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きっと、いつか


コーヒー飲みに店に入って、タバコを吸った。

毎年、会社から黒いカバーの手帳が支給されていた。

カバンには、いつでも書けるようにと、1冊は入れてます。

で、手帳を出してぺらぺらとめくった。

何年か前の書き込みがあって、

「思いの実現には時間の差がある」

とへたくそな字で書いてある。


むむむ・・。

確かにわたしが書いたものだ。

でも、どういう意味だったのか補足もないし、引用したのかも書かれていない。

もうちょっと、説明しておけよ、とじぶんに突っ込みたい。

が、この言葉、なんだか、こころが惹かれる。

そりゃ、そうだ。

じぶんがわざわざ書いたんだもの。

なにか大切な言葉だったはずだ。何だろう?

きみ、誰?どこの子?


いつまでもじっと見つめていていたって仕方無いので、1つ前のページをみた。

そこには数学者の岡潔の言葉が書かれていた。

岡さんは、にほんじんの中でおそらく最高の数学者だったひと。

「知情意のうち、情熱と直感がとても大切です」

と彼の言葉が書かれ、なぜかれがそう言うのかをじぶんで考察していた。

じぶんでこう付けたしていた。

「知情意のうち、情がすべての基盤だ。

なぜかというと、人は情で納得したものしか行動に移せない。

西洋は知と意に偏りすぎる。

だから、こころとの調和が難しい。」

そうだ。

正解は思考では来ない。たいがい、直感だった。

それに、ひとは情を受け渡しし、粋に感じて、共に涙し、そしてともに動く。

そういう共感どうぶつだ。

いがみ合いも起こるけど、でも、供に涙することも起こる。

この動物は面倒くさいんだけど、感動も起こり易い。


そうだ。

熱い情を胸に秘めるというのはとっても大切なんだけれども、

この涙の谷では、想いがすぐに形になって現れてくるわけでもないのだ。

情熱や想いは、時間を経てから芽を出す。ひとは試される。

いくら願っても、それが実現されないとひとは悲観する。諦めるだろう。

でも、切に願ったことは形は変わるけど、けっきょく成就する。

おのれだけのための願いでないのなら。

おのれなんか捨てて願ったことなのなら。



かのじょと深夜のニュースをみていた。

ブラジルから来た少女の苦悩を特集していました。

目が悪いのか度の強いめがねをかけた12才の少女は、閉じこもっていた。

優しい彼女は、日本語を理解できないこともあり、うまく周囲とやっていけなかった。

友だちもできない。ひっこんで、おどおどしていた。

そこに、ある日、二十歳前後の同じ境遇だった女性が支援に現れた。

すこしすこしと少女は街にも出て食事をできるようになる。


女性が励ます。

少女はおそるおそるアイスクリームを頼んでみる。

食べるとやっぱりおいしいのだ。

女子が大好きなアイスクリームなんだもの。笑顔だ。

買い物にも出たことがなかったという。

女性が付き添ってではあるが、少女が買い物をする。

ペンケースやちょっとした雑貨を買った。

カラフルな小物ばかり。。

とても嬉しそうだった。

ああ、、女子はそういうこまごまとしたものが大好きなのだ。


仲間がいてくれると、勇気を持ってリスクが取れる。

それは大人だってそうだ。

少女は、異国でずっとひとりぼっちだった。


地球の反対側から来て、みんなルンルンなわけじゃない。

日本語の壁に跳ね返されて苦しむひとたちがいた。

支援してくれた女性自身がそうだったと言う。

彼女は、少女の誕生日に励ましの手紙を渡した。

少女はそれを読んで涙した。

励ましていたはずの女性も辛かった頃のじぶんを思い出し、泣き出した。

その女性の大きなからだを少女の手が優しくなでた。

ふたり、泣いた。

そしてから、ふたりは笑った。


そういうシーンが流れました。

それはどこにもあるようなことかもしれない。

辛かった者が苦しんでいる者を支え、結果、じぶんにエネルギーが返って来る。

そういう情の連鎖が次々とひとたちのこころを繋いで行く。

それはありふれたシーンでしょう。

今までいっぱい見てきたようなシーン。。


ひとびとは、切なさを抱える。

他者が辛さに耐え悲しんでいるのを見ると、こちらの身もちぎられる。

なんとかして支えてあげたい。

そこには偽りの無いまごころがある。

自分自身の姿でもあったのだから。

わたしの胸がつぶれ、切なく、そして暖かなもの。


少女を支援した女性自身、日本に連れてこられたことを怨んだでしょう。

なぜ、ここなのって。

なぜわたしは苦しまなければならないのって。

わたしは、ただ朗らかにいきたいだけなのに・・。

その切なる願いは、いったん凍結され、やがて時を経て形を変えて浄化される。

今までひどく憎んだ”問題”が、先を照らす”光”へと変わるまでに時間がかかる。

きっと、思いの実現には時間の差があるのです。

そして、それは黙っていては来ない。

他者への眼差しに変わった時にまた、時計がカチリと回転する。

ふたりの笑顔、素な魂が美しかった。 




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