俺独自のゲームワールド[俺独ゲー]1-4

 ゼンじいに呼ばれて入った木の上の小屋は意外にも広く、約32畳くらいの広さで、真ん中に囲炉裏があり、少しぽかぽかしていて居心地がいい部屋だった。
和風な家なので、とても俺には馴染んでいた。ゲームワールドにも日本建築があるんだなとしみじみ感じた。
「どうしたんじゃ?そんな感慨深い顔して。」
「いや、故郷に似てる建築で感動したんだよ。おっ!しかも畳になってるじゃん!落ち着く〜。」
「畳を知ってるということはタテッホの出身かえ?」
「タテッホ?どこそこ?」
「タテッホは南の海に浮かぶ島国にある街の事じゃよ。島国の名前はヒノマル。ちなみにわしの故郷じゃ。」
「(絶対に日本がモデルじゃん……)へー……。でも俺はそこの出身じゃないや。」
でも日本がモデルになってるヒノマルにもいってみたいなー。現実にはいない侍とか忍者もみたいし。
「そうか?じゃあちょっと荷造りをするから茶でも飲んで待っててくれぃ。」
「まさか茶まで飲めるとはな…。」
ずずずずず……。

2時間後……。

「いやいつまで待たせてんだ!!どこがちょっとだよ!もう2時間くらい待ってるんだけど!?」
「いや、すまんのぅ、いつも荷造りに時間がかかる事を伝えてなかったのぉ。まだあと1時間くらいかかるんじゃが、先ににわとりもどきと一緒にハマリングに行っててくれんか?」
「え?いやいいよ。それぐらいなら手伝うから。」
「いや、手伝うようなことじゃないんじゃ。」
「コォン。」
「ん?何だ?にわとりもどき?」
「コォーン、コォン。」
にわとりもどきは何かを訴えている。なんだろう?
「おーいゼンじい、にわとりもどきがなんて言ってるか分かるか……、、、」
ゼンじいは小屋の奥で正座をして目を瞑っていた、誰かの写真を前にして。
「あれは……」
「コォーーン……」
「もしかしてあの写真に祈るから時間がかかるってことか?」
「コォン。」
あの写真は誰か分からないが30代くらいの黒髪の男性の写真だった。行方不明なのかもうこの世にはいないのかは分からない。それでもゼンじいにとって大切な人だったのだろう。ゼンじいの目には涙が溢れていた。
どすん。
「ん?どうしたんじゃ?先に行ってていいといったじゃろ?ほれ、にわとりもどき、ハマリングに案内を……」
「俺も一緒に祈るよ。」
「……」
「俺はこの写真の人の事を何も知らない。名前も、好きな食べ物も、話した事だってない。知ってる事といえばこの顔と、ゼンじいが祈る程大切な人だって事だ。理由はそれだけ、だから祈る。」
「そうか……………………ありがとよ。」
そう言ってゼンじいはさっきより一層涙を流した。
10分程祈り、ゼンじいが口を開いた。
「もういいぞ、ありがとうな。」
「え?もういいのか?1時間って言ってたし、もっと時間かけてたっていいけど。」
「いつもはわし一人で祈っていたからなぁ、今日は二人だったから奴も喜んどるはずじゃ。」
「この人は……」
「こいつはわしの息子じゃ。魔王軍の奴らに街を襲われた時に死んじまったんじゃよ。」
「魔王軍…」
「こいつは親不孝者よぉ、親の身代わりになって魔王軍の攻撃を受けるなんて、わしの方が生きとるんじゃからわしが身を張った方が良かったというに。」
ゼンじいの言葉だけだと死んだ息子を叱っているように聞こえるが、そうではない。その時自分が息子の身代わりになれたらよかったのにと言っているのだ。
「そんな事ないさ。ゼンじいのことを守りたかったのは命張るほど大事に思ってたって事だよ。ゼンじいと同じで身代わりになろうと思うくらい。」
「そうか……。」
「コォン。」
ゼンじいは会ったときは明るく振る舞っていたが、
この世界では魔王軍に殺されている人々がいる事も分かった。俺の力じゃ魔王は倒せないだろうけど、こうやって苦しんでいる人の支えになれたらいいなと思った。
「さて、今度こそハマリングの街へ行くぞ。」
「ありがとう。じゃあ、案内お願いします。」
