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築地川のくらげ読書感想文

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新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自… もっと読む
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「忘れる脳力」は前に進んでいくために必要なこと。築地川のくらげ、最後のごあいさつ

 記憶力には自信がある。  というより、どうでもいいことをよく覚えている。記憶していたとて、役に立たないような事柄に強い。記憶はいかにデータを貯蔵できるのか。私の価値はそこにあった。暗記勉強の副作用だろう。なんでも必死に詰め込んで生きてきた。  こんな記憶がある。  3年前、はじめて築地市場の向かいにある朝日新聞出版を訪れたのは年末最終日、仕事納めの日だった。すぐ別室に通されたため一瞬しか目にしなかったが、どの席にどんな人がいたか。今も脳裏に浮かぶ。そう書くとえらく鋭い観察

「シン富裕層」が去っていく国、ニッポンの行く末を憂う【築地川のくらげ読書感想文】

 世の中には各種様々な「層」が存在する。興味をそそる「層」といえば関東ローム層。その次が富裕層。ちょっと種類が違うが。一生のうち一度でいいから富裕層の一員になってみたいものだ。ま、なれないでしょうけど。そりゃ簡単にはなれません。富裕層はなにかと反感の対象にもなってしまうが、生まれながらの富裕層ならまだしも、ここにたどり着くにはそれなりの知恵と努力もまた必要になる(悪知恵でにわか富裕層の仲間入りをする不届き者もいるが)。生まれながらの富裕層だって、それを維持、発展させるのは容易

歴史の違和感からはじまる中世の沼にようこそ 指の隙間から鑑賞する「鎌倉殿の13人」の先へ

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も後半に差しかかり、毎週嬉々として三谷ワールドを満喫する方と、あまりに主要人物が不幸な最期を遂げ、退場していくので、鬱に感じる方がいるだろう。これほどまで「闇落ち」という言葉がネットを賑わせる大河ドラマは記憶にない。  江戸幕府末期、明治維新を描いた作品では未来に思いを馳せ、そのために命を散らす登場人物の悲劇が多く、ドラマのなかに共感できる人物を見いだせなくなりがちだが、中世はそんな幕末とは比にならない。なにせ毎週のように主要人物が権力闘争に敗

不動産の未来予測でみえた思考のアップデート ヒントは獣神サンダー・ライガーと寅さんに…

 東京南部に位置する港湾エリアはかつて灰色だった。これがくらげの記憶だ。東京湾を囲む防波堤のような工場群、高いブロック塀が張り巡らされ、その向こうではどんなものが作られているのかわからない。街には作業着姿の男たち。色がない街だった。コンビニ1、2号店がこの街にあったのは、工場群の需要のおかげで、決して最先端ではなかった。どことなく暗く、記憶の中の空は垂れ込めるぶ厚い雲ばかり。一刻も早く、この街を出たかった。くらげには生まれ育った土地を思う、郷愁という言葉はない。  あれから

祝・週刊朝日100周年! 雑誌が担う史料としての価値を改めて

「週刊朝日」が創刊100周年を迎えた。100年前はまだ生まれる前なので、まずはどんな年だったのか調べてみた。ファクトチェックは欠かせない。事実を知らねば真実にはたどり着かない。 ●カナダで糖尿病患者に世界初のインスリン投与  インスリンは前年1921年フレデリック・バンディングによって犬の膵臓から発見。初投与の際は牛の膵臓から抽出したインスリンが投与された。 ●第1回ラグビー早慶戦開催  出身は早稲田でも慶応でもないので、改めて調べると、1901年柔道、1903年野球

「鎌倉殿の13人」必携副読本『頼朝の武士団』が伝える、想像力なき現代にあえて問う、武家政権黎明期の空気感

 今年の大河「鎌倉殿の13人」は中世、鎌倉幕府成立前から安定期に至るまでを三谷幸喜氏が描く。同氏で13人といえば、「12人の優しい日本人」だ。一人少ないけど。映画にもなった傑作。一度ご覧ください。約20年前、演劇青年だったくらげ、東京サンシャインボーイズにも影響を受けまくった。「ショウ・マスト・ゴーオン~幕をおろすな」はDVDを今もたまに観る。 この世代、ほぼ全員が眉間に人差し指をあて、不敵な笑みを浮かべ、古畑任三郎のモノマネを練習した、いわば三谷世代。大河ドラマでは作中の

