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受かる「志望動機」の書き方とは?大切なのは“理解”と“納得”

「採用試験などで必ず聞かれる『志望動機』を書くのに、特別な文才は必要ありません」と話すのは、ウェブ小論文塾代表で1500人以上を指導してきた元NHKアナウンサーの超人気講師、今道琢也さん。では、どのように書けば、試験に合格できるのか? 今道さんが生徒役のもとゆき君に文章の書き方を教えるというコンセプトの著書『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』から一部を抜粋・再構成して、書き方のポイントを解説します。

今道琢也『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』
今道琢也『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』

■志望動機は「主張」を出発点に考える

今道:小論文を書く時は、4つの要素「主張」「理由」「方法論」「具体例」をベースに下書きを作るといいとお話ししましたね。大学入試の志望動機を想定して考えてみましょう。次の問題は、どう考えれば良いでしょうか。

【問題】
本学への志望動機を述べてください(800字程度)。

もとゆき:下書きの初めに置くのは、「主張=私はこう考える」ですね。

今道:ええ、そうです。それが出発点になります。なぜ、この大学を選んだんですか?

もとゆき:もともと、環境政策とか、持続可能な社会とかそういうことに興味があったんですよ。それで総合環境学部があるこの大学は面白そうだなと。だから、「私は持続可能な社会に関心があるので、貴学に入学したい」、これで、最初の「主張」は良いですかね。

今道:はい。とりあえず、それを最初の「主張」として置いておきましょう。

もとゆき:それから、「主張」に対しての「なぜなら=理由」が必要なんですよね。総合環境学部という学部があるので、興味のある分野と一致しているというのが大きかったです。他にはどんなことを挙げれば良いんでしょう?

今道:「なぜこの大学を選んだのか」は、言い方を変えると「他の大学にはない、こういう魅力があるからだ」ということですね。この大学ならではの話があると良いです。ちょっとしたことでも良いですよ。

 大学案内などを見て他に興味を持ったことはないですか? 例えば、こんな先生がいるからいいなと思ったとか。オープンキャンパスに行ってこんなところがいいなと思ったとか。「具体例」を挙げてください。

もとゆき:わかりました。下書きにすると、こんな感じです。

【下書き(1)】
◎志望動機(なぜこの大学を選んだのか)
●私は持続可能な社会に関心があるので、貴学の総合環境学部で学びたい(=主張)。
●貴学には、総合環境学部があり、持続可能な社会について学べる(=理由)。
○具体的にこの学部に惹かれた点
●食品ロスや、プラスチックごみなどについて専門的に研究している先生方がいる。
●学部では、消費行動学、環境法など様々な関連分野の講義が提供されている。
●専攻の決定が2年次で行われていて、少人数制のゼミを導入している点も魅力的。

もとゆき:「方法論」はないですが、いいですか?

今道:今回、答案を読む側は大学の関係者です。その人たちに、なぜこの大学に入りたいかを「納得」「理解」してもらうために答案を書いています。「持続可能な社会実現へ向けての方法論」は、これから研究するわけですから、今の段階でわかっている必要はないですよね。だから、この答案に関しては、その要素はなくてかまいません。

■大学受験では2つの選択をしている

もとゆき:じゃあ、これで下書きは完成でいいですか?

今道:大学の志望理由を書く場合は、答案にもうひとつ大きな要素を入れた方がいいですね。

もとゆき:というと?

今道:実用文では、読み手の「納得」「理解」を得ることが大事だと言いましたよね。この答案では、今挙げてもらったことに加え、読み手としてはもうひとつ「納得」したいことがあるんですよ。大学を受験するときって、2つのことを選択するでしょ。

もとゆき:2つの選択ですか。1つは「この大学を選んだ」ということですよね。

今道:それと、「どの分野に進むか」ですね。

もとゆき:ああ、そうですね。

今道:文学、法学、経済学、理学、薬学、いろいろある中で、ある特定の分野を選択したわけですよね。ですから、「なぜその分野に興味があるのか」を知りたいのです。

「私はこういう理由でこの分野を学びたい」、「そして数ある大学の中でも、貴学はここが良いから入学したい」と、この2つの要素が納得できると、「それであなたは、うちの大学のこの学部に進みたいんですね」と腑に落ちます。

