インセクター羽蛾
【 前回 負のPDCAサイクル 昇天編 】
盛岡の重賞を終えた我々三人は、東京ドームに隣接している「エビスバー」へやってきた。
テーブルに案内され、私の隣に森先生、私の対面にあさあさのじん、という席順になった。
私 「とりあえずドリンク頼んじゃおうか。私は琥珀エビスで。」
森 「エビス飲んだことないんよね。どれおすすめ?」
私 「どんなのが好きなの?」
森 「プレモルが好きなんよね」
プレモル(プレミアムモルツ)はサントリーのビールである。店員さんに「プレモルに似てるものはどれですか?」とも聞きづらいので、森先生は王の直感で「和の芳醇」を注文することにした。
私 「あさじんさんは何飲む?カシスオレンジもあるよ」
あさ 「・・・・・・」
私 「あさじんさん?」
あさ 「えっ?!あ、いくらですか?」
私 「えっ?650円だってさ」
あさ 「650円か・・・じゃ僕はこれ一杯で、食事は結構なので」
森 「いや、あさじんさん。お金なくてもこういうところでちゃんと食べないと競馬は勝てませんよ。こういうのが響くんですよ。」
あさ 「いいいや、本当にこれでいいので」
私 「あさじんさん、お金ないのにフリー行ったのは自分の責任でしょ?」
あさ 「・・・・・・」
あっさじーんはこの前日、麻雀Sライムへ行って3-4着で3000円負けていたことがバレ、森先生に叱責されていた。本人曰く「魔が差した」らしい。
なぜバレたのかというと、それは森先生が神様であり、交流が広く、すべての雀荘を見渡すことができるからだ。
私 「あ、忘れてた。この間のお気持ち配信の3500気持ちポイントを先に渡しますよ。おめでとうございます。」
あさ 「はい」
私 「これならここのお金払えるよね」
あさ 「・・・・・・」
私 「ねえねえ」
あさ 「・・・・・・」
私の声は、残念ながらツイッターに夢中の彼には届かなかった。お気持ちは早く閉まってほしいものである。
普通店員 「ご注文をお伺いします」
私 「プレm・・・和の芳醇を一つと、琥珀エビス。それとカシオレください」
森 「フライドポテトと、6種のチーズピザと、オムそばと、あとヱビス仕込みのスペアリブください」
私 「スペアリブにポテトついてるみたいだよ」
森 「大丈夫。追いポテト」
私 「 灰 」
私 「あさじんさんは何か好きなものありますか?」
あさ 「い、いや僕はドリンクだけで」
普通店員 「かしこまりました」
普通店員が作り置きレベルの速さでビールを持ってきた。
「今日も一日おつかれさん!!」
しかし味はかなり美味い。
森 「この和の芳醇ってやつ完全にプレモルだわw」
私 「さすがでございます」
王は自然に正解を選んでしまうのである。
そしてすかさず、チーズピザが届けられる。
越智 「おまたせしました。6種のチーズピザです」
ヒカルの碁の越智に似たその店員は、慣れた手付きでピザを置き、取り皿を森先生と私の前に置く。
私 「おお!美味しいねこれ!」
森 「なにこれ、めちゃめちゃ美味いやん。ナッツ」
すると「僕はドリンクだけでいいです」と言っていたあさあさのじんが無言でピザを食べ始めた。
森 「いやあさじんさん普通に食ってるやん」
あさ 「ああっ!?し、しまった!!考え事していてつい・・・」
森 「食うのはもちろんいいけど会計は割り勘っすよ」
私 「そもそも40代がドリンクの分しか出さないってオワっていますからね」
あさ 「 は、はひ 」
ふと森先生があることに気づく。
森 「あれ?あさじんさんの取り皿ないやん。頼もうか」
私 「すいません、取り皿を一つください!」
越智 「はい」
越智はすぐに取り皿を持ってきて、わざわざ森先生の皿と私の皿のあいだの狭い隙間に置いた。
私 「え?w」
森 「ええっ?www」
私が取り皿を頼んだから私の近くに置いたのか、我々の会話を聞いていてあさじんが食べないと思ってこちらに置いたのか、どちらにしてもめちゃめちゃに良い。
森 「いや、めちゃめちゃいいよ。海外だったらチップ10ドルあげてる」