「なぜ、穴を見つけるとのぞきたくなるのか?」子どもの素朴な疑問に学者が本気でこたえた本【築地川のくらげ読書感想文】

 寄せてはかえす波のように凍りつくほどの寒気にさらされる今日このごろ、穴を見かけたら、なんとか入って冬眠できないものかと本気で考える。暑いのも寒いのも勘弁。ああ、日本には四季があってよかった。それなのに未来は春と秋がなくなるかもしれないという。お願いですからやめてください。  穴といえば、最近手にした本に『なぜ、穴を見つけるとのぞきたくなるの?』というものがある。いまどきの都会には穴なんて滅多にない。ホントにのぞくのか。ためしに自宅の駐車場に穴を掘り、子くらげがどうするか実

【垣根涼介『涅槃』を読む】宇喜多直家から現代に通ずる“複雑世界の歩み方”

 新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフである築地川のくらげが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自由に展開する予定だ。今回は、垣根涼介著『涅槃』(上下巻/朝日新聞出版編)を嗜む。  宇喜多といえば、関ヶ原で西軍に属し、主力として福島正則隊と激戦を繰り広げ、戦後に八丈島へ配流された戦国大名と、だいたい秀家を想像する。しかし、中国地方の複雑な権力争いのなかで、没落した宇喜多家を

「ウィンドウズアップグレード問題」で思い出す「ウィンドウズ95」という時代の先端に立ったが故の悲哀と、二の足を踏むもうひとつの理由

 新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフである築地川のくらげが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自由に展開する予定だ。今回は、アサヒオリジナルムック『パソコンで困ったときに開く本2022』を嗜む。  PC端末普及のきっかけといえば、ウィンドウズ95の発売だろう。空色のパッケージに窓マークが家電量販店の店頭を賑わせた景色は懐かしい。くらげはまさにそのタイミングで大学に入学、P

トイレの世界地図から次への到達点に最適?  わが人生の悔恨と未来ある子どもたちに伝えたい、知識の身につけ方

 新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフである築地川のくらげが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自由に展開する予定だ。今回は、朝日ジュニア学習年鑑別冊『絵で見てわかる!世界の国ぐに』(山口正監修/朝日新聞出版編)を嗜む。  はい、地球儀があります。世界には、約200の国があります。すべて言えるという方、連絡してください。日本も世界から見れば、そうとう不思議な国のようですが、

「嘘をついて、ごめんなさい。助けてください、閻魔様」助かりたいならこの一冊で地獄を学べ

 新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフである築地川のくらげが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自由に展開する予定だ。今回は、朝日選書『ようこそ地獄、奇妙な地獄』を嗜む。  長雨に祟られ、曇りがちな日も多かった夏。いうほど暑くはないなんて声も聞こえるが、くらげにとっては変わらぬ酷暑。地獄の釜のような海面に耐えられず、しばらく深海に身を潜めていました。秋が来ました。ご無沙汰し

今年もやってきた関ヶ原の季節…「東西、どちらにつくべきか」調略とびかう夏こそ読みたいこの一冊!

 季節はいよいよ「関ヶ原」の夏を迎える。SNSの世界では石田三成が西軍への勧誘活動を活発化させる。ポストをのぞいたときに三奉行が書いた「内府ちかひ(違い)の条々」が届いていないかと無駄に胸騒ぎがする。  いや、いまどきは文書を送るわけがない。もう時代は令和だ。メールにちがいない。では差出人が東軍の井伊直政や黒田長政だったら、どうすればいいだろうか。開封すべきかゴミ箱にひょいとするか。もしも圧縮ファイルが添付されていたら、ウイルスを疑い、解凍はためらうだろうか。だいたい面識の

「いくら似てようが、パンダに敵うわけがない」上野のアイドル・シャンシャン

八兵衛「くらげよ、聞いたか? 上野のお山のパンダが双子の赤ちゃんを産んだってよ」 くらげ「おお、そいつはめでたいねぇ」 八兵衛「パンダってのはお前さんとこと違って、ずいぶんと子づくりが大変だっていうじゃない」 くらげ「はっつぁん、俺んちのかかあと比べちゃいけねぇや。そういやーよ、あれ、中国に帰ったんだっけか、ほら、この前生まれたパンダ、シャンシャン。中国に帰(けぇ)るんだろ」 八兵衛「シャンシャンはまだいるよぉ」 くらげ「おおそうかい、まだ上野のお山にいるのかい? ありゃ、じ

真夜中のファミレスでだれにも言えない悩みに耳を傾ける鴻上尚史という存在

 新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自由に展開する予定だ。今回は、『鴻上尚史のますますほがらか人生相談』を嗜む。  真夜中のファミレス、窓際のボックス席。こっそり好意を抱いていた女性から、妻子ある男を愛してしまい、もう立ち止まることができないと相談される。答えに詰まり頬張ったフライドポテトとぬるいコーヒーの苦み。窓を叩く雨音。もう20