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[創作]リリー(before) 2 [R18]

 翌日服を着替えて昨日のままのギターを背負い学校に向かう。彼女の学校は寄宿舎がなく、どうしても通いたい遠方の生徒はホームステイをしながら通うというシステムのところだ。リリーは自宅からバスに乗れば到着するためホームステイはしていない。
 ギターをロッカーに押し込んで何となく決まっているいつもの席に座る。授業毎に移動教室があり、いつものようにルーティン化されていた。そして最後で授業を受けると宿題タイム。クラスメートと教え合いながら進めつつノルマを終わらせた。
 そこからようやく自由時間だ。アクティビティにいそしむ生徒がいる傍らでリリーは課外活動という名のバイト先のお店に向かうのだが、今日は行けそうにもなかった。
 父親が仕事で乗るトラックを学校の前に止めて待っている。彼はリリーを見つけると、無理矢理車にのせてその場からはなれた。どこにいくのかはわからないけれど、自分と父親の間には家さ捨てたばかりのボロボロだけど上等そうなストールがあるからたぶん警察にでも行って出頭させるのかなと漠然とリリーは考えた。
 けれど、リリーの予想は大きく外れて警察署を通りすぎ、高級住宅地に入ったところで別の予感がした。そして、それはリリーにとってとても嫌な類いのもの。そして、ついた先はいかにも助けてくださった貴族様が住んでいそうなお屋敷に向かう門だ。
 門番にストールを見せるとアポイントはないけれど通してもらえる。リリーの父親はリリーをだしにお金を巻き上げようとしているのだと考えを改めた。

 玄関まで車を走らせる。強引に車からリリーを下ろす。抵抗しても無駄なのはわかるけど、巻き込んでほしくなくて意思表示した。ばちんと頬に平手打ちされる。扉までつられてこられるなかで、お礼だけはできるからそれだけでまぁいいのかと思うようにした。
 扉を父親が叩く。がたいのいい長身の若い執事が扉を開ける。中にいれてもらおうとしても中にいれる気配がない。ストールを見せても首を横に振るだけ。最後にはリリーの腕をつかんで彼の前に付き出した。見覚えないか、と台詞を付け加えながら。娘になにか言えとせっつく。リリーは頬を腫らした顔で昨晩は助けていただきありがとうございました、と執事に向けて伝言を伝える。リリーとしては改めてこれが言えれば上出来で、また家から学校に通ってバイトをしつつギターを弾いていくだけである。
 男性は上司からきれいな赤い髪の少女を介抱したと聞いている。たしか、昨晩帰国して家路につく際に寄り道した、と。芯の強そうな瞳を濁らせて、そうなるのも無理もない出来事があって衰弱しきっていた。また、敏腕なので家庭環境も調べきっていて最悪の環境下にあり、できることなら引き取れたらと報告を受けた奥さまは暗い顔をされていた。
 彼は二人を招き入れて準備のためここで待つようにと言うと席をはずす。その足で屋敷にいない上司の代理を勤めているメイド長に事情を説明した。すると彼女はメイド数名に指示を出す。彼にはこれから主人に伝えるからゆっくり時間をかけて二人の元に戻り、応接室に案内するようにと命じた。彼はその指示に了解すると、おもむろにポケットから大きめの飴を取りだし口にいれた。これをなめきるまでは客人の前にはでない、彼にとっては当たり前の決まりごとなのだ。

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