初めはこの店員さんを越智に似ていると思ったが、だんだんとインセクター羽蛾に見えてきた。
間髪入れずに羽蛾が次のカードを切ってくる。
羽蛾 「エビス仕立てのスペアリブです」
たまたまかもしれないが、今度はあさじんからかなり遠いスペースに置いてきた。
確実に ”心得ているな” と思った。
私 「涙が止まりません」
森 「めちゃめちゃいい。サイコウの店。」
パクリと食べる。
柔らかくジューシーな豚肉がバラ骨から綺麗にはがれる。表面はパリっと香ばしく、コクの強いヱビスに漬けたことがほんのりわかるような香り。まさに理想のスペアリブといった出来栄えだ。
森 「えっ??これめちゃめちゃ美味いやん。マジで美味い」
私 「めっちゃ美味しい!あさじんさんも食べなよ!」
あさ 「・・・・・・」
私 「あさじんさん!豚あるよ~~」
あさ 「・・・・・・」
森 「あさじんさん、断るのはいいけど無視だけは本当にやめてくださいよ。」
あさ 「・・・・・・」
私は彼との間に分厚いアクリル板があるのかと手で探ったが、見つけることはできなかった。
ついにここでも自閉モードを発動。
というより、このエビスバーに入ってからの99%の時間はほぼ会話に参加せず、話しかけてもパーフェクトスルーを保っていた。
森 「あさじんさん、さすがに冷めちゃうから食べるよ」
あさ 「・・・・・・」
私 「食べよう」
我々二人でスペアリブは残さず平らげることができた。とても美味だった。
森先生と私の酒が入ってしばらく経ったころ、自閉のトビラが開く音がした。
あさ 「はぁ・・・」
森 「ん?」
私 「再起動したね」
あさ 「あの・・・今回やっぱり思ったのですが・・・僕は何をやっても失敗する運命なんだと思います」
森 「いや千直は結構当たってるやん。フィリアくん浮いてるでしょ?」
私 「回収率は170%くらいだね」
あさ 「いやでも・・・僕はたぶん15万くらい負けてます」
森 「いやそんな負けてないでしょ。確かに普段5000円なのにたまに4万打ったりしてるからマイナスにはなってるかもしれないけど」
あさ 「でも収支アプリを見ると・・・ああっ!!!???」
森&私 「え?」
あさじんはスマホをいじるや否や、いきなりトリップした。
あさ 「あ、あれ?・・・なんか、15000円しか負けてなかったみたいです(^ω^;)」
森 「え?全然負けてないやん。また嘘ついたんですか。」
あさ 「い、いや!本当にもっと負けてると思っていて・・・というかこれ、今日の負け12000円を入れてるから・・・昨日まで完全にトントンだったってこと?」
私 「人間の感覚ってかなり精度が低いんですよ。勝ったときは忘れて、負けたときに萎えてるからそういう勘違いが起こるんですよ」
あさ 「い、いや、僕はこういうゲームが分散が激しいことをわかってるので、短期の結果では一喜一憂しませんよ」
森 「いやいや、さっきからゲキ萎えして僕たちの呼びかけを全部無視してたじゃないですか。普通の人だったらキレて殴ってますよ。でも僕は懐が深いから殴りませんけどね」
あさ 「す、すみません(^ω^;)」
森 「僕に乗ればお金は増え続けます。あとはあさじんさんがいくら気合いを乗せるかって話ですよ」
あさ 「は、はい・・・でもお金g
私 「あぁ、貸しますよ。はい1万円。マネー成立ね」
むじんくんのATMよりも早いフィリコムのキャッシングだ。
あさ 「そ、そうだな。やっぱりこんな短期でクヨクヨしちゃいけないんだ。森さんはちゃんと研究してるんだし、実際これしか負けてなかったし」
森 「そうですよ。私が土日連続で千直を外したことがありますか?ないでしょ」
あさ 「いや、一回だけ会った気がする。そのときは土曜がトリガミで
森 「いやそれ当たってるやん」
あさ 「あ、はい・・・」
私 「まあこれから千直が連続でありますから、ガンバりましょう!」
あさ 「は、high!」
PDCAサイクルが一周してまた借金〈Debt〉へ戻ってきた。
正確なバンクロールによって借金を経由せずに投資する日は来るのだろうか・・・?
