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画面越しに旅をする―南三陸オンラインツアー始終―

この記事はすがもプロジェクト東北復興活動班より寄稿いただきました。

東日本大震災後、南三陸の支援活動に積極的に関わっていた大正大学は例年、春と夏に南三陸ツアーを行ってきました。今年はコロナ禍のためオンラインでの実施となったが、企画を行った東北復興活動班はどのような思いでツアーを作り上げていったのか。2日間のオンラインツアーを運営した学生の成果をお届けします!!

コロナ禍をあえて利用する


東北復興活動班では、例年春と夏の長期休みごとに南三陸ツアーの企画を行ってきた。しかし、今回は新型コロナの影響で現地に行くことは難しいと判断せざるを得なかった。そこで私たちは、現地に行けずとも、何とか南三陸に関わり続けたいと思った。このような状況になり、どのような活動ができるのか模索していたところ、担当教員の齋藤知明先生から“オンラインツアー”の提案があった。そのときに言われた「この状況をあえて上手く利用しなさい」という言葉が、今でも印象に残っている。自分たちのこれまでの経験を活かしながら、東北復興活動班として何か新しいことができたらと思い、今回オンラインでツアーを実施する意思が固まった。
オンラインツアーの準備が始まってから、齋藤先生をはじめ、南三陸研修センターの方々、担当職員の丸山雄太さん等多くの方々の協力のもと、試行錯誤しながら挑戦することになった。

「南三陸」を自宅で


オンラインツアーという、企画する側も参加する側も初めての挑戦である。さらに、参加者に南三陸に行ったことがあるかの事前アンケートを取ったところ、約半数が南三陸への訪問経験がなかった。そのため、「南三陸をよく知らない人でも、楽しく学ぶことができる」をテーマに企画を進めていくことになった。
南三陸の歴史や文化、魅力などを知ってもらうという大きな目的から外れないようにしながらも、初めて南三陸に関わる人には興味・関心を持ってもらうこと。南三陸を訪問した経験があるという人には、さらに魅力を感じてもらえるようにすること。この2つを意識し過去に実施したツアーで行くことができていなかった場所での見学、体験を多く取り入れた企画を考えた。
今回のツアータイトルは「南三陸を味わう旅」、南三陸の自然の特徴である「森里海」とそれにまつわる「食」をテーマに展開した。ツアー参加者には、事前に宅配便で生産物が自宅に届けられ、現地の味を自宅で味わってもらえるように工夫した。

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写真:事前に届いた南三陸味わいセット(塩蔵わかめ、お米、ミニトマト、トウモロコシ、クレープ、ワイン、かまぼこ、コースター、まゆ細工キット)

オンラインツアーへの挑戦


オンラインツアーの実施予定の8月末まで準備期間は約3ヶ月。ツアーの企画準備を始めた当初は、やはり前例もなく、何から進めたらよいか全く分からなかった。当時は、今では当たり前のように使われている「オンライン○○」という言葉も少なく、パソコンの画面越しにツアーを行うということが全く想像できなかった。オンラインという環境に慣れていない上に、直接会って活動できない中で企画運営ができるのか。班員3人という人数で準備ができるのかといった不安も大きかった。オンラインのツアーでは現地の雰囲気や匂いなど感じ取れない部分が多く、画面の前で見ているばかりでは退屈してしまうのではないか。この点を克服しながら、楽しく学びながら参加できる内容を考えることが大きな課題となった。
そこで、実際に春からオンラインツアーを運営されている「あうたび合同会社」の方から、オンラインで実施するうえでの知識や技能について聴き、何が必要かを理解しながら準備を進めた。ミーティングももちろんオンラインでの実施だ。慣れるまでには時間がかかり、もともとお互いに知っている班員でも、意思疎通を測るのが非常に難しかった。

サービスラーニングツアーの特徴をどう残すか


8月27日、28日、1泊2日のオンラインツアーがスタートした。当日は学生20名、教職員4名の計24名が、それぞれの自宅で参加した。
2日間のスケジュール(しおり)

