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今の日本の現状を風刺した凄まじいエンターテインメント小説だ――貫井徳郎さん『ひとつの祖国』書店員さん感想まとめ

 貫井徳郎さんの新刊『ひとつの祖国』が、朝日新聞出版より2024年5月7日(火)に発売となりました。発売前から続々と寄せられていた書店員のみなさんからの感想を一挙に公開いたします。

貫井徳郎『ひとつの祖国』(朝日新聞出版)
貫井徳郎『ひとつの祖国』(朝日新聞出版)

 息もつかせぬ驚愕の展開に圧倒されます。人間の本質と、生々しくも突きつけられる現代社会の闇から目が離せません。経済格差を理由に、東日本独立を目指すテロ組織が暗躍する。善と悪が曖昧に揺れ動き、人間の憎悪や醜悪さ、おぞましさに、終始ハラハラさせられる。予想できない展開からの怒涛のクライマックス。人間社会の本質に迫る作品です。

(精文館書店新豊田店 渡邊摩耶さん)


 第二次世界大戦での敗戦で、西の大日本国と東の日本人民共和国に分断された日本。ベルリンの壁の崩壊の半年後日本も統一された。資本主義と社会主義、それによって生まれた経済格差は統一後も埋まることはなかった。東日本は西日本にとって単なる労働力でしかなく、東日本人たちは自らを二等国民とみなし差別も甘んじて受ける時代が続いた。そして統一から三十年を経て湧き起こった東日本の独立への戦い。その中心となるのがテロ組織「MASAKADO」。テロ活動に巻き込まれた一人の男と、その親友の自衛官。資本主義と社会主義。差別と格差。正義と悪。正しさの先に掲げる理想。誰もが幸せに暮らせる世界などない。ユートピアなど存在しない。何を切り捨て、何を手に入れるのか。分断された社会の、本当の統一とは。あったかもしれない日本の姿に、お前ならどうする、と覚悟を迫られるようにむさぼり読んだ。

(精文館書店中島新町店 久田かおりさん)


 東日本と西日本の格差から生まれた社会的亀裂。 東日本独立を目指したテロ組織に、 突然巻き込まれた一人の青年の激動の運命に、 一瞬も目が離せませんでした。心臓が早鐘を打ち、血が燃えたぎるような興奮が止まりません。 二つの正義のぶつかり合いに、 思考が砕け散り、強靭な思想の炎が全身に燃え広がっていくようでした。 本当の正しさとは何か。 真の人間の幸せとはどこにあるのか。 現代社会の未来に光はあるのか。 ページをめくるたびに、 行き過ぎた思想がもたらす、破滅のカウントダウンが聞こえてくるようでした。 まさに、正義中毒社会を警鐘するような、重厚な観念小説。自分の考える正しさは歪んでいないか。今までの倫理や規範は狂っていないか。 社会への多くの問いが突き刺さりました。 読後、壮絶で切ないラストに、 見えない縄で拘束されていた心が、 解き放たれていくような深い余韻がずっと残っています。 読み始めたら一瞬でゾーンに入り、 言葉を失うすごい作品を拝読させていただき、 誠にありがとうございました!

(紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん)


 本当にフィクションなのか。リアリティがありすぎる。私が日々感じる怒りや、やり場のない虚しさを、物語として代弁してくれた。今の日本の現状を風刺した凄まじいエンターテインメント小説だ。

(紀伊國屋書店さいたま新都心店 大森輝美さん)


 スリリングな逃避行から炙り出されるこの国の病理。人間の行動を突き動かすのは怒りであり理性でもある。なぜ争いは絶えないのか? 我々は何を信じて生きればいいのか? 圧巻の筆致から問いかけられた問題はあまりにも巨大。人間の根源と今ここにある危機を描き切った現在進行形の物語。貫井文学の最高峰ともいえる究極のエンタメ作品だ!

(ブックジャーナリスト 内田剛さん)


 西日本と東日本が分断され再び統一されるという構想に、プロローグから心を鷲掴みにされ、夢中になって一気読みしました。格差社会、貧困問題、なぜ戦争はなくならないのか!? 深く考えさせられました。

(有隣堂武蔵小杉東急スクエア店 床島千波さん)


 ボリューム満点の重たい話ですが、続きが気になりすぎて一気読みしてしまいました。東西に分かれた日本があまりにも灰色で、どんよりとした空気感と緊張感にひりつきが止まりません。人間らしくいられるためには何をすべきなのか。 考えることをやめてはいけない。とても考えさせられる一冊でした。

(TSUTAYAサンリブ宗像店 渡部知華さん)



