそれぞれの衣裳を着たらもう自然にそのキャラで輝いている。素晴らしい光景です。

 座長は、いうまでもなく、広瀬すずさん。主役のなつを演じるので出ずっぱりだったにもかかわらず、いつもへっちゃらの笑顔で並大抵じゃない根性の持ち主、天性の女優さんです。馬ともすぐに仲良くなったし、搾乳もうまかったなあ。最も忘れがたいのは、なつが嫁ぐ日のシーンでした。結婚式の当日、作業場からなかなか離れない泰樹を花嫁姿のなつが呼びに来る。

 ハッとしました。

 文字通り、息を呑みました。なつの生命力が白無垢に輝いていた。

<ありがとうな>、と泰樹。
<ありがとうはおかしいべさ。育ててくれた、じいちゃんが>と、なつ。
<わしもおまえに育ててもろおた。たくさん、たくさん夢もろおた>

 突然、涙が溢れてきました。ぼろろ、ぼろろと堰を切ったように流れ出し、鼻水は出るわ涙は流れるわで止めようにも止められない。

 理由があるんです。あとで知ったのですが、本番まで、演出の木村隆文さんがなつの姿を僕に見せないようにスタッフに指示していたのです。本番で初めてその花嫁姿を見た瞬間、驚きと同時に、喜びも寂しさもドォッと込み上げてきました。それにしても朝の番組です。じいさんの顔が鼻水でぐちゃぐちゃだったら、お茶の間には不快でしょう。すると木村さん、「あ、アレは消しますから」。ああそうか、いまはそういう時代なのか! 二度三度とその才腕にキメられました。

 なつの結婚については、以前、泰樹は手痛い失敗をしています。

 アニメーターを目指す以前のこと。なつを“本当の家族”にしたい余りに、清原翔くん演じる孫の照男と結婚させようとするのです。

<どして、そんなこと言うの! じいちゃんは、私から大事な家族を奪ったんだよ!>

 泣きながら訴えるなつに狼狽する泰樹。以後、なつの東京行きの流れは止められようもなく、二人は別々の場所を“開拓”し続けることになるわけです。それから幾年月が流れての、なつの結婚でした。

 泰樹はきっと知ったのでしょう。同志、仲間、血縁、家族。それぞれかたちの異なるつながりに見えても、人間同士のつながりに条件はないと。同時に僕も知りました。素直になれれば、自分以外は皆、師だと。感謝、感謝です。

(写真は『人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ』より)


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