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六甲恐ろし


タイガースのファンじゃないし、関西なんてほんとに何も知らなかった。

出張で1度大阪に来た程度。大阪城も食い倒れの街も未だに見たことない。

六甲おろしがウンチャラ、ナンチャラ♪なんて歌われてもねぇ・・。

ピンとこなかった。ふ~ん、ぐらいだった。

たいしたことも無いんだろう、ローカルな話だろう。


が、いざ住んで見ると、高層マンションに台風並みの強風が六甲の山並みから襲ってくる。

神戸と大阪の間にあるんだけど、六甲山から、こちらの海辺まで怒涛の疾風が殴りつけて来る。

そりゃ、びっくりした。

今朝もすごい。


さすがに建物自体は揺れないが、窓がごわごわと音を立て続け、外のベランダの物干し用の器具なんかクルクル回る。

当事者に成ってみると、うるさく凄まじい。

こんなに強い風が付き続けても良いのか?と絶大に不安になるけど、住人たちは意に返していない。

東西に30Km。たいして標高も高くない山並みなのに。

で、半年住んで慣れてはきたが、六甲お(降)ろしとはウンチャラ、ナンチャラ♪と歌う程の事である、と認識した。

単に、関西弁が喋れれば関西人に成るわけではないんだ。



さいきん、お義母さんがデイ・ケアのサービスに行っている曜日は、かのじょを誘って近隣の街を探索しています。

3本、路線が並行して走っていて、先日は阪急に乗って少し離れた街までカレーを食べに行った。

YouTuberが絶賛していた。

お店は、月に1トンの牛肉仕入れ、ぐつぐつ煮込む。

カレーの具材としてのお肉は3割しか使わない。仕入れた肉の7割はスープを作るためだけに使うんだそうな。

ねっ、なんだか素敵でしょ?


で、その阪急の駅で非地元民(観光客)らしい夫婦の会話が耳に入って来た。

奥さんらしいのが、後ろの六甲山を見上げながら、「ほら、なんて言うんだっけ?」と夫らしいのに言った。

女子といると、こうして何の脈絡も無い会話が突然始まりやすい。

夫らしいのが、やっぱり何のことか分からず「うん?」とかいう。

「ほら、言うじゃない、六甲なんとかって。ほら、ほら。六甲・・・、六甲嵐っ?!」。

ブッブゥー!

