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貫井徳郎さんによる「人類ダメ小説」の集大成『ひとつの祖国』で提示した「なぜ人間はダメなのか」の答え

 貫井徳郎さんの最新刊『ひとつの祖国』(2024年5月7日発売)は、第2次世界大戦後、日本は東日本と西日本に分断されたという設定の物語です。その後、統一されますが、東西の格差は激しく、主人公である一条昇たち東日本出身者は二等国民扱いされていました。一条は東日本の独立を目指すテロ組織に、意図せず加担することに。一条を追うのは、幼なじみで自衛隊特務連隊所属の辺見公佑。2人の青年の友情が交差する架空の日本が舞台ですが、今の日本の富裕層と困窮層の分断を東西に置き換えたようなリアリティーに満ちています。同書にかける思いを伺った「AERA」24年5月27日号掲載の貫井徳郎さんインタビューを特別に転載します。

貫井徳郎『ひとつの祖国』(朝日新聞出版)
貫井徳郎『ひとつの祖国』(朝日新聞出版)

 貫井徳郎さん(56)の新作は、第2次世界大戦後、共産主義の東日本と民主主義の西日本という二つの国に分断された日本が統一され、30年が経った頃から始まる。主人公は東日本出身の一条昇。統一後の日本は、東日本と西日本の間に根深い経済格差と出身地による差別や偏見が生じていた。

 一条も仕事は非正規社員。生活は苦しく、将来の夢も描けない。しかし、東日本出身者は似た境遇と捉え、格別の不満も持たずに生きていた。

 そんな一条の人生は、東日本の独立国家化を目指すテロ組織〈MASAKADO〉の事件に巻き込まれ、思いも寄らぬ方向へ引きずり出されていく。

 執筆にあたり、貫井さんには二つの着想があった。

「ディストピア小説が好きなのですが、日本のディストピア小説は、東西分割がテーマのものが多い。僕が書かなくても、と思っていたのですが、分断を経て統一された後を描く小説がないことに気づいたんです。それが執筆の一つのきっかけになりました」

 もう一つは、この3年ほどの間、貫井さんが執筆してきた「人類ダメ小説」の集大成になりうる答えを見つけたことだ。「人類ダメ小説」とは、貫井さんが影響を受けた作家のひとり、平井和正さんが自身の小説を評した言葉で、人間に対する絶望感に端を発するストーリーを指す。

「1月に文庫化された『悪の芽』では、なぜ人間がダメなのか、人間がダメなのは、生物としての進化が足りないからだ、という視点で書きました。執筆を終えてからも、進化が足りないとしたら、どう進化したらいいのか、ということをずっと考えていたんです。自分なりの答えにたどり着いたとき、それを小説にしようと考えました」

 一条と対をなす人物に、西日本出身の辺見公佑がいる。一条より恵まれた境遇ながら、幼なじみの親友として、貫井さんが見つけた答えを支える。

貫井徳郎(ぬくい・とくろう)
1968年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。93年、『慟哭』でデビュー。2010年、『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞長編及び連作短編部門、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞受賞。『迷宮遡行』『私に似た人』など著書多数
(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

「手塚治虫先生の『アドルフに告ぐ』のような、仲良く育った2人が最終的に対決する話に憧れていました。以前、『罪と祈り』で挑戦したのですが、登場人物の2人が対決せずに終わってしまったので、今回はそのリベンジです」

 貫井さんはまずタイトルを決め、そのタイトルに向かって詳細なプロットは練らずに書き進める。そのため、予想を超えた行動や心情を登場人物が現すことがあるという。

「単行本化のために読み返したら、僕自身が『そうだったのか』と気づいたことがありました。それが何だったのか、一条と辺見の関係はどうなるのか、といったことも楽しみに読んでもらいたいです」

 本作には一条の人生を左右する堀越聖子や辺見と行動を共にする香坂衣梨奈という魅力的な女性も登場する。貫井さんは、この2人の女性を描くのも楽しかったそうだ。

「とくに辺見と香坂の会話は、僕の小説の新しい面に気づいていただけると思います」

(ライター・角田奈穂子)