 生活は貧しく、社会に不満を持ちながらも、淡々と平和に過ごしていた日常が、ほんの偶然がきっかけで崩壊する。望んでもいないのにテロリストとなり、親友とも決別せざるを得なくなった一条。その過程にある恐ろしいほどの現実感。彼が「MASAKADO」に取り込まれていく描写は、自分までが逃げ場なく追い詰められていくような息苦しさを感じるほどでした。
「架空の日本」の物語であるのに、いま私たちが生きる社会と地続きの命題が次々と提示される。特に「格差による分断」や、口先三寸で社会を混乱させる扇動家などは誰もが身近に感じているはず。if設定のエンターテインメントでありながら、否、だからこそ、ここまで「現実」に肉薄して描けるのかと驚嘆を禁じ得ませんでした。一条と、それを追う辺見……物語に夢中になりながら、いつか「人間にとって理想の社会、生き方とは」という問いかけがずっと続いていることに気付きます。答えは出なくとも、それでも生きていくこと。最後の一行が、心にずしりと落ちたままです。

(ブックスオオトリ四つ木店 吉田知広さん)


 騙しあいの中で誰が黒幕か、裏切られるのか、どきどきしながら、読む手が止まらなかった。自分の理想のために人を排除する、そんなことはあってはいけない。人々に訴えかける叫び。ずっと考え続けている。

(ジュンク堂書店滋賀草津店 山中真理さん)


 ハードボイルドの硬質さが苦手なので、読めなかったら申し訳ないなと思いながら読んだのですが、まったくそんな気配もなく、とにかく面白くて一気読みしてしまいました。途中途中に、一度は分断されていた日本の話なのに今の日本と重ね合わせて考えたいところがたくさんあって、けれどページを閉じるのがもったいなくて続きが気になって仕方なくて、とにかく一気に読み切りました。再読のときにゆっくり考えたいなぁと思いながら。

(田村書店吹田さんくす店 村上望美さん)


 血で穢れた愛国心が祖国を壊し人々の心に闇を植えつけた。 一条昇が貫きたい正義はもう祖国では通用しないのか。危険を孕みながらも自分を、人を信じる心を捨てず遠い未来に想いを馳せ、いつかまた美しい日本に生まれ変わる日が来ると我が祖国を愛して止まない本当の心を見た。壮大でいて繊細な貫井徳郎作品に一気に心を奪われてしまった。

(あおい書店富士店 望月美保子さん)


 西日本と東日本が分断され再び統一されるという巨大な構想に呑まれて一気に読んだ! その世界線はリアリティがあり、分断がもたらす社会の変化に震え、ボディーブローのように効いてくる。

(うさぎや矢板店 山田恵理子さん)


 息もつかせぬ展開に読む手が止まりません。もう一気読み間違いなしの大傑作、驚異の発想の展開、一条の先行きが知りたくて続編を望みます。あなたも読んでこの驚異を堪能して下さい。

(くまざわ書店南千住店 鈴木康之さん)


 貫井徳郎さん史上、最も社会派なクライムサスペンス。この時代に攻めた内容だなあと思ったが、逆に、この時代だからこそ書かれなければならない作品かもしれない。人々がなにも抵抗せず、従順であり続けることの恐ろしさも伝えているように思える。

(啓文社岡山本店 三島政幸さん)



 西日本と東日本が分断、それによって大きな格差が生まれることもテロ組織が存在することも歴史が違えば決してありえなくはない。まるでもうひとつの日本の未来を見ているようだった。この先愚かな人類によって全世界にどんなことが起こるか予想もできない今、この作品を読んではっきりと危機感を覚えた。

(ジュンク堂書店郡山店 郡司めぐみさん)


 この本は貴重な考えや洞察が盛り込まれ過ぎて奥が深い。意図せず巻き込まれる闘争や戦争はなぜ起こるのか、信用できるのか裏切られるのかとハラハラしながらのめりこんでしまいました。

(コメリ書房鈴鹿店 森田洋子さん)


 一条、聖子、辺見。苦悩と憤りをもち、笑いあえる穏やかな未来を願っていたのは一緒だろう。 それぞれ道は違えど、住みやすい場所が欲しかった、本当にそれだけだろう。今を生きる私達に問題を突きつける ひとつの祖国は現在のこの国の話だ。

(未来屋書店入間店 佐々木知香子さん)


 一条がどうなってしまうのか、辺見とはどこかで繋がってくるのか、ハラハラしながら読みました。もし本当に第二次世界大戦後に日本が分割統治されていたら……とか、貧困、格差、米軍基地問題など、色々な社会の問題を考えさせられました。

(紀伊國屋書店久留米店 富田智佳子さん)


 これは現実の話ではないのだとわかっていても、身につまされるほどのリアリティで、終始緊張感、圧迫感を強いられる圧巻の展開。到底絵空事とは思えないMASAKADOのテロ計画は、空恐ろしくて身震いした。ここに描かれていることに、リアリティを感じてしまうということが、日本の憂うべき現状を示しているのだと思うと胸が痛くなる。

