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ゴーサイン ~北海道からの沖縄移住記 2020年12月~

 過ごしやすくなった十一月、沖縄生まれの友達にキャンプに連れて行ってもらったら、すっかりはまってしまった。大人になってから初めてのキャンプは、本島最北の国頭村の静かな浜辺。ちぎれ雲の浮かぶすばらしい夕陽の中、地域の子どもたちが服を着たまま、高い波と取っ組み合いをするみたいに遊んでいるのを眺めながら、火をおこしてお肉を焼き、ビールを飲んだ。そういえば、雲の多い不安定な空ほど夕空が美しいということは、沖縄で学んだ。そのまま日が沈み星が出て、暗い海の中に砕ける波だけが白く浮かびあがる様子を新鮮な気持ちで見た。蚊もいないし寒くもない。沖縄のキャンプシーズンは冬のようだ。

 頑丈な壁や屋根や、電気すらなくても生活はできる。家に帰る時間を気にせず一日中大好きな自然の中で過ごして、ごはんを作って食べ、空のすぐ下で眠れる。キャンプはそういうものと知っているのと、実際にやってみるのとでは全然違う。キャンプは、沖縄の海辺で過ごす醍醐味を倍増させてくれるのと同時に、いつでもどこでも生きていける知恵と自信をくれるのだ。私は初キャンプから一週間で自分の道具を揃え、翌日曜には、真逆の県南部に位置する八重瀬町で張ったテントの中から、一睡もできなかった目ですばらしい朝日を眺めていた。自分の家でなくてもぐっすり眠れるようになることが、目下の私の課題だ。

 沖縄生活二年目であり、二十代最後の今年は、正社員になり国家試験を受けたり、シュノーケリング・キャンプ・ランなど、今までの自分がやらなかったことをたくさんやってみた年だった。友だちが少しずつ増え、季節の流れをつかみ、のびのびと自由に過ごせるようになってきたのだと思う。

 沖縄に来てから初めての車検があった。要らないものを譲り合う仲介サイトを通して十七万円で手にいれた古い軽自動車は、二年乗れれば十分だと思っていたけれど、難なく車検をパスして余裕の表情だった。まだまだいけるんじゃない?愛車にゴーサインを出してもらった気がして調子に乗った私は、見える世界をもっと広げたくて新しい年を心待ちにしている。

あさひかわ新聞2020/12/15号「沖縄移住記26 果報(カフー)を探して」掲載

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