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Hans Joachim Roedelius "Momenti felici"レビュー

どうも、書くことがないわけでもないけどめんどくさくて、あんまり更新してなかった私です。今回はCDのレビューをしていきたいと思います。結構長いのですが、まあ、のんびり読んでいっていただければと。

Hans Joachim Roedeliusとは


そもそもアーティストを知らない方も多いかと思いますので、そこから説明していきたいと思います。ハンスヨアヒムレデリウス、と読みます。ドイツ人の方です。1934年、ベルリン生まれ。現在86歳のおじいさんでありますが、まだ現役で音楽活動をされており、去年も新作を発表していました。恐ろしいほどの創作意欲の持ち主です。ジャンルとしては、クラウトロック(1960年代後半から70年代後半にかけてドイツで起こった実験ロックのムーヴメント、電子音楽やミニマルミュージックの手法を取り入れることによって後のテクノ等のクラブミュージックに大きな影響を与える)や、アンビエント、エレクトロニカ等の電子音楽が中心です。音楽活動自体は1968年にKluster(いわゆるKのクラスター)を当時zodiak free arts labというベルリンのアングラ実験音楽集団にいた、CONさんことコンラッドシュニッツラー(後にtangerine dreamに参加後ソロで活動)やディーターメビウスと共に結成しアルバムを二枚発表。その後「もっと硬派な実験音楽がやりたい!」というCONさんはKluster名義で活動を続けようとするが、もっと普通の音楽をやりたいレデリウスとメビウスが脱退し、Clusterというユニットを結成。アルバムを六枚ほど(ブライアンイーノとのコラボを含めれば八枚)作ったのちに音楽性の違いから解散。その後はそれぞれソロとして活動したり時々クラスターを再結成したりして今に至る、という具合です。しかしCONさんは2011年に、メビウスは2015年に故人となっており、レデリウスは現在生きている唯一のCluster、Klusterの元メンバーということになります。長生きしていただきたいものです。
ちなみにクラウトロック以外の側面だと、アンビエントというジャンルの先駆者(というか”アンビエント”という言葉を作ったブライアンイーノに電子音楽を教えたので始祖と言ってもいいくらい)であったり、90年代後半にはP-MODELの平沢進、小西健司とコラボしていたりなどあまり知られていない気がしますが、電子音楽界の重鎮の一人と言っても良いような方であります。
(関連:https://www.nicovideo.jp/watch/sm1266996平沢さんらとのコラボで来日した際の映像)
ソロでは持ち前の穏やかさを生かした非常に牧歌的な癒しの電子音楽の作風が目立ちます。

Momenti felici レビュー

さて、前置きが長くなりましたが、レビューの方に入りたいと思います。どうでもいいけどジャケットが平沢進の救済の技法と似てr...何でもないです。
レデリウスのソロ作品は基本的にアンビエント+エレクトリックピアノの多重録音というスタイルが多いのですが、(特にソロ初期)今回のアルバムはエレピではなく、普通のピアノ(音色はコルグのSGのような固めの音)と一部の曲に共作者としてAlexander Cjzazkというサックス奏者が加わっています。このCjzazkという人物、正直情報があまりないため、詳しくは分かりませんがyoutube の音源を聞く限り、電子音楽+サックスのスタイルで活動しているようなのでレデリウスとどこか馬が合う部分があったのかもしれません。
ちなみにMomenti felici というのはイタリア語で”幸せな瞬間”という意味だそうです。何故イタリア語…。
では一曲ずつレビューしていこうと思います。

一曲目 IM FRÜHTAU (初露の中で)

←実は今調べて知りました。
ちなみに曲名は基本的にドイツ語。アルバム名イタリア語なのに、もうぐちゃぐちゃですね。
このアルバムを象徴する一曲です。優雅なビアノの響きとミニマルなベースがフェードインしたのち、上品なアナログシンセのリード音がメインの旋律を奏でます。シンセは音的にARPのsoloistやrolandのSH-1000あたりのオルガンの上に乗っけるために作られたタイプのシンセな気がします。しかし注目すべきはこのシンセの表現力!おそらく音量つまみをうまく操作しているのだと思いますが、強弱の付け方が非常にうまい。この操作一つによって無機的になりがちなこの手のシンセの音がクラシカルな雰囲気になじめるような有機的な楽器の音に生まれ変わっているように感じられます。曲自体はとくにこれといった展開もなく淡々と優雅に進み、終了します。いわゆるサビとか、前奏とかみたいなものはありません。決められたフレーズ以外はほぼ即興みたいな感じです。これは基本的にアルバム全体に共通していて、あまりはっきりとした展開はありません(一曲を除く)。しかし優雅な雰囲気のお陰で、あたかもエス系の百合映画のサントラのように感じられます。ほら、甘い匂いと、「お姉さま!」という声がどこからか聞こえてk(すみませんでした。

二曲目Leicht Zu Fuß(徒歩で簡単に)


朝教室に着いて、そういえば今日の一限目は何だっかかしら、とど忘れをしてしまった。ああ、数学。私の一番苦手な教科。全く嫌になってしまう。あれ、こんな時間に誰かがピアノを弾いてる。この時間に音楽が入っているのは露組、Kお姉さまのクラスだわ。するとこの甘美なピアノはお姉さまのピアノ。ああ、できることなら私もピアノの鍵盤になってお姉さまの象牙のように美しい御指で弾かれたいわ。でも他の子にも触られるのは嫌。お姉さま専用のピアノでいたい...。(音楽室の方を見ているうちに先生に指される)あっ、先生、違います。私寝てなんかいません。(じゃあこの方程式の解がいくつあるか答えてみろ、と言われる)あ、その...分かりません。(くすくすと周りの生徒に笑われる)

