春に浮かされて

水曜日、春の暖かさを感じて少し開放的な朗らかな気持ちになって、その高揚感のまま仕事帰りにパンを買った。

我が家は駅からちょっとした商店街を抜けた先にあるんだけど(本当にちょっとした商店街、道沿いはほとんどアパートとマンションである)、その通りに一軒だけパン屋がある。

古臭いし薄暗いし入ったことは無かったけど、なんだかその日は身体が軽くて、少し頭がふわふわして、文字通り春の熱に浮かされて自然と足が向いていた。

19時過ぎ、古い自動扉のスイッチを手で押し、店内へ。

「いらっしゃいませ〜」

見た感じ60代後半、いや70代くらいのおば様がカウンターに立っていた。

「今日は水曜日なので、水曜日のパン。18時に焼いてるんですよ。水曜日のパンは塩パン、チョコパン、○○パン…」

水曜日のパンってなんだろう。どうやら日によって夕方に焼くパンが決まっているらしい。値段はほかの曜日より安いのか高いのか、これいかに。

言われるがままに塩パンとチョコパンを手に取る…というより時間が時間なので他に残ってるのは食パンともうひと種類の水曜日のパン(忘れてしまった)くらいのものだった。選択肢は案外少ない。

270円。

「今日もお疲れ様。」

自分も疲れてるだろうに、とてもいい笑顔でそう言われた。パン2つしか買ってないのに1個ずつシャカシャカしたビニールに入って、その上手提げのビニールに入れられている。家までの短い間同居するパン。ふと匂いをかいでみた。

懐かしいような、ほっとする香りがした。

思えばパン屋さんのパンを買ったのは何年ぶりだろう。いつもスーパーで売ってる惣菜パンばかり食べている。ハズレはないけど味は硬い。わかってるもの以外を手に取るのは、実は心の余裕が必要なんだ。

今回買ったパンは外は硬め、中はふわふわ、もちもち。塩パンは特に美味しかった。それだけの事なのに、少し感動した。

また寄ってみようと思う。今度は水曜日以外に。

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