甘い汗、夏の憧れ⑮ 尻文字

英語の授業で、事件が起きた。
授業の中で英語を題材にした簡単なゲームがあったのだが、私はそれで最下位をとってしまった。
問題は、女性英語教師が提示した罰ゲームだった。
クラス全員の前で、尻文字で「えいご」と書くというのだ。
私は拒否した。だが同級生たちは面白がってやれやれと強制してくる。
私は、泣いてしまった。

人前で泣いたことは少し久しぶりだったが、とても恥ずかしかった。
「泣いてんじゃねーよ浅田!」同級生の中垣内(なかがいち)が言った。
「中垣内、じゃああんたできんの?尻文字」私を庇ってくれた女子生徒は、椿(つばき)さんと言った。
ちょっと驚いた。

椿さんは、私の見た目が幼すぎ、保健体育の授業で「ついていけてない奴がいるなあ?」と春日先生に弄られていた時も「なんでそんなこと言うんだろ」と呟いていたのを、私は忘れていなかった。
椿さんは、いい人だと思う。
私は、椿さんの事は、少し好きになっていたと思う。

ちなみに尻文字の件は、英語教師も反省したらしい。
思春期真っ盛りの中学生にやらせるような罰ゲームではなかった。
第一あれがもし女子生徒に当たったら、一体どうするつもりだったのだ。
英語教師が女性だから大丈夫、ということではなかったと思う。

そしてもうひとつ。
私はこの時に泣いたことが本当に恥ずかしく感じて、もう二度と人前で泣くまいと決めた。

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