東京テレポーテーション⑭ 競馬場

私は、近藤の推薦で某競馬場の現場にも入ることになった。

隊長の杉江(すぎえ)さんは50代後半くらいだろうか。眼鏡をかけた理知的な印象のある人だった。こんなことを言っては何だが、この警備会社には珍しい。
「おまえ女の子みたいだなあ~」服隊長の大河内(おおこうち)さんは口が悪いが、何となく憎めなさが漂う人で、従業員には割と慕われてもいるようだった。

競馬場では馬主専用の駐車場というものがあり、私はよくそこに回された。
自動車会社の役員室といい競馬場の馬主専用駐車場といい、労働経験のない私をよくそんなVIPクラスの出入りする場所ばかり担当させたものだと、今にして思う。

馬主専用駐車場には、芸能人も来ていた。
「今日空いてる?」車の窓を開け、見知った顔が私の方に向く。昔からテレビで見ていたタレントさんに話しかけられたのは、この時が初めてだったかもしれない。
「あそこ、取っておいたから」馬主専用駐車場の仕切りを任されている盛岡(もりおか)さんが私の代わりタレントさんをに案内してくれた。

「タレントだからね、優遇しないとね」盛岡さんは言った。そんなものなのかと、若い私は思った。

杉江さんや盛岡さんみたいな人は、この会社では少数派だった。
「浅田くんは彼女いないの?」助平そうな顔で聞いてくる中年の人も、少なくなかった。
「いないですよ」私は愛想笑いをしながら言った。
「ほら、たまんないよね」私に話しかけた中年が競馬場の入場口の方に顔を向ける。
従業員の若い女性たちが浴衣で案内をしていた。夏専用のコスチュームらしく、浴衣だが下半身がショートパンツ仕様になっているようで健康的な脚が露になっており、夏の太陽の下とても眩しかった。

古瀬島なつ季の白い脚を思い出す。
こんな時、若い私は、突き上げるような欲望を感じずにはいられなかった。


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