3分の5x+1=Dの喜劇④ 番長

日下部が引っ越してからも、私はザ・ピエロにしばらくは行っていた。
近藤と一緒に行くことが多かった。
伊妻はもともとザ・ピエロには殆ど来なかったし、もうひとりの木田は…別の理由で来なくなっていた。

木田と同じ学習塾に通っていたという渡瀬(わたせ)という男が、ザ・ピエロの常連になってからだ。
渡瀬は天然パーマにニキビ顔で、柄物のジャンパーを羽織り、いつも眉間に皺を寄せたような顔をしていた。
面白いことはほぼ言わず、常に煙草を吹かしながらザ・ピエロを徘徊していた。

渡瀬がいると木田は執拗に絡まれていた。
学習塾では同じ塾に通っていた日蔭中の高井戸遼一から木田を護っていたというが、果たして本当だろうか。
高井戸は口は立つが、決してそんなに暴力的な男ではない。
そもそも、渡瀬が友達と来ているところを見たことが無い。
彼は喧嘩は強いらしいが、とにかく面白いことを言わない。威圧的だし暴力的だ。実は友達がいなかったんじゃないか。寂しくて、私たちがたむろしているザ・ピエロに来るようになったんじゃないか。

木田がザ・ピエロに顔を出さなくなってから、代わりに標的になったのは私だった。
ポーカーゲームをやっている私の手に火のついた煙草をいきなり押し付けられたこともあった。
根性焼きか。悪ふざけにも程がある。

私もわざわざ渡瀬と関わることが馬鹿らしくなり、また高校で新しい友達ができはじめた事で、徐々にザ・ピエロから足が遠退いていった。

小曾根に渡瀬の事を離したら「ピエロの番長」というあだ名を付けていた。

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