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[創作]アメリアの21

 ヘレンは部屋を出ると一緒に出てきたリリーに部屋まで送るように命じる。あまりに突然すぎて扉を閉めたとたん力なくへたりこんでしまったのだ。リリーはかしこまりました、と答えて主人を立たせると体を支えながら廊下を歩き始める。リリーに歩きながら、あの部屋であったことは他言無用と言い渡す。リリーはそれにも了解する。体を支える彼女は視線が主人である自分とガレージを交互なっていた。
 途中、鉢合わせたオリバーとイーサンが気づいて駆け寄り主人の体を支える役を変わってくれた。部屋まで送り届けるとメイド長が主のために暖かい紅茶をいれて待っている。ヘレンはイーサンだけ残るようにと伝えてリリーとオリバーを退室させた。
 ヘレンは紅茶を一口含んで二人に明後日にあれをするとを命じる。メイド長は一人のメイドを呼びつけて命令する。執事は命令を受けたメイドと準備に取りかかるべく席をはずした。

「顔色が悪いけど、クレア様と何かあった?」

 友人が紅茶の横にお菓子の乗った皿を置いて話を聞いてくれようと隣の席に座る。ヘレンが特になにも言わないでいると、また話しかけてくれた。

「そうね、言いたくないならそれでもいいわ。でもその顔では大奥さまや奥さまを心配させてしまうから。イーサン達が戻るまでには気持ちを落ち着けてね。」

 心配そうな顔で友人が飲もうかとカップをもてあましている手の上に自分の手をのせる。なぜいつもは叱咤をしてくれる彼女がこんなにも優しく接してくれているのか。そこで初めてヘレンは自分の視界が歪んでいて涙を流していることに気がついた。この涙は母と祖母に向けたものなのかわからない。ともあれ、ヘレンは友人の言う通り気持ちを落ち着けるようにと差し出されたお菓子を手に取り頬張る。明後日はフラットな気持ちでやらなくてはならない行事をすることになるのだから。

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