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いよいよこのわかりやすさ至上主義、きつくないですか? <武田砂鉄×上出遼平対談>

『わかりやすさの罪』の武田砂鉄と、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出遼平による初の対談。最終回となる今回は、「このままわかりやすさが進んだらどうなる?」という問いを前に、武田と上出があれこれと思考をめぐらせる。

第4回<「テラスハウス」は叩かれ「モニタリング」はウケる…テレビ業界的なものに操られる視聴者たち>よりつづく

*  *  *
上出:ぼくは山に登るんですが、自然ってまったく予測がつかなくて、それこそわかりにくさが凝縮されているんです。山の楽しさって、必要なものを全部自分で背負って、山の中を何時間も歩いて、テントを張る場所を見つけて、寝るところまでこぎつけるという営みそのものなんですね。

 なんですけど、いまグランピングって流行ってて。キャンプ場に立派なテントが用意されていて、中にベッドや暖炉があるんですよ。食材も調理器具も全部準備されていて、給仕がバーベキューを提供してくれるところまであって。

武田:全部お膳立てされているんですね。

上出:そうなんです。それが、すごく嫌なんです。山の中に高級ホテルと同じような状況を作って、「はいどうぞ」って。テレビも同じで、わかりやすく加工された情報がサービスとして提供されて、視聴者は受け取って終わりになってしまっている。1ミリの能動性も求められない。あらゆる場面でそういうことが起きているなと感じるんです。

武田:そうやってグランピング化されてしまった社会を変えるためには、やっぱり破壊しにいったほうがいいんでしょうかね。

上出:どうしたらいいんですかね。

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武田:グランピングを避けることはできると思うんですよ。行かなければいいわけだから。それだと基本的な構造は変わらない。だからといって、グランピングを壊しに行くと、ホントに嫌なヤツだと思われるという。

上出:はははは。

武田:この人、なんでわざわざ壊しに来るの? ということになるんですよね。

上出:こんな素敵なサービス、なんで邪魔するの? ってなりますよね。武田さんに聞きたいことがあるんですけど、このわかりやすさはどんどん進んでいくじゃないですか。選択肢が少なくなって、あらゆるものが二択になっていきますよね。どれだけ武田さんが抗っても。

武田:ええ。

上出:どんな世界が待っていると思いますか?

武田:いやー、どうなんでしょうね、と答えを保留するだけでは、さすがに無責任ですかね。

上出:武田さんも言っているし、ぼくもそうなんですけど、「いよいよこのわかりやすさ至上主義、きつくないですか?」と言っている人が出てきていますよね。もしかしたら、その時代時代にそう言う人はいたのかもしれない。だけど、わかりやすさ至上主義は拡大しているように見えます。これはどこかで頭打ちになるのか、あるいはひどいディストピアにたどりつくのか。

武田:今は自分で選択肢を増やす余裕がないんです。時間的にも、経済的にも。かといって、これから好景気が待っているとも思えない。ますます、選ぶための手間が削られると思います。どうしたらいいんでしょうかね。

上出:楽なほうに流れるのが人間なので、作り手も受け手も互いにわかりやすさに溺れていくのはいかんともしがたい……。

武田:「おかしいな」と思ったら、「おかしい」と言っていくことだと思うんですよ。たとえば散々言われているけれど、毎年夏になると、「24時間テレビ」的なものの罪は大きいと感じますね。

上出:というと。

武田:別の本で書いたことがあるんですが、ある年、番組内の企画で、障害を持つ人が登山に挑んで、残念ながら未登頂に終わった時、総合司会者が「○○さんの頑張りは日本中に伝わりました。皆さん、大きな拍手を送りましょう」なんて言ったんです。それにどうにも腹が立ちまして。だって、悔しいはずなんですよ、登頂できなかったんだから。その人にカメラを向けて、「悔しいです」と言わせない、あの雰囲気。悔しさを表明することすら剥奪されているのかと思ったら、こんなに暴力的なことはないと思ったんですよ。

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上出:『紋切型社会』に書かれていましたね。スイッチを押したように泣き始める総合司会者って。

武田:それって、失礼だし、つまらないじゃないですか。

上出:つまらないですけど、視聴率がいいということは多くの人はつまらないと思っていないということじゃないですか。

武田:ナンシー関さんが、「24時間テレビ」について「どうかと思うところはいろいろあるけど、でも泣かされちゃったから--で口をつむぐのは間違いじゃないか。泣きながら『全然おもしろくなかった』と言ってもいいのに」と。それが大事なんだと。

上出:なるほど。

武田:あの番組を見ると涙が出てきますね。泣きながら、「マラソンランナーが毎年必ず8時にゴールするなんておかしいよ」と言えばいいんじゃないかな、と。自分自身の体感すら疑えばいいんじゃないかな、って。

上出:「泣く=肯定」ではない、と。でもやっぱり泣くんですね(笑)。

武田:だって、企画力のある人が、ツボを知っている人たちが、泣かせるために作っているものを浴びたら、それは泣きます。その後なんです。ある作品を見たあとに、今与えられた感情はなんだったんだろうと考える。そうすると世の中の複雑性に気づいたり、メディアから提供されるものとうまく付き合える場面が、もう少し増えてくるんじゃないかなと思うんですけどね。

上出:スタジオジブリの作品って、読後感としてわかりやすくはないじゃないですか。それなのにこれだけ多くの人に受け入れられているのは、どういうことなんでしょうね。あれはなんなんですか? すごくないですか?

武田:ですよね。『崖の上のポニョ』のデカい巨大魚、『となりのトトロ』のマックロクロスケも、これって一体なんなんだ、のまま放置されている

上出:なのにみんながおもしろいと思えるのは。

武田:本当はみんな、意味不明なものを許容する力があるのに、作り手がそれを勝手に諦めているというか、どうせ、わかってくれないっしょ、と思っているのかもしれない。

上出:子どもは意味不明なものを楽しむ感性が残っているとも言いますよね。

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武田:よく言われますね。絵本の物語を作るのはとても難しく、余白がないと子供がおもしろがってくれない、なんて聞いたことがあります。絵本の名作には、話に飛躍があったり、接続がはずれていたりするようなものが多いと。

上出:それはおもしろい話ですね。

武田:なめてかかるとダメなんでしょうね。

上出:そう考えると、やっぱり教育ですよね。

武田:ですね。

上出:小学校中学校を通して、わからないということに対してすさまじい恐怖心を植え付けられてきた気がします。一つの正解が存在していて、正解をわかっていないことは叱責されるべきことである、という教育になっていますよね。

武田:今日の結論は、教育の見直しと、そして、景気回復ということで。

上出:出ました。そして、武田さんのつぶさな観察眼がヤバかった。ツイッターに上げたちっちゃい動画の端に映っていたものまで見られているとは。

武田:いやらしさ全開でやってまいりましたので(笑)。

(構成/長瀬千雅)

■武田砂鉄(たけだ・さてつ)
1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年からフリーライターに。新聞への寄稿や、週刊誌、文芸誌、ファッション誌など幅広いメディアで連載を多数執筆するほか、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍。9月28日スタートの新番組『アシタノカレッジ』(TBSラジオ、月~金、22時~)の金曜パーソナリティを務める。

■上出遼平(かみで・りょうへい)
1989年、東京都生まれ。2011年株式会社テレビ東京に入社。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全課程を担う。空いた時間は山歩き。