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平成最初の夏の日のこと

今年で平成が終わるとあって、そこかしこでヤングたちが「平成最後の夏!」「平成最後の夏!」と盛り上がっている。元号が変わることをあらかじめ告知されていればなおさら、過ぎゆく夏をなんとかつかまえておきたいとおもうのは当然のこと。

ああ、平成が終わる。

昭和49年生まれのわたし、中学2年の冬に「平成」はやってきた。静岡の、さえない女子中学生だったわたしにとって、平成最初の夏は高校受験のための塾通いと、合間をぬって通い詰めた図書館の記憶しかありません。

とくに友だちと出かけるでもなく。恋人どころか片思いだった相手に話しかける勇気すらなかった。海も、花火も、浴衣も、どこか知らない遠くの世界の出来事でしかなかったあの頃。

・・・思えば遠くに来たものです。

唯一の想い出らしきものといえば、クラスの男女7名くらいで観にいった映画。細かいいきさつはもう忘れてしまいましたが、手持ちの洋服のなかで一番気に入っているものを選び、緊張しながら用意をして臨んだのに。

まさかの映画のセレクション。

トム・クルーズ主演の「7月4日に生まれて」

トム・クルーズだし、と油断していました。

ご覧になられたらわかるとおもうのですが、中学生の男女の夏の想い出にするのはあまりにも重いテーマ。さらに劇中で戦争の後遺症に悩むトム・クルーズが自分が不能になってしまったことをFワード(いわゆる禁止用語)を連呼し叫ぶシーンに至っては、思春期まっただなかのわたしたちを完全に打ちのめしてくれました。

盛り上がるはずもなく、会話も少なく、とぼとぼと帰路につく7名。新学期がはじまってもさして会話をすることもなく、そのまま卒業しました。

結局、夏をまぶしく感じられるようになったのは大人になってから。花火やジントニックや、恋人とともに笑いながらドライブに出かけるようになって、ようやく自分もここまで来れたんだとおもいました。

それでも。

夏の想い出、と聞くたびに思い出すのは「平成最初の夏の日」のこと。何をやってもあまりうまくいかず、自意識が過剰で、あこがればかりが先行していた15歳だった自分のこと。どこか懐かしく、切なく、平成最後の夏を迎えたいまだになお、忘れることができずにいます。


トリスと金麦と一人娘(2023 春から大学生になり、巣立ちます)をこよなく愛する48歳。ぜひどこかで一緒に飲みたいですね。