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道に内臓が落ちていた時の話



内臓が落ちていた。何かの小動物の内臓だけが丸ごとポツリと

 同時、小学生だった僕にもそれが異常な事態だとすぐにわかった。触ることはできなかったが近所に落ちていた内臓は強烈に印象に残った。

 周りの大人に話してみてもだれも真剣に取り扱ってはくれなかった。同級生に話してみても信じてはもらえなかった。しかし、確かにあの場所に内臓は落ちていた。

 不可解な点はいくつかあるが仮説を立てた

・動物のしわざ説
・内臓ではなかった説
・何者かによるいたずら説

 当時の僕の発想ではこの三つしか浮かばなかった。

 まず動物のしわざ説から検討した。内臓が置かれていた場所は僕が近所の野良猫に餌を与えていた所だった。しかし、動物にとって内臓は最も栄養価が高く皮だけを食べて内臓を食べ残すことは考えにくい。そもそも内臓だけ丸ごと綺麗に取り出すことなんてできるのだろうか。仮に吐き戻したと考えてみてみよう。消化される段階で皮だけ先に溶かされ内臓だけが吐き戻されたという可能性はないだろうか。いや、これはない。内臓はむしろ消化されやすい部位であり、吐き戻すなら分解されにくい皮の方だからだ。

 では、内臓ではなかったという説はどうだろう?この説は1週間後に打ち砕かれた。

 再び同じ場所に同じように内臓が置かれていたのである。大きくなるでも、小さくなるでもなく鼠サイズの内臓がポツリと置かれていた。

 僕は再び起こったこの事件に興奮し、仕事から帰宅した親にこの事を告げた。親の手を引き現場を見せるが既にその時には置かれていた内臓は跡形もなく消えていたのである。

 これは後から動物が来て食べてしまったのだろう

 親はこの事件に対して、なんの興味も持たなかった。大人にとって近所に落ちている内臓のことより気にしなければいけないことは山ほどあるらしい。

 最後に人為的に行われたいたずらという説はどうだろう。これは最も恐ろしい話で、近所に小動物の内臓を綺麗にくり抜いて目立つところに配置する不審者がいることを示唆している。
 少なくともそのような不審者がいるという話は聞かされていなかったし、まるで目的がわからなかった。

 しかし、この場所に足を止める大人は限られている。僕が猫に餌をやっていると稀に通りかかる犬の散歩をしているお姉さんだ。

 僕が餌を与えている猫は犬が来ると物凄い速さで逃げ出してしまう。それが例えお姉さんの小型犬であってもだ。

 お姉さんは猫が散ったことを申し訳なさそうに詫びながら僕に猫の餌を分けてくれる。

 代わりにこの餌を与えておいてとカリカリを小分けしたものをいつもくれる。当時の僕は、なんて親切な優しいお姉さんなんだろうと尊敬したものだ。今になって思い返してみればあれはドックフードだったに違いない。猫にドックフードを与えてはいけないことくらい犬を飼っているなら当然知っているだろう。

 なぜお姉さんがあそこまで強烈に猫を嫌っていたのかは未だにわからないが根が深いのはどうやら確からしい。お姉さんは猫好きなんかではなかった。

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