意外と負けてないことに気づいて安心したのか、ようやくあさじんの自閉モードが完全解除され、落ち着きを取り戻してきた。
あさ 「はぁ・・・なんだか腹が減ってきたな・・・ん?この骨はなんですか?」
私 「それはヱビス仕込みのスペアリブですよ。とても美味しかったです」
あさ 「ええっ??僕も食べたかったな・・・」
森 「何度も聞いたでしょうが」
私 「あれだけ無視しといてそれはない」
あさ 「す!すみません・・・全然覚えてない・・・」
そう言うと、我々が食べたスペアリブの骨をかじりだした。
あさ 「むっ!!!確かに美味いな」
森 「目どこ向いてるんだよw」
私 「あさじんさん、公共の場でそういうのはおやめください」
あさ 「あっ!・・・は、はい」
森 「ほぼ幼稚園児」
あさ 「あの・・・ちょっと失礼かもしれないけど・・・いや、やっぱいいや」
私 「なんですか?言い出したら最後までお願いします」
あさ 「いやいいです・・・」
森 「いや気になるじゃないですか。言ってくださいよ今日寝れない」
あさ 「昨日フリーへは行きましたが、僕は二週間は行ってなかったんですよ」
森 「期間とか関係ないでしょ。お金ないときに行くのが良くないんでしょ」
私 「もし澤田さんに煽られて『ここ1年近くは煽ってない』って言われてもあなた絶対納得しないでしょ。あさじんさんは他人にかなり厳しい上に、自分には甘すぎなんですよ。しっかりしてください」
あさ 「・・・・・・」
10歳以上の歳下に叱責されて再び自閉モードに移行しつつあるあさじん。
そこへタイミング良く羽蛾がやってくる。
羽蛾 「お飲み物いかがでしょうか?」
森 「あ~、じゃあ僕はコーラで」
私 「コーラ2つでお願いします」
あさ 「みっ、みっづっ!!」
羽蛾 「コーラ3つですねーかしこまりましたー」
あさ 「あ!いや!そうじゃなくて!み、みずです!!」
羽蛾 「なんですか?」
私 「コーラ2つと、水を1つお願いします」
羽蛾 「あ、水ですね。かしこまりましたー」
あさ 「はぁ・・・」
羽蛾が空いたグラスを勢いよく下げようとすると、ビショビショになったコースターが飛翔してあさじんに直撃した。
森 「おおwwwwすごいwwwww」
私 「チップ50ドルは貯まったね。素晴らしい」
しかし羽蛾はなぜかコースターを拾わず、グラスを一旦下げてから戻ってきた。ここも追加ポイントだ。
自分に当たって落ちたコースターをあさじんが拾おうする。
あさ 「ううっ・・・!!届かない・・・!ううっ・・・!!」
手が届かずに四苦八苦するあさじんと、あさじんが邪魔でコースターを取れないインセクター羽蛾。完全に地獄絵図であった。
結局、あっさじーんは追加で「琥珀ヱビス」と「琥珀ヱビスに漬け込んだチキングリル」を注文し、お会計15000円はキッチリ割り勘になった。
*
自閉から復活してフィリコム金融から追加で1万円、合計7万円の融資を受けたあさあさのじん。
かなり負けているものと思っていたが、実際は15000円しか負けていなかった。私が貸したお金はどこへ消えてしまったのか?それは本人でさえ把握していない。
私が今回融資した1万円はそのままプール金として森先生へ横移動し、雑に管理されたバンクロールは残り15000円ほど。
今月の勝負は富士ステークス、新潟千直4本、菊花賞、天皇賞(秋)だ。
これらを外したら大破産になってしまうあさあさのじん。
あさ 「考えても仕方ない・・・。当てるしかないんだ」
私 「当てるしかないんだねぇ」
森 「イクズォ・・・!!」
次回の勝負、10月19日(土) 富士ステークス&新潟千直が楽しみである。
このノートがあなたにとって有意義なものであったらとても幸いです。