見出し画像

その痛みはどこから来たものか?

私が訪問看護師になって一年がたった頃
癌の疼痛コントロールのために
訪問していた患者さまがいました。

それは、縦隔腫瘍のマコト(仮)さん。

マコトさんはまだ50代後半で独身。

もともと軽度の知的障害と
指の変形があり
家族とも疎遠。

働く場所を失った彼は
近所で飲食店を営んでいる
60代の夫婦に声をかけてもらい

店を手伝いながら
家族のように一緒に暮らしていました。

依頼を受けて
私が初めて訪問したとき
ベッド横には麻薬の内服薬の殻袋が
散乱しており

マコトさんは
痛みのコントロールができず
麻薬を飲みすぎて
意識も朦朧としている状態でした。

画像1


医師と相談し
まずは麻薬の飲み薬を減らすため、
麻薬の持続皮下注射に切り替えました。

血管ではなく、
皮下に微量を注入するので
感染するリスクも低く、


誤って大量に麻薬が体に入ることがなく、
家で自己管理する患者さまには安全です。


マコトさんは注射の針を見ながら

「薬がずっと体に入ってるから安心」

と、ニコニコ。

ベッドから出て活動する時間も増えました。

私たちスタッフも
この調子ならもっと動けるかも!と
訪問リハビリも開始。


……ですが、
1ヶ月くらいたつと
徐々にマコトさんから笑顔が消えました。


針先が少しでも赤くなると

「刺しかえてほしい」と訴えました。


針を何度変えても、

「薬が入ってない気がする」
「すぐ腫れる気がする」
「効いてない気がする」
…………





私たちは
一日に何度も
マコトさんの家に行き
針を刺しかえました。


ある時
「痛い、痛い、助けて」と
切羽詰まった声で呼ばれたので

急いで駆けつけると
マコトさんはニコニコして

「あれ?看護婦さんの顔見たら治った」

と笑ったんです(笑)


そのとき思ったんです。
痛みをつくりだしているのは
本人と、私たちなんじゃないかな?って。

画像2


マコトさんが「痛い」と言えば
同居しているご夫婦は

「大丈夫?」
「すぐ看護婦さんを呼んであげるからね!」

と、バタバタ、オロオロ……

それを見ている本人は

「ああ、自分は大変な病気になった」
「もっと酷い痛みがくるかもしれない。」

って、
自分をどんどん
重病人にしてしまう。


たとえ「今」、痛みがなくても

「きっとまた痛くなるはずだ」って
思い込んでる。


私は、その「設定」を
なんとかして
書き換えられないかなって思いました。


小さい頃から障害のために
みんなと同じように運動したり
遊んだりできなかったことで
辛い思いをしてきたマコトさんは

自分にいつも自信がなく、
ビクビク、おどおどしていました。

肩にはいつも力が入っており
動揺すると
自分の意思とは関係なく
体が動いてしまいます。

マコトさんは
痛くなるとすぐに
麻薬をフラッシュ(早送りして注入)
していたのですが

私が訪問しているときは
力を抜いて、深呼吸するだけで
痛みはすぐに治まっていました。

「本当は、この点滴に繋がれているのが
嫌なんだ……。
これ抜いて自由になりたい……。」

マコトさんは
私に、ポツリと言いました。



その痛みは癌のものか?
マコトさんが作り出してるものか?


それは誰にも分からないけれど
私が、信じてみようと思いました。



「マコトさん、これ、はずしましょう!」

「はずせるかなぁ……」

「はずせるかなぁ、じゃなくて、
外したい!んですよね?」

「……外したい!」

それから、
私とマコトさんは
ひとつの目標に向かうようになりました。


「いいですか?
 痛くなったら、深呼吸。
 痛くなったら、深呼吸……」

私は、毎日それを繰り返しマコトさんに
伝えました。


マコトさんは
麻薬をフラッシュしなくても
深呼吸で痛みを逃すことが
出来るようになってきました。

少しずつ、
痛みの感覚が延びて、
夜も寝られるようになっていました。

腫瘍は
けっして、小さくはなっていませんでしたが

麻薬の持続注射3ヶ月めで
見事に、
一日数回の飲み薬に
切り替えることができたんです。

「マコトさん、やったね‼️‼️」

マコトさんはまるで子供みたいに
ニカっと笑い、うなづいていました(*^^*)

画像3



それから数ヶ月は
お店の手伝いをしたり
旅行に行ったり
好きなことをして過ごしたマコトさんは

まもなく、状態が悪くなり
自分自身で入院することを決め
病院で亡くなられました。

最後のお顔を見に行くと
そこには
子供のように笑うマコトさんの姿はなく、

大人の男の顔をした、
穏やかな表情のマコトさんがいました。


あのときの痛みは
確かにマコトさんの中には存在して
苦痛として感じていたことに
間違いはありません。

でも、マコトさんは
それに負けなかった。

私は、いつまでも
彼の強さを忘れることはないと思います。


読んでくださって
ありがとうございます(*^^*)!


サポートいただいたお金は 私が応援したい方のサポートへと 巡らせていきたいと思います! 幸せがみんなに巡りますように(*^^*)