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[創作]アメリアの23

 リリーは頭のなかで理性と嫉妬からくる衝動が拮抗してて表情は最悪だし、顔色も悪いと自分でも思う。それがかえって痛々しいのは理解ながらやっとお嬢様に向けて言葉を絞り出した。

「シャーリーお嬢様、もう大丈夫ですから。」

 でも理解してもらえないのはすぐにわかった。変わらずにリリーを介抱するべく体に触れてくる。手を当てて緊張をほぐしてあげているというべきなのだろう。しかし、リリーからするとスキンシップというべき範疇を越えている。これ以上は理性が崩壊するのも時間の問題だ。それでもリリーはそんな風になってしまったシャーリーお嬢様の気持ちを一旦リセットさせたかった。
 リリーは1つシャーリーお嬢様に謝罪する。そして手を握っていた両手のうち左手を離してシャーリーお嬢様の肩に手を回して自分に引き寄せる。彼女が完全に固まって緊張しているのが手に取るようにわかった。だから、もう片方の手でシャーリーお嬢様のせなかをゆっくり叩いてあげる。

「シャーリーお嬢様、私はさっきのようにはもう逃げませんよ。ましてや愛を貴方に伝えて困らせたりなんてしません。だから安心してください。」

 リリーはあなたが落ち着くまでこうしているだけですからと伝える。それに絆されたのか、シャーリーの肩が小刻みに震えてきた。それとともに小さな声で嗚咽も聞こえる。リリーはシャーリーお嬢様が泣き止むまでずっと同じ体勢で同じリズムで背中を叩く。先ほどまで抱いていた嫉妬は消えてただシャーリーお嬢様のために不安を取り除いてあげたい、ただその一つのために動いていた。

 そんな部屋の扉の向こうにはジンジャーティを淹れて戻ってきたローラが立っている。ドアをノックするタイミングを逸していた。シャーリーお嬢様の嗚咽とリリーのなだめる優しげな台詞。まだ入っていい状況ではない。これはお茶が覚めてしまうわとローラは冷静に判断した。一旦引き上げて改めて出直すことにした。
 ローラの淹れたお茶は彼女の努力の賜物で冷めてもとても美味しい代物だが、やはり温かいものには敵わないのである。このお茶は使用人達に気軽に飲んでもらうとして、また別のお茶を入れ直すことにした。
 ローラはキッチンに戻る道すがら、シャーリー様とリリーの関係をオードリーと自分の関係に似ているとして想像を膨らませる。もし、彼女がシャーリー様のようになっていたら自分はリリーのように友人を抱き締めて心を安らぐようにと支えたりできていただろうか。そうして考えてみてだめだなと首を横に振る。主が家を捨てて駆け落ちを選択させるまでに追い詰められたのを気づいていながら護れなかった。ローラがリリーのように心をオードリーに捧げられていない証拠。だからこうしてまだローラは死ねずに生きているのだ。

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