疾走る少女



約1時間電車に乗りっぱなしの通勤時間にスマホを触り続けるのもどうかと思って(そもそもそんなに用がない)、7,8年振りくらいに小説を買ってみた。

とは言え全くの思いつきだった。長い間本を読んでいなかった自分が、昔の本の虫だった頃のように1冊の本を読みきれるかどうかわからなかった。

なので結局飽きて読み切れず、出費だけがかかるというリスクを避けるために、近所の古本屋で調達することにした。図書館に出向いても良かったけど、炎天下の中どこにあるかも知らない図書館まで歩いていくのは死んでもゴメンだった。

80円コーナー。

人が長い間頭をひねって指にタコを作って書きあげたモノが80円で売られていると思うとなんだか呆気なくて、少し救ってあげる気持ちで何となく本を選んでいく。

昔読んでた小説の続き。知ってる作家。ドラマ化の原作…

こうして本屋に来ると、自分が本を好きだったことを思い出す。合計7冊買った。560円だった。10ページの同人誌1冊分かな。そう思うとお金の価値って難しいと思う。もちろん80円の小説と500円の同人誌を比べることに全く意味なんてない。


湊かなえ「少女」

これが昨日今日の電車内で読んだ本だった。読み終えた今、少し時間が余ったので何となく文字を打っている。

大筋のあらすじとしては由紀と敦子、2人の少女が「人の死」を求めて2人それぞれの方法で死を手に入れようとする話。死を手に入れると言っても主人公が自殺してしまうとかの類ではなく、「死を知って親友に自慢したい」という全く不純極まる動機ではあるのだけど、湊かなえ特有の伏線回収というか、例えるなら冷蔵庫に余った食材と使いかけの調味料とその日たまたま安くて買った野菜が豪華なフルコースになるような、そんな独特の収束感がある。出来上がった形は読み終えると非常に綺麗で、「ああ、このためにこの発言をしたのか」と気づいた時に鳥肌が立つ。

なんて陳腐な例えしかできないんだろうと自分のボキャブラリーの貧弱さに嫌気がさすのは置いておいて、終盤のワンシーンの疾走感、これは凄かった。少女たちが走るのと一緒に、自分まで確かに風を感じた。

本の最後に収録されていた書店員のレビューを読み終えた後、最初の「遺書」に戻ると、フルコースのドルチェの後に頂くエスプレッソのように、自分の中に物語が落ちていく感じがした。

たまには本を読むのもいい。退屈な電車移動の世界から抜け出せるような気がする。やっぱり小説が好きだ。

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