見出し画像

泳げない海への夢 ~北海道からの沖縄移住記 2021年3月~

 私の車の後部座席は、テントや釣り竿、焚き火のために集めた流木など、外遊びの道具でいっぱいだ。そして新たに、北海道を出る時に父がくれた膝までの長靴を常備したことで、着替えが無くてもいつでも浅瀬に入っていけるようになった。

 最近は磯の観察が楽しくてたまらない。ある日は、天然の水族館のような干潮時のリーフで、泳ぎ回る魚やシャコを上からじっくり観察した後、好奇心がおさまりきらずそのまま美ら海水族館に行って、先ほど見た生き物たちを水槽の中に探した。浅瀬にいる毒のあるクラゲや貝の解説も、しっかり読む。美しい場所には、命を落としかねない危険が同時に存在する。知れば知るほど、管理された海水浴場でもない限り、裸足にサンダルなどでは海に入れなくなる。釣りを始めたこともあり、私の車には新たにライフジャケットも加わった。

 海に潜って魚を取っていた友人の話から、素潜り漁師の動画を見るようになり、今度は素潜りが気になっている。私は泳ぎが苦手で、足がつかない所までは行けないのに、だ。酸素ボンベを背負ってのダイビングもやったことがない。何年も前に、「あなたは何がしたいの?」と問いかけてきた、年上の女性の声を思い出す。そんなのわからないよ、私も自分に対してそう思っているんだから。ただ次々と興味がわいてきて、手探りでも飛び込んでみるのをやめられない。これが私を動かすエンジンなのだ。

 沖縄には、全国から、世界から旅人や移住者がたくさんやってくる。永住する人もいるが、色々な都合で去っていく人も多い。二年半前にやってきて、留まり続けている私は今のところ、去っていく人たちを見送る立場だ。この春に、たくさん楽しい時間を過ごし、たくさんのことを教えてくれた友人が、二人も去ってしまう。

 十八時半に仕事から帰ってきてもまだ明るく、徐々に暖かくなってきた。もうすぐ海に入れるようになる。飽きるどころか年々沖縄に夢中になっていく私が、彼らのようにここを去る日は来るのか。今は、素潜りができるようになるよりも可能性の低いことのように思える。

あさひかわ新聞2021/3/16号「沖縄移住記29 果報(カフー)を探して」掲載

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?