そんな感じの曲です(?)。百合感がすごいんですよねこのアルバムは。お嬢様の香りが凄まじい濃度で混入してるんですよ。冗談抜きで。ちなみにこの曲からサックスが混ざってきます。

三曲目Anima Mundi(アニマ ムンディ)

アニマムンディってなんだよ、って思ったので調べたのですが、正直この曲のどの辺がアニマムンディなのか筆者にはわかりません。しかし、今までと雰囲気が違うのだけは分かります。何か不吉な感じ。そう、それはまるで少女漫画にありがちのお嬢様学校での厳しいスクールカーストによるいじめのような陰湿でキツい雰囲気なのです。主人公は果たしてこの壁を乗り越えられるのでしょうか。(すでに何か別の壁を乗り越えてしまった筆者)

四曲目Über den Wolken (雲の上)


この曲だけアルバムの中で作風が違います。正直収録するアルバム間違えてるんじゃないかってくらいに作風が違います。具体的には、エレピ中心のアンビエントで、今までの硬質なピアノやサックスは見る影もありません。実はレデリウス氏の普段の作風はどちらかというとこちらに近いので、むしろ通常運転にもどったという方が正しいのかもしれませんが。和風庭園の池を思わせるような、静かでひっそりと、淡々とした曲です。霧がかかったようなシンセの音やフルートを思わせるリード、裏で聞こえるギター?か何かをつま弾く音(チェンバロのようにも聞こえますが多分これもシンセでしょう)などが丁寧に重ねられています。淡々とすすみ、フェードアウトして終了。
次の曲が「目覚め」というタイトルですから、この曲はもしかすると夢の中の情景を表しているのかもしれませんね。

五曲目 aufgewacht (目覚め、過去分詞なので正確には「起こされた」というのが正しいのかも)

硬質なピアノが戻ってきます。じゃっじゃーん じゃじゃじゃーん じゃかじゃかじゃじゃじゃじゃん(以下略)とかなりベロシティ強めのピアノが、小学校の音楽の時間の号令のような具合でがなり立てます。しかも途中からデジタルディレイがかかってよりごちゃごちゃしていく!!!正直これはうるさい!!!!「○○!!!早く起きなさい!!!!!起きなさい!!!!!」とお母さんが朝から怒鳴っている感じなのでしょうか。しかしそのうるささに反してフレーズ自体は妙に優雅な感じっていう…。変な曲です(直球)。

六曲目 Capriccio(狂想曲、気まぐれ ※イタリア語)


うおおおお!空間の広がりと優雅なピアノのアルペジオに、ミツバチのような甘いシンセが響きます。これはこれで素敵。サックスはいませんね。このトラックはパンの振り方がとても凝っていて是非ヘッドホンや大きめのコンポ等で聴いてほしいです。特にこれと言った展開はなく2分半ほどで終了。

七曲目 Guten Morgen(good morning)


この曲ではしばらく出番がなかったサックスがここぞとばかりに、前面に出てきてます。個人的にこの曲、イントロのサックスのフレーズがおっさん臭くて実は好きでなく、また全体的にサックスの主張が強くて、ちょっと敬遠してしまいますね…レデリウスのピアノは相変わらず優雅で素敵なのですが…

八曲目 Am Weiher(池で)


全体的に暗いですね。夕暮れを想起させる雰囲気です。ここでは男性のコーラス(レデリウス氏なのかczazk氏なのかは不明)がフィーチャーされて、ドイツの暗い池のほとりで憂鬱にふける紳士、という情景が浮かんできます。なかなか内省的で、これもある意味アンビエントなのかもしませんね。

九曲目 Pas De Deux(パ・ド・ドゥ)


パ・ド・ドゥって何?ってなったのですが(字面から明らかにドイツ語でない)調べてみたら、バレエの用語みたいで,男女でペアを組んで踊るパートのことで、バレエ戯曲のなかでもっとも盛り上がる場所になりやすいとのこと。百合ではありませんでしたごめんなさい。でも、ほら、他の曲は百合かもしれないじゃん…ね…(最後まで自分の趣味を押し付ける駄目オタク)。
肝心の曲の方ですが、八曲目と同じような暗い雰囲気。出だしなんかはBTTBの頃の坂本龍一を思わせるようなピアノですね。映画音楽感があります。それに合わせて、サックスが参入。今度は控えめになっていて丁度いい感じです。本曲も、今までの多くの曲と同様、あまりはっきりとしたフレーズは登場しないままのですが、最後に(やや強引に)ほとんど別の曲とクロスフェード!!急に明るい雰囲気に戻ります。これ、無理やり過ぎでは?って感じもありますが、それもまあ、味なのでしょう。というわけで、アルバムはハッピーエンドでおしまい。

総括

全体としては、あまり目立った展開の少ない作風のわりには、飽きないように、曲の長さや、雰囲気の明暗などを使い分けられていて、聞きやすいかと思います(最後の曲のクロスフェードはちょっとアレですが)。ネット上だと、レデリウスのソロ作品は甘ったるくて良くない、などという意見も見られますが、個人的にはこの甘さこそが良さだと思います。耽美趣味をお持ちの方であればなかなか刺さるシロモノではないかと。中古盤だと結構お安いですし(私は某ディスクユニオンにて400円(⁉)で購入)、ぜひ手に取っていただきたいと思います。ではでは。
追伸:spotifyを見ると、どうやらリマスター?版ではボーナストラックが三曲追加されているようですね。ただどうもこの時期の未発表曲らしく、作風が本作よりも他のソロアルバムに近くなっているので今回は省きます。悪しからず。



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