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感想:アニメ「やがて君になる」を観終わって(ネタバレ注意)

フォロワーさんにお勧めされたので、「やがて君になる」というアニメを観てみました。私の想像を遙かに超えた素晴らしい作品だったので、いたたまれなくなり、ここに感想を記します。ネタバレを含みますので、「やがて君になる」を未視聴でこれから視聴される予定がある方は、回れ右することを強くおすすめしますよ。まずは真っ白な気持ちで観てほしい。それからまたここに戻ってきていただければ幸いです。

それでは、はじめていきましょう。

以前に私は、「安達としまむら」を視聴していた。そこで、フォロワーさんに、「是非これも観てほしい」とお勧めされたのが「やがて君になる」だった。私も名前くらいは知っていたよ。どうやら、単行本がとんでもなく売れているようで、大人気の百合作品らしい。「安達としまむら」が尊かったため、気にならないはずがない。視聴を開始した。

まず2話で驚いた。

踏切を渡った直後に何の前触れもなく、七海は小糸に対してキスをする。
衝撃が走った。物語が進むにつれ、もどかしさを帯びながら七海と小糸の距離が縮まっていくストーリーを想定していたので、意表を突かれた。遠くに見える相手が、次の瞬間、瞬間移動で私の懐に潜り込んでくるようだった。2話でキスだ。この後の物語をどう展開していくつもりなのか、疑問で頭がいっぱいだ。

私は、互いに距離感を図りつつ、照れながらも少しずつ距離を詰めていくストーリーを求めていた。「やがて君になる」からは照れを感じない。私の求めているストーリーとは違うのではないだろうか。そんなことを考えたがせっかくの作品だ。私は頭の片隅に考えを押し込んで、物語を進めていった。

それにしても気持ちが一方通行だった。
5話を観終わったあたりでもなお、気持ちが七海の一方通行なのである。いくつか、小糸が七海のことを意識しだしているような描写はあったが、いずれも気のせいで片付けられるほどに小さな描写だ。私の考えすぎかもしれない。そこには、断言できる決定的な何かがなかった。なぜだ。そろそろ小糸が七海のことを意識しだしても良い頃なのに、なぜ小糸が平然としているのかよくわからない。百合百合しいシーンはいくつかあったけれど、どれも小糸に照れを感じなかった。いつどんな出来事をきっかけに小糸が七海を意識し出すのか、非常に興味がある。この時点でもう、二人の関係から目が離せなかった。

6話を観て私は察した。
「やがて君になる」この作品は、互いに照れながらも、少しずつ距離を縮めていく二人の姿を楽しむ作品ではなかった。上っ面だけではなく、もっと深い深い物語。小糸と七海、それぞれお世辞にも普通とは言いがたい特徴的な価値観を持った少女と少女の関わりを、じっくり楽しむ作品なんだ。小糸の悩みである「誰かを特別と思えない」と、七海の特徴である「二面性を持ってどちらも否定されたくない」が複雑に絡み合っている。

七海は弱気な自分と完璧な自分の2つの顔を持っている。完璧な自分が好かれれば、弱気な自分を受け入れてくれない。弱気な自分が好かれれば、完璧な自分を受け入れてくれない。どちらかの自分が好かれれば、もう一方は否定されることになる。
小糸はどちらの七海も好きになることがない。つまり、どちらの七海も否定されないということ。そんな「誰も好きになれない」小糸だからこそ、七海は好きになった。

小糸は小糸で「誰かを好きになってみたい」という願いがあった。七海を好きになろうとしていた小糸だが、小糸が七海を好きになった瞬間、小糸と七海の関係は崩壊する。七海と一緒に居るには、小糸がこの願いを諦めなければならない。

自分のことを好きにならない小糸が好きな七海と、七海のことを好きになりたい小糸。それぞれの思いはすれ違っている。なんて切ない物語なんだ。

7話以降で小糸が七海のことを意識しだしたと思われる。

9話にある体育倉庫でのキスシーン、小糸の心の声で
「心臓の音がする。私のじゃない、先輩の音だ。だってこれじゃあ…はやすぎるから。」
というものがある。結論から言えば、これは小糸がドキドキしているということだろう。ただ単に「心臓の鼓動がいつもよりはやく感じた」と書けば良い物をわざわざ間接的な表現にしている。なんて美しい表現なのだろう。
この台詞から、小糸がドキドキしていることを認めたくない気持ち、困惑を読み取ることができる。こういった間接的な表現を巧みに用いてくる作品なのだ。とっても繊細だよね。

12話にある台詞で
七海「侑、侑は私のこと好きにならないでね。」
七海「私は自分のこと、嫌いだから。」
七海「私の嫌いな物を好きって言うことの人、好きになれないでしょ。」
というシーンの後に小糸の心の声で
「先輩だって、私の、好きな物のこと、嫌いって言わないでよ。」
というものがある。

小糸の言う「好きな物」はおそらく「七海」のことと推測できる。明言しないところがまた美しい。美し過ぎる。つまり、小糸は七海のことが好きなのである。その後小糸は、生徒会劇の結末を変えようと動き出す。
12話のサブタイトルは、「気がつけば息も出来ない」だ。これはもしかすると、七海のことが好きすぎる小糸を表しているのかもしれない。

最終話で小糸と七海のみで繰り広げられる生徒会劇の練習には、小糸のアドリブが入った。その小糸の台詞は劇の登場人物である記憶を失った少女に対してでなく、七海自身に放たれた言葉であるように見えた。
生徒会劇の内容と現実が明らかに重ねられている。
やはり表現が美しい。練習風景だけで、目が潤む。生徒会劇を目の当たりにしたら、私には泣き崩れる自信しかない。

生徒会劇を楽しみにしていたのだが、文化祭前にアニメが終わってしまった…。楽しみにしていたのに…。これはもう、原作を読むしかないね。

まとめると、「やがて君になる」という作品は非常に美しい作品だった。百合百合しいシーンの裏で小糸と七海の心が、巧みな間接的表現で繊細に表現されている。ここまで視聴者が考えさせられる作品はなかなかないだろう。私が無知なだけかもしれないけれど…。原作者は間違いなく、凄腕だ。



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