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[創作]アメリアと10

 クレアはなぜこんなことになっているのかよくわかっていなかった。それもそのはず。リリーが完全に眠った後でまた戻って腕枕してもらいながら寝ていたらきっと部屋を出たはずのクレアが一緒に眠ってるってことでリリーはすごく驚くわねといたずらを仕掛けてぐっすり眠ってしまったのだ。
 それが起きてみればリリーは時おり気持ち良さそうにお嬢様と言いながら満更ではない反応をシャーリーに示している。そして、この目の前にある布のまとまりは昨夜リリーが寝間着としてきていたものだろう。
 これはどうしたものか。かわいい声でクレアの名前を呼びながら愛を告げたシャーリーは今クレアを見ていない。リリーしか見えていない。確かに、リリーは良い女だ。シャーリーが1番なのにそれを秘めてずっと打ち明けずにいるつもりでクレアに叱咤してくれた。
 これをどうしたら巧く去れるだろうか。二人の荒い息づかいの中、甘美な囀りを上げているこの場を。どのタイミングが一番自然だろうかと。

 あ、ここかもしれない。

 お嬢様としか言っていなかったリリーが漸くシャーリーと呼び捨てで呼んだ。少し悔しくて悲しいけれどクレアはここで去るのがベストだと判断した。

 シャーリーがリリーとキスをして目を開けるとクレアと視線がぶつかる。それはそうだ。クレアがリリーの腕枕で眠っているのを知っていてシャーリーはリリーを愛したのだから。
 クレアはおはようと言う挨拶と頬にキスをプレゼントすると起き上がってそのまま部屋を出ていった。

 クレアが部屋を出ると鍵がガチャリと閉まる音がする。クレアとシャーリーはお互いの部屋を鍵がなくても移動ができて。リリーはクレアの部屋は許可があれば、シャーリーの部屋は普通に鍵がなくても入ることができる。他のものは鍵が必ず必要で、クレアの部屋はそれプラス許可が必要だ。
 クレアは怠惰に過ごしていたなと思い出す。今回の儀式で唯一違うのは先代のクレアが儀式のシャーリーを襲わなかったことだ。そして、それは先代の葬儀が執り行われないということを意味する。クレアの時はお墓に花束を置くところから翌日の先代の葬儀までがセットだった。呪いとは良くできていて、先代が死ぬための機会作りなのではないかとクレアは歩きながら考えを巡らせる。
 そうなると、クレアが楽になれる機会がなくなった。今後もこの長い生活を送らなければならないのだ。あとどれくらいの長さを一人で過ごすことになるのだろう。

 クレアは部屋のベッドに横になって自分を自分で抱き締めながら一人涙を流すのだ。

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