[創作]アメリアの19
シャーリーがトレーを持って部屋を出て扉を閉めると同時にトレーが自分の手から失くなっていた。その原因は自分の前を歩くメイドがトレーを持っているから。彼女はキッチンに行ってきますと告げると立ち去るのだ。
シャーリーはその背中に後でまたクレアの部屋にきてとお願いする。リリーはその言葉に振り返るとかしこまりました、という台詞と共にトレーを持ったまま丁寧に傅いた。
シャーリーはキッチンに行く用事がなくなったのでその足で祖母のヘレンの部屋へと向かう。メイドによって執務室にいると聞いたのでそちらに行き先を変更する。
ヘレンはというと、溜まりにたまっていた書類をここぞとばかりに処理していた。シャーリーが回復するまでの間、部屋を出るのを禁じてローラに全てを任せて世話をさせていたのは書類と格闘していたためだ。もちろん休息を取りながら。こればかりは若い頃のようには行かない。
シャーリーが部屋を訪れたのは書類がひとまずの区切りがついて少し遠くを見つめながらアンニュイな雰囲気を漂わせているところだった。
ヘレンは孫の口から曾祖母が部屋にくるようにと伝言を預かったと告げられる。曾祖母の命は断ることがないヘレンは孫のシャーリーと共に部屋へと向かった。
リリーはキッチンにコップを置いてからギターを持っていった方がいいのかを聞きそびれたことに後悔した。クレア様がリリーを呼ぶということはまたギターを聞きたいという可能性が高そうだからである。しかし、すぐに戻ることが『また』という言葉に入っている気がした。なので結局手ぶらで先の主の部屋へと向かう。
歩いている最中、リリーは自分は少し嫉妬しているなと認める。トレーをシャーリー様から取り上げたとき、クレア様の愛用している香水の香りがわずかに漂っていたし。首に巻いていたはずの包帯がないし。そこについてるはずの手の痕がない変わりにキスマークがついてるし。自分がやきもきしながら部屋の外で待っているときにクレア様がシャーリー様にどこまでやったのかと心配からくる複雑な感情がリリーを悶々とさせた。
自分もまだまだだな、と一つため息をつく。クレア様の部屋へ向かう最後の角を曲がるとすでにヘレン奥さまとシャーリーお嬢様がクレア様の部屋の前で待っていた。
クレアは駆け寄ってお待たせして申し訳ございません、と謝罪する。シャーリーお嬢様は首を横に振った後、メイドのリリーにキッチンまでコップを下げに行ってくれてありがとうと微笑んでくれた。
シャーリーがクレアの部屋の扉を開ける。念のためというよりはヘレンとリリーに部屋にはいる許可を出していない可能性があったからだ。この気まぐれがいつまで続くのか、わかっていなかったから。
クレアは珍しく寝間着の上にローブを羽織っていた。それがより彼女の美しさを際立たせており、部屋に入った一同は思わず息を飲んだ。
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