おしいっ!とっても、近い!が、ちょっと違う。

笑ってしまった。

住んで見ると、山から嵐が降ろされて来ることが実感できるが、そんな良いもんじゃない。

いえいえ、奥さん、それはね、六甲恐ろし。


家では減塩食が続いていた。

スープなんか、悲しいくらいに味が無い。

なので、こうして外食すると涙がほろほろと出る。塩味がうまい。

実は、人は料理がたべたいのだ。

料理で塩味を食べ、それでは強すぎるので米で薄めていたことが分かる。

米でなくとも、パンでも水でも、薄めてくれるのなら何でもいいんでしょうね。

ご飯を食べるというけど、ほんとは塩を食したい。

カレーなんて、ものすごく塩分多い。

カレー自体は美味しかったけれど、感動したのはYouTuberの言う月1トンの肉の行く末ではなかった。


家では、ガッツリ、かのじょが塩分をコントロールしていた。

が、かのじょ自身が足や手の痙攣を頻発するようになった。

何かが足りないのだ・・・。

マグネシウムか?いや、意外なことに、塩だった。

検索すると、塩が足りないと、しびれますとある。

かのじょは、塩せんべいをぱりぱり食べ出した。

こむらがえりがピタリ治ってしまった。

塩や油を抑制しないといけない年齢にならないと、分からないことってある。

なんでも、当事者にならないと、ふ~んで終わってしまう。

身近に経験しないと、はっと気づけない。



野生の動物が、わざわざ岩岩をなめに遠いところまで通う映像を見た記憶がある。

農場や動物園で飼育されている動物にも、定期的に岩塩を与えている。

きっと、わたしたちの先祖は、アメーバみたいなのから始まった。

で、当然、海の中にあるもので体を組み立てた。

海には塩がいっぱいあるから、塩をベースに体のメカニズムを構成した。

実は、あなたの体中、ナトリウムポンプがばっちり装備されている。

このポンプは細胞内から細胞外へナトリウムを輸送し続ける。

いつも、せっせと輸送している。

このポンプを駆動するために、あなたという生体の全基礎代謝エネルギーの25%が消費されている。


私たちの神経細胞たちは、電気的な興奮パルスを順々に伝達して行く。

その時、細胞内のナトリウムの濃度が変わるのでポンプで元の濃度に戻している。

見て来たわけじゃないけど、そうなんだそうだ。

で、塩(塩化ナトリウム)が足りないと、神経系を駆動出来なくなってしまう。

だから、かのじょのふくらはぎが、こむらがえりしたのだ。ピクピク。

そういえば、関西に越して来て、温泉生活のかのじょだ。朝夕、2回。

出たら、階段を10階まで階段であがってくる。

部屋は、91歳のお義母さん(筋肉なくなり)、始終寒がるので暖房をがんがんつけている。

始終、汗をかいていた。

塩分恐ろしだった。


昨日の朝、お義母さんが手術した股関節に違和感があると言い出した。

反対の股関節はもう3度、ちょっとしたことで脱臼してきた。

いくつかに相談し、整形外科に行くことにした。

お医者さん、レントゲンとCT撮ってのたまわく、はずれていません、大丈夫です!と力強い。

あのぉ~、違和感はなぜ?と聞くも、先生、筋肉が疲れたんでしょうで、力強く終った。

で、行き来で疲れたのか、お義母さん、今朝はずっと眠りこけていた。

さあさあ、ご飯ですよとかのじょに言われ、お義母さん起き上がって、いただきますと食べ始めた。

カミカミ。あれっ?てお義母さんが言った。

「わたしゃ、入れ歯をはめておらんかったよ。ほほほ。。」

かのじょが大笑いした。


若い男子は、モリモリ盛ったモヤシ、マシマシの麺、がっつりかけられたアブラのラーメンをがりがり食う。

塩味いっぱいでも、彼らは代謝が良い。

体が動くし、汗もかく。余分な塩分の排出もスムーズだ。

筋肉もあり、脳も手足も活発だ。

が、六甲降ろしの唸りを聴きながら、ほんとに恐ろしいのは脳の劣化ではないんだなと思った。


骨折や脱臼で体が動かせなくなると、筋肉が急速に衰える。

衰えると、さらに体を動かせない。

脳と体は情報のやり取りをしている。

脳から体に行く情報は、全情報の3割しかない。

体から脳には全体の7割の情報が行っている。

あなたが思ってるほど脳が、威張ってるわけじゃない。いや、逆だ。


筋肉や内臓の動きが衰えると、脳がうまく動かなくなる。

脳はトンチンカンなことをし出す。

お義母さんはどんどん、歩けなくなり、脳もいまいちになってゆく。

どんどん、耳が遠くなり、記憶を記銘も想起もできない。

トンチンカンなこともするし、言う。

意外と、痴ほうと加齢による脳機能低下の違いは区別しにくい。

アホなこと、被害妄想を言わないから、痴ほうじゃないとも言い難い。

「わたしゃ、もう覚えてないよ」を繰り返す。

「世話かけてばっかりで、ごめんね」。。


たぶん、人生後半は、骨格筋恐ろしだ。

それは、身近に体験してみないと、なかなか分からない。

いや、きっと、知らぬが仏ということなんだろう。

いざ、本番が来てから心配するのだ。

それで、ちょうどいいのかもしれない。

成るように、するしかない。だから、成るように成る。

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