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クラシックを聞かせるより効果的! 子どもの心を安定させ、能力を伸ばす簡単な方法を元開成校長に聞く

赤ちゃんや幼い子どもと触れ合う経験がないまま親になる人が増えています。そのため、子育てに不安を抱えやすいといいます。 そんな不安にやさしく答えるのは、東大合格者数40年連続日本一の開成中学・高校の元校長で、現在北鎌倉女子学園学園長の柳沢幸雄さん。著書『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』(2018年、朝日新聞出版)でも紹介した、子どもの心を安定させ、能力を伸ばす簡単な方法をお伝えします。

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 たとえば3歳の子どもなら3年間しか日本語を学んでいないわけで、幼稚園児にしても、4~5年しか日本語に触れていません。もし、大人が4~5年しか学んでいない状態で外国語を話せと言われたら、どうでしょう。何かを話そうとする時には、頭の中でいったん言いたいことをまとめなければなりませんから、脳がフル回転するはずです。

 つまり、子どもが話をしているときには頭の中がグルグルと回転しています。脳の働きとしたらこれほど重要なことはありません。

 だからこそ、子どもの力を伸ばすには、とにかく「話させる」。そのために必要なのが、大人がしっかり聞き手になってやることです。

 親が熱心に耳を傾ければ、子どもは安心して話せますし、自分の話が通じているのがわかれば自信が湧いて、もっと話したいと思うでしょう。同時に子どもは、「自分は受け入れられている」と安堵し、良い親子関係が構築できます。

 つまり、脳のためにも心のためにも、子どもに話させることが非常に重要なのです。

 割合としては、子どもが6~7割話して、親が話すのは2~3割で、聞くことを強く意識することをお勧めします。私はそれを「2対1」の原則と呼んでいます。

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イラスト/BONNOUM

 とはいえ、子どもが小さいうちは、まとまった会話が難しいですから、子どもが言った言葉をおうむ返しにするのが良いでしょう。

「お腹すいた」と言えば、「そう、お腹がすいたのね」と言い、「嫌だ」と言えば「そう、嫌なのね」と答えるわけです。一見何気ない会話に見えますが、子どもにとっては、「自分が言ったことがちゃんと伝わっている」という喜びになっているのです。

 その時に気を付けてほしいのが、喃語(なんご)、いわゆる赤ちゃん言葉を使わないことです。

 子どもは、親の言葉を聞いて真似して発音しているのですが、口の動きが未熟なせいで同じようにできません。それが、「でんちゃ(電車)」「ジューチュ(ジュース)」といった赤ちゃん言葉になるのです。

 子どもとしては、電車、ジュースと発音しているつもりなのに、大人のほうが「でんちゃが来たね」「ジューチュ飲もうね」などと言ったら、同じ言葉に関して、二通りの表現があると混乱してしまいます。

 子どもには、分かりやすく正しい言葉をゆっくりかけてあげるのが大事です。

 そして、まだ言葉を発しない赤ちゃんには、意識的に声をかけてあげる必要があります。

 まず、母親の声はお腹の中で10カ月間聞いてきたので、話しかけられると安心します。クラシックを聞かせるより、ずっと効果的です。

 さらに、「おむつを替えて気持ち良くなったねぇ」「ミルクを飲んでお腹いっぱいだね」といった語り掛けによって、赤ちゃんは、今の自分の状況が「気持ちいい」「お腹いっぱい」なんだと覚えていきます。

 語り掛けは一方通行に見えますが、実は、話しかけられたことがきちんと記憶、蓄積されているのです。

「雌伏(しふく)期間」という言葉をご存知でしょうか。これは、実力を養いながら活躍のチャンスを待つという意味で使われていますが、もともとは、鳥が卵を抱いている期間という意味の語です。

 鳥が卵を抱いて温めている時、外からは卵に何の変化も見えません。しかし、卵の中では、どろどろの状態がひなの形になるため、爆発的な変化が起きているのです。そして、時期が来るとひなが内側からコンコンと殻をつつき、母親が手助けして中から出てきます。

 これは、話し始めの子どもと似ています。それまで意味をなさない声を出していただけなのに、ある日、一つ言葉が言えるようになると、次々に言葉が湧くように出てくるのです。

 ですから、赤ちゃん時代には、シャワーのようにたくさんの言葉をかけてやり、片言が話せるようになったら、オウム返しで話すことの自信をつけさせ、もっと話せるようになったら、「話すことが楽しい」と思えるように、熱心に子どもの話に耳を傾けてください。誰でも簡単にでき、なおかつ非常に効果的な方法です。

(取材・構成/松島恵利子)

柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)
1947年生まれ。東京大学名誉教授。北鎌倉女子学園学園長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年、システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授、開成中学校・高等学校校長を経て2020年4月より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。自身も男の子を育て、小学生から大学院生まで教えた経験を持つ。
主な著書に『東大とハーバード 世界を変える「20代」の育て方』(大和書房)、『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』(祥伝社)、『母親が知らないとヤバイ「男の子」の育て方』(秀和システム、PHP文庫)などがある。

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