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まずは現在進行中で工事が進められている復興祈念公園から中継をつなぎ、復興の現状や震災当時の話を伺った。画面越しではあったが、震災直後の写真と現状を見比べながら見ることで、これまでのツアー以上に、震災当時に思いを馳せることができた。
次に南三陸が誇る森里海の仕事の現場から中継。海は「たみこの海パック」阿部民子さんから、海藻について紙芝居を用いて説明をしていただいたり、事前に届いた塩蔵わかめを使った「わかめ料理コンテスト」を行ったりした。里は「南三陸農工房」の阿部博之さんと「大沼農園」の大沼ほのかさん、「南三陸ワイナリー」の佐々木道彦さん。みなさんがそれぞれ生産されている、とうもろこし・ミニトマト、かぼちゃのクレープ、南三陸ワインを味わいながら、活動の意義や現状のお話を伺うとともに、実際に生産物をいただき、画面越しに南三陸へ思いを巡らせた。
そして森は、「YES工房」の大森丈広さん。YES工房では、まゆ作りワークショップを行った。2日間にわたって、自宅で南三陸の森里海の恵みを参加者と味わい楽しんだ。
しかし、ただ楽しむだけでは終わらないのが、サービスラーニングツアーの特徴。夜には、各班に分かれて学びや考えを整理し、南三陸町の魅力を東京に発信するための記事を作成した。
最後は2日間のまとめとして、班ごとに作成した記事を、班員がそれぞれのグループに分かれてプレゼン報告。ヒヤリングやワークシートの内容を短時間でまとめて発表し、ツアーは無事に終了、解散となった。

ツアー運営者は語る
山口:これまではずっとツアーのいち参加者だったので、ツアーを組むことが初めてでした。右も左もよく分からないなか、オンラインという異例の条件がプラスされ、企画当時は、正直不安と戸惑いでいっぱいいっぱいでした。
そんな中でも、同じ東北班の遠藤さんと藤枝さんと何時間もミーティングを重ね、齋藤先生や職員の丸山さん、そして南三陸研修センターいりやどの浅野さん、三浦さんに何度も何度も助けていただきました。たくさんの方のお力添えで、手探りながらも南三陸の過去や魅力、これからを伝えることができるツアーを作ることができたのかなと思います。個人的には、自室で参加するからこそ整った環境で落ち着いて学ぶことができるというのが、オンラインの良さなのかなと感じました。
しかし、現地の風や温度を感じながら自分の足で巡るからこそ、湧き上がる想いや、深く刻まれる学びがあるのも事実です。だからこそ、今回オンラインで初めて南三陸に触れたという人には、ぜひ現地に足を運んでほしいですし、私自身もまた現地に行きたいなと思いました。
遠藤:初のオンラインツアーを終えて、過去に一度、現地ツアーの運営を経験しましたが、今回は違うことが多々あり、とても不安でした。実際の準備も大変で、なかなか思うように準備が進まず、夜中に泣きながら齋藤先生に電話をかけ、相談したこともありました。今となっては、それも頑張ったと思える、良い思い出になっています(笑)
準備期間から本番も含め、メンバーと一度も対面せずに終えたことは、今こうして振り返ってみても大変で、不安も大きく、心細かったです。リーダーとしてみんなをまとめながら、全てオンラインで準備を進めることはとても大変でした。改めて報告、連絡、相談というのが大切なことだと気付き、周りを見る力、計画力、先を見据えた働きかけ、コミュニケーション能力がついたと感じています。
今回の企画で、サービスラーニングに「オンラインツアー」というコンテンツを残せたことはとても嬉しいですし、今後も広く南三陸の魅力を発信していきたいです。
藤枝:オンラインツアーという前例の少ないものに挑戦することは、とても難しく感じました。初めてのことでわからないことや躊躇することも多くありましたが、たくさんの方に助言をもらいながら進めていくことができました。初めて関わる企画で、このような体験をできたことはとても良い経験になったと感じています。
今回のツアーでは先輩方についていくことで精いっぱいでしたが、次の機会にはこの経験を活かし、自分からも積極的に参加できるようにしていきたいです。そして、今後も南三陸とつながる活動を続けていきたいと思います。