(六本松 蔦屋書店 峯多美子さん)


 人ってこうやって追い詰められていくのかというのが、ひたひたと迫ってきて心拍数が上がって息苦しかったです。「結局、他人事だからなんだよな」。終盤に登場する五藤の言葉がやけに胸に残ります。自分に直接関わりがなければ、対岸の火事よろしく気にもとめなくなるんだということ、とても恐ろしいと思ってしまいます。読み終わったあとも、いろいろと考えてしまう良い作品でした。

(未来屋書店名取店 髙橋あづささん)


 やられました。喉元ギリギリに、鋭利な刃物を突きつけられるような気持ち。ギリギリの焼け付くような焦燥感。平和ボケした頭には効きすぎましたね。これはディストピア小説の形をとった、人間の本質と倫理を問う問題作品です。

(蔦屋書店熊谷店 加藤京子さん)


 日本がもし西と東で違う国だったら……今まで、生まれてから今日まで日本というひとつの国が当たり前でそんな事考えたこともない中、新しい視点で読ませて頂きました。国の分断、テロ、などニュースで見るだけで身近に感じたことはあまりありませんでした。でももし生まれた国が違っていたら、そういう環境の中で育っていたら、それが普通に思えるんだろうなと思いました。世界には環境によってそれぞれの普通があるんだろうなと感じました。

(未来屋書店大曲店 中尾裕二さん)



 ifの日本の物語。読んでいて考えさせられる部分もありすごく面白かったです。貧困の差、争いのない世界とは何なのか、可能なのか、どうするべきなのか。正しさについて考えさせられました。

(未来屋書店碑文谷店 福原夏菜美さん)


 敗戦を機に分断された日本。再度統一されたが様々な問題が派生していた中、一人の若者の運命の変遷を追う。現日本社会の状況、現世界の状況、日本人の国民性、人類の特性を巧みに取り入れ構築された世界に圧倒された。そして79年前の歴史の一コマに分岐があったのかと思うと怖れにも似た不気味さを感じる一方、果たして今の現状を「可」とも言い切れない自分に、それこそ人としての身勝手さとも言うべき性質を突きつけられたような気がした。問いを投げかけ答えを提示しないまま、それでも人々に楔を打ち込むような作品。

(明林堂書店南宮崎店 河野邦広さん)


 第二次世界大戦後、東西に分断されその後再び統一された日本!? 荒唐無稽な設定かと思いきや解消されない格差からくる生きにくさが現代社会の息苦しさと重なる。近い将来の日本はこうなってしまうのか? 現状を諦観していた昇がテロ組織に巻き込まれた事で得た気づきに心が揺さぶられた。おかしいと思ったら考える事を止めてはいけない。肝に銘じたい。

(三洋堂書店新開橋店 山口智子さん)


 東日本と西日本の分断が巻き起こす格差社会という一見大胆過ぎる設定にも見えるが、実は今の社会とその境界線は常に隣り合わせで、いつ何をきっかけに向こう側に足を踏み入れてしまうかわからないくらい生きることの難しさを問われている気がした。

(くまざわ書店錦糸町店 阿久津武信さん)


 大衆の力というものと、国を動かす権力というものの大きさに恐れおののいた作品でした。

(書泉ブックタワー 飯田和之さん)


 第二次世界大戦で日本が東西で国境を分けられてしまったら。やがてひとつの国になるも、東西の抗えない明確な格差。貧困で将来を見通せない東日本の一人の青年、一条昇。彼の動きから目が離せない。現代の日本からすると、「もしも」「if」の世界。それなのに、まるで現実のように展開される事柄が他人事ではなく、最後まで魅了されました。

(文真堂書店ビバモール本庄店 山本智子さん)


 一条の思考を追いかけながら、幸せな世の中にするには何が必要なのかを考え続けて読んでいました。東西に分断された過去がない物語の外側の日本でも貧困や経済格差は広がっていて、物語の中だけで終わらず現実と地続きの問題に、ジリジリと炙られているような焦燥を感じました。貧しい東日本出身で、大学を出ても引越し業へ就職せざるを得なかった、いたって普通の生活を送っていた一条の波乱から目を離せず夢中になりました!

(ジュンク堂書店名古屋栄店 西田有里さん)


 現代の日本の無気力感を想起させる内容は、フィクションであることを差し引いてもどこかで同じような話が進行しているようにも感じさせる。正しくはないが真っ当なことを正義というのならば、その正義の道を目指す誓いの作品だ。

(ブックマルシェ我孫子店 渡邉森夫さん)


■末國善己氏による書評も公開中!


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