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[創作]アメリアの14

 リリーはクレアの部屋から屋敷の主人、ヘレンの執務室へと向かう。ドアをノックするとリリーを迎え入れた。リリーは休憩でメイド長の淹れた紅茶を飲みながら雑談をしていたそうだ。そんなところにきてしまったことを恐縮しつつ、リリーは自分がクレア・カミラ・スチュワートから来ないでと三下り半を突きつけられたことを報告する。
 ヘレンは少し考えるポーズを取りながら、つぶやいた。

「そう、大お祖母様があなたに来ないでと言ったのね。」

 リリーは少し神妙な表情をしつつもそわそわしている。彼女がバンドの練習時間になったときまだ仕事が残っていたりするとたまに出たりする。今回の事を言うならば、もしかしたらシャーリー様のお世話を再開できるかもしれない、早く命じてほしいな、だとメイド長は予想した。
 ヘレンは自分の曾祖母の性質を思い出す。容姿が30代で止まっているもののかなりの長生きな女性だ。気まぐれでリリーをメイドにして外した手前、シャーリーの元にすぐ戻すとやっぱりやめた、私のもののままにして、と言いかねない。それを反故にしたら暴走から乱暴されるのはシャーリーではなくリリーだろう。今度は警察沙汰になるのは目に見えていた。それを回避したいのでリリーには一度メイド長の下につけることにする。シャーリーがくる前に戻された形だ。バンド活動は変わらず自由にさせる。そして、変わらずピアスは耳も舌も体につけるのも認めないと念を押した。

「かしこまりました、当主様。」

 リリーは命令を受け入れて挨拶をすると踵を返す。そのときに一瞬見えたメイドの表情はとても幸せそうな最高の笑顔だった。
 扉が閉められるとメイド長はヘレンの友人、シーア・テイラーとして話しかける。

「リリーはクレア様ではなく、シャーリー様を主人と定めたみたいね。」

 そうね、とつぶやくヘレンはため息をつく。曾祖母のクレアが全く口にするはずがないリリーのどこをみて自分に心が向いていないことに気がついたのか。恐らくそれは彼女が持っていたギターだけが知っているのだとヘレンはそこまで考えて複数の感情が混ざった表情を浮かべた。

「ヘレン、クレア様は最近は特に情緒不安定だから言動には特に気を遣ってあげて。」

 ヘレンは自分のかおを覗き込む友人がとても心配そうにしているのに理解を示す。ただ、曾祖母のクレア・カミラ・スチュワートは気を遣いすぎるくらい丁寧にしても、だめなときはだめなのよねとなにか悟ったような台詞をつぶやく。そして、シーアにしか見せないうんざり顔を披露した。

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