第二話「疑問符と猫」

登場人物
化け猫(男)･･････長く生きている妖怪。四季庭園の中にある茶屋の店主をしている。
翔平(男)･･････中学2年生。学校に行かずによく茶屋で暇を潰している。

翔平　　『小高い丘にそびえ立つ大きな桜の木。この木はとある巫女を守っていたという言い伝えがある。現在、桜の木の周りは公園になっていて、さらにその中には四季庭園といって、木々が植えられ、池と築山などで作られている庭がある。名前の通り、春には桜が咲き、夏は蛍が飛び、秋には紅葉が色づいて、冬になると雪に覆われる、そんな日本の美しい四季をぎゅっと閉じ込めたような庭園だ。
　この庭園では風景が楽しめるだけでなく、庭園の片隅に茶屋があり、美味しい抹茶と季節ごとに変わる和菓子をいただくことができる。まあこの事実を知っている人は少なく、なかなかお客は来ないのだけど。ここの主人はとても気がいいが･･････実は化け猫であるというのは俺しか知らない秘密だ。』

化け猫　お、またきたのか、おさぼり少年。
翔平　　やめろ、その言い方。
化け猫　だって事実だろ？今は……午前11時。お前の歳じゃ学校、とやらに行ってなきゃいけないんじゃないのか？
翔平　　そうだけどさ･･････
化け猫　わかってるわかってる。お前は学校ってところに行きたくないんだろ？行きたくないところに無理して行く必要はない。
翔平　　そんなこと言ってくれる大人、お前くらいだよ。
化け猫　正しくはジジイだけどな。もう何千年と生きてきてしまってるからな。
翔平　　そこまで生きてれば学校行く行かないなんて小さなこと、どうでもいいか。
化け猫　まあな･･････それにしたって他に行くところがありそうなもんだけどな。毎回ここにくるよな、お前。俺のことが好きなのか？
翔平　　そういうんじゃない。案外他に行く場所がないんだよ。外の世界は俺みたいなやつに優しくないからな。
化け猫　そうなのか。
翔平　　そうなんだよ。
化け猫　そういえばお茶がまだだったな。ちょっと待ってろ。

化け猫　はい。おまちどうさま。
翔平　　今日は紅葉の練り切りか。
化け猫　そろそろ外の紅葉も色づいてくる頃だからな。
翔平　　ほんと化け猫のくせに、繊細な仕事するよな。
化け猫　化け猫を舐めるなよ。
翔平　　うん。うまい。
化け猫　話を聞けよ。
翔平　　なんか言ったか？
化け猫　なんでもないよ。まあ、その歳でお抹茶と和菓子を好んで食べるっていうのもなかなかだと思うがな。
翔平　　そうかな？そういえばさ、面白い話を聞いたんだ。
化け猫　ほう？どんなだ？
翔平　　お前にも少し関係があるかな？
化け猫　化け猫の話か？
翔平　　あ、いや……化け猫じゃなくて猫の話。
化け猫　じゃあ俺の話じゃないな。
翔平　　細かいやつだな。
化け猫　全然細かくないだろう。猫と化け猫じゃ大きな違いだ。猫は言葉を知らんだろう。
翔平　　まあ確かに？二足歩行もしないし和菓子も作らない。
化け猫　ま、和菓子作る化け猫も俺くらいなものだけどな。
翔平　　･･････本題から随分それたな。俺が話たかったのははてなマークについてだ。
化け猫　はてな……まーく？
翔平　　ああ。疑問符のことだ。お前、色々知ってるのにカタカナ絡むとまるでだめだよな。
化け猫　馴染みがないんだ。最近出てきた言葉たちだからな。
翔平　　長生きしてる奴の感覚はわからねえ。
化け猫　で？その疑問符と猫がどう関係してくるんだ？
翔平　　この疑問符っていうのが、猫の背中を模しているって話だ。
化け猫　ほう。それは初耳だ。
翔平　　賢い犬と違って、何も考えてなさそうな猫の背中から来てるんだと。
化け猫　なんだそれ。聞き捨てならんな。犬の方が賢いだと？
翔平　　実際そうじゃないのか？色々芸もできるじゃないか、犬の方が。
化け猫　人などに従っている方が愚かなんだ。自身の振る舞いくらい自身で決めろって。
翔平　　それが猫の言い分なんだな･･････まああくまで一つの説だけどな。外国で疑問符の代わりに使われていた、セミコロンって記号があるんだけど、それが変化したって説もある。
化け猫　一つの説で犬と比べて劣っていると言われるのは解せぬな。
翔平　　あくまで化け猫なんだろう？お前は。お前のことを馬鹿にしてるわけじゃない。
化け猫　俺にも普通の猫だった頃があるんでね。
翔平　　全く、ああいえばこういうなお前は･･････そういえば疑問符とかっていつ頃から使われてるんだ？
化け猫　確か明治ごろだったぞ。句読法案というのが定められて使われるようになったそうだ。
翔平　　へえー。詳しいな。
化け猫　ま、俺賢いからな。
翔平　　･･････なんだ？犬の方が賢いって言ったの、根に持ってるのか？
化け猫　いいや？別に？
翔平　　めんどくさいやつだな、全く。(練り切りを食べる)ん、相変わらずうまいな、この練り切り。
化け猫　俺は賢い上に和菓子も作れる大天才だからな。
翔平　　･･････腹立つな、その言い方。
(了)