塞いだ耳に嗤う楽園㊱ 結末

彼女たちの恋愛裁判で、被告人たる私は何のアクションも起こさなかった。

「諦めなよ」倉木が言った。堤は俯いていた。
「あんな人他にいないよ」唯菓は泣きそうな顔になった。
沈黙だった。
「みんな酷いよな」泣き声だった。唯菓は突然立ち上がり、走って教室を出て行った。
泣いているように見えた。
沢口風花が立ち上がり唯菓を追って走っていったのは、そのすぐ後だった。
「ごめん!ゆいか、ごめん!」
そう言っているような声がした。ような気がした。

少女ふたりが廊下を走る足音が、何の変哲もない休み時間に響き渡った。

ような気がした。
私には、これらの記憶に確証がない。
それまでの私の周囲からの評価との隔離が凄まじいし、これらの記憶は何度も反芻してしまい最早私自身の手によって改竄された記憶だとしても不思議ではない。

私は何のアクションも起こさなかったのだ。

古瀬島なつ季はこの時も、目を見開いて私を見ていたような気がした。

彼女たちの恋愛裁判は終わった。

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