もとゆき:ということは、「主張」のところで出てきた「持続可能な社会」になぜ関心があるのかを、はっきりさせないといけないですね。

今道:そうです。これは「理由」の部分です。この問題に関心を持ったきっかけは何ですか? その部分の下書きを、4つの要素を参考に書いてください。

もとゆき:わかりました。こんな感じになりました。

【下書き(2)】
○「なぜ、持続可能な社会の実現に関心があるのか?」(=理由)
●高校1年生の頃、アルバイトをしていた食料品店で食品が廃棄されているのを見た。そこから、食品ロスについて関心を持つようになったから。
○具体的な行動、関心の中身・社員の方に話を聞いた……消費者が新しいもの、傷がないものを好むから仕方ない。廃棄するのにもお金がかかっているという矛盾。
●プラスチックごみにも関心を持つようになった。
●以上の理由から、持続可能な社会の実現について研究したい。

今道:これで、なぜ、持続可能な社会の実現に関心があるのか、わかるようになりましたね。では、答案にしてみましょう。最初にまとめた「なぜこの大学を選んだのか」という話と、「なぜ、持続可能な社会の実現に関心があるのか」という話を、1つにまとめるとすれば、どちらを先に書きますか?

もとゆき:今の順番で書くのは変ですか。

今道:ここでは2つの選択を書きますが、「まず、高校1年でこういう経験をして持続可能な社会に関心を持った。その結果、環境分野を学びたいと考えた。そこで、大学案内やオープンキャンパスで調べるうちに、貴学に進学したいと考えるようになった」という前後のつながりがあります。こういう場合、採点者側もそのつながりを追いながら読んでいくので、時系列に沿って書いてもらった方が、スッと納得・理解できます。

もとゆき:なるほど。では、「下書き(2)」を前の方に持ってくる形で答案としてまとめてみます。

【完成答案】
 私は、持続可能な社会の実現に向けた方策を研究したいと考えており、貴学は、最適の環境であると考え志望した。
 私が持続可能な社会について関心を持ったのは、高校1年生のときだ。アルバイトをしていた小売店で余った食品が大量に廃棄されているのを見てショックを受けた。私はこのことをきっかけに、食品ロスについて関心を持つようになった。社員の方に話を聞き、食品ロスは店側の問題だけでなく、新しいもの、傷がないものを好む消費者の意識とも深く関わっていることを知った。食品の廃棄はもったいない上に、ごみ処理の費用負担が生じており、大きな矛盾を抱えている。他にも、包装に使われる大量のプラスチックやレジ袋なども気にかかるようになり、廃棄物の問題全般について考えるようになった。いつでもきれいに包装された商品を買えることは便利だが、一方で大量のごみが生じている。このような社会は持続できないのではないかと、考えるようになった。そして、問題を解決する方法について研究したいと強く思うようになった。
 貴学には、総合環境学部があり、持続可能な社会について深く学ぶことができる。総合環境学部には、食品ロスや、プラスチックごみなどについて専門的に研究している先生方がおられるので、ぜひとも講義やゼミを通して多くのことを吸収したい。講義科目を見ると、消費行動学、環境法など様々な関連分野の講義が提供されている。廃棄物の問題は、消費者の意識や法律の問題とも深く関わるため、これらの分野も積極的に勉強したい。さらに、貴学では専攻の決定が2年次で行われる仕組みとなっている。早い段階から専門的な勉強ができる点はとても有意義である。これに加えて、総合環境学部では少人数制のゼミを導入しており、この点も魅力的である。
 以上のように貴学には、私が学ぶ上で理想的な環境が整っている。入学後はこの環境を活かして勉学に励む決意であり、貴学への入学を強く希望する。

今道:良く書けていますね。まず、冒頭で全体として言いたいことを端的に言ってから(主張)、「なぜ、持続可能な社会に関心があるのか(理由1)」「なぜ、この大学を選んだのか(理由2)」と、順番に説明していくと良いでしょう。

 就職の志望動機も同じです。公務員なら「なぜ公務員になりたいか」「なぜこの自治体か」、民間企業なら「なぜこの業界か」「なぜこの会社か」の2つを書くと良いのです。