大樹を降りて、ハマリングの街に行く。ゼンじいが自分から話したがるまでは息子さんのことはこれ以上聞かないことにした。しばらくしてさっきの看板のところに着いた。やっぱりさっきみたいに、
「ねこめひえのめにてにてひとねひてえそてしてのこておこねゆたそてこえこてきおねひなねはててそお」
バグってる。
「なあゼンじい、これなんて書いてるか分かる?」
「うぬ?何じゃこれは?どうなっておる?誰か落書きしおったな?」
ゲームのバグ、ゼンじいにも分からんのか。
てっきり俺だけバグって見えてるのかと思ってたな。
「どうなってるん……!?!?なんじゃ!?」
「どうした?……………!?!?」
「コォン?!?!?!?!」
なんと突然看板ごと消滅したのだ。先程倒したバウラドッグのように光に包まれて。
「どういう事じゃ!?なぜモンスターのように消えたのじゃ?」
「あのバグのせいか?」
「意味が分からんのぉ、じゃが別に被害があるわけもなし、看板が消えてもハマリングの街の方角は分かっておるわい。あとで村長にも看板が消えた事を言っておくか。」
「あ、ああ。」
ひとまずはハマリングの街に行く事を優先する。ゼンじいの言う通り特に被害は出てないので何ともない。
このまま道なりに進んでいけばハマリングの街だ。俺がこのゲームワールドに着いてから初めての街だし、どんな街か楽しみだなぁ。
道中、ゼンじいと話しながら歩いた。息子さんの事を楽しそうに話していた。さっき一緒に祈ったからか、気持ちが明るくなったのかもしれないな。
「ドオオォォォォーーーン!!!!!!」
「な、なんだ!?」
近くの平原に何か大きな音が鳴った。そっちの方角を見ると、なんとでっかい岩のモンスターがいた。でっかいといっても5メートルくらい。
「あれはゴーレム!?何でハマリングの街付近に出現しておるんだぇ!?」
「ええ?!?あいつっていつもこの辺にいるモンスターじゃないの?」
ここら辺にいるのはせいぜい10レベル位までだ。
「規格外じゃよ!あれはかなり先にある王都エザーサンの近くに出現するモンスターで平均レベルは40!」
「うええ!?やばくねぇ?バウラドッグが23だったから2倍くらいの強さかよ!早く逃げな……」
ブゥン
「へ?」「はぇ?」「コォ?」
そのゴーレムが突如消滅した。
「あ、ちょっと待って。あの人がやったのか?」
俺が指差したところには水色の長髪に優しい顔立ちの30代くらいの男性がいた。その人がやったと思った理由は、ゴーレムの近くにいたのがあの人だけだったのと、手から虹色の光が出ていた事が原因だ。すると、
「おやおや?こんにちはこんにちは!お怪我はありませんか?」
そう言って話しかけてきた。
「え?あぁはい。助けていただいたお陰で怪我一つしていませんよ。ありがとうございます。」
「いえいえいえ。私はゴーレムがちょうど落ちて来たので消しただけですよ。」
「うぇえ!?落ちて来たのを消した?どうやって?」
「それは企業秘密ってやつでーす。」
何だこの人は?怪しいのと強いってことしか分からん。
「私は追手から逃げてるとこなのでさらばでーす。」
「は…?!展開が早すぎる!!」
そう言って走っていった。
「何だったんだあの人……、なあ、ゼンじい。……ゼンじい?どうした?」
ゼンじいが口を開けて真っ青な顔で今の青年を眺めていた。すると、
「今のは、時空じゃ。」
「は?どういう事?」
「時空の魔人。カラルト・バルクライじゃ。」
――――時空の魔人 カラルト・バルクライ、
彼は20人の魔人の中でNo.1と呼ばれる最強の存在。
それが―――
「いや〜、追手に追われてはるばるハマリングの街に来たけど、まさかあんなところで
…………
特殊能力持ちを見れるなんてね。今後の活躍に期待期待〜。」
そう言いながら笑顔で去っていった。

1-4 完

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