参加者の声
 オンラインツアー全体の感想として、参加者より以下のようなコメントが得られた。
様々なところを巡ったり、実際に皆で実食してみたりと、画面越しだけど、共有したことで、一体感がありました。体験するコンテンツもあり、飽きさせないようになっていて、工夫されているなと感じたからです。
南三陸に触れるのも、オンラインツアーに参加するものも初めてということで、楽しめるのだろうかという不安もありましたが、終わってみると、本当に参加してよかったなと思っています。映像視聴の後に現地からリポート、創作料理コンテスト、食べたり飲んだり体験したりしながらつくった方の想いを聞く、などとオンラインだからこそ経験することができたからです。次は実際に現地に行きたいと思います。
初めてオンラインツアーを体験し、南三陸のことも色々知ることができて満足です。オンラインだと、距離感が近く感じました。また、いつもは行けないところでもカメラが近づくことで、映像がダイレクトに伝わってきました。 生産者の方の顔を見ながらお話を聞けるのは、自分には、なかなかない機会であったため、貴重な体験をしたと思います。今度は実際に南三陸に行って、海の幸や、特産品の食べ歩きなどがしたいです。
たくさんの話し合いを重ねての、2日間だったと思います。学生の皆さんが居て、南三陸の方がご協力してくださったからこそ、こうやって満足感を得られるツアーとなったのだと思います。オンラインだからこそよかった!と思える魅力を、もっと共有・発信していきたいです。このような状況を嘆くことは簡単ですが、そのなかで何ができるかを考え、つくりあげた今回のツアーは、大成功だったと思います。そしてコロナが落ち着いたら、ぜひみんなで南三陸へ行きたいです。
このように、オンラインツアーを通して、オンラインならではの体験を参加者に届けることができた。またこうした経験が、参加者の現地への関心や想いを掻き立てることに繋がったのであろう。

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写真:南三陸ワイナリーでの乾杯の様子

「味わう」から「祈り」の南三陸へ


 オンラインツアーという初の試みを実施し、学びとしてもっとも得られたものは、どんな状況も工夫次第でいくらでも好転させられるということである。これは企画した東北復興活動班だけではなく、ツアー参加者の声にもあるとおり、同じように感じた人が多くいるのではないか。
コロナ禍という異例の状態の中、例年通り現地での南三陸ツアーが開催できないことも重なり、最初は企画者自身、オンラインでのツアーに正直抵抗があった。しかし、「現地の空気を味わうことができない分、食べ物で味覚から南三陸を感じてもらおう」「ただ画面を見続けるのでは辛いから、ワークショップやお料理コンテストなどの参加型コンテンツを作ろう」など、さまざまな工夫を凝らし、魅力あるコンテンツを考えてきた。
実際にツアー後のアンケートからも、こうした私たちの工夫が良い方に作用したことが見受けられ、少しでも楽しんでもらえるようにしようと試行錯誤したことが報われたような気持ちになった。さらには、お料理コンテストや、見せたいものにカメラの焦点を合わせ、現地の状況や写真で今と当時を比べながらの語り部など、現地に実際に行ったのではできないコンテンツや見せ方など、オンラインツアーだからこその体験や気付きがあった。オンラインでのツアーと現地のツアー、両者にそれぞれメリットがあるのだとの発見もあった。オンラインを用いた授業や業務、ツアーなど、まだまだ私たち自身が不慣れである新しい環境ではあるが、オンラインの可能性はこれから大きく広がるように感じた。

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 さて、来年2021年の3月11日は東日本大震災の発生からちょうど10年となる。私たち大正大学は、2011年の震災発生直後から南三陸町へ復興支援ボランティアなどを行ってきた。現在も関係は継続しており、長期休みには私大ネット36*やサービスラーニングのツアーなど、定期的に学生たちが南三陸町を訪れている。2018年からは、私たちが現地で感じた学びや南三陸町の魅力を東京に伝え、震災を忘れないよう祈り続けようと、都内のお寺とコラボレーションした「すきだっちゃ南三陸」というイベントを、第1回、第2回と行ってきた。まだまだ人を集めたイベントの開催は難しい状況であるが、南三陸町に関わり続けた私たちだからこそ、伝えられることがあると信じ、今回は大正大学のさざえ堂と南三陸町をオンラインで繋いで行うオンライン追悼イベント(仮)を計画している。10年という節目の年だからこそ当時を振り返り、追悼の祈りを捧げるだけでなく、南三陸町の現在や魅力をオンラインという媒体で広く発信し、南三陸町への関心を高め、今後にも良い方向に繋がるようなイベントになるよう、誠心誠意取り組んでいきたい。

*私大ネット36:東北再生「私大ネット36」は、大正大学が事務担当校を務める私立大学27校の連携活動団体。宮城県南三陸町をフィールドとした学びのプログラム「南三陸スタディツアー」を実施している。

記事・東北復興活動班(遠藤桃加、山口菜々美、藤枝陽菜)



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