東京テレポーテーション⑩ 自動車会社

最初の勤務地は、私でも知っているような有名な自動車会社の役員室だった。
アルバイト経験もゼロの私によくそんな任務を、と今にしては思うが、若い人がおらず年齢制限の関係で私が行かされたようだ。

田中という先輩にいろいろ教えて貰うように、と言われた。
田中さんは気さくな人だったが、兎に角遅刻が多かった。
私たちの待機場所には自動車会社の社員とおぼしき初老の方々のデスクもあり、若い私はいろいろ気にかけて頂いた。
「浅田くんは若いね、幾つなの」
「18です」
「高校を卒業したばかりか」
「そうです」

この頃、高校を卒業したばかりと言うと、女子高生の話になることが多かった。
メディアではそういう取り上げられ方をしていたのだ。
「チョベリバとか、実際みんな言うの?」
「実際には言っているのは聞いたことないですね」

社員の方は、たまにデスクの中から「草木の会」の新聞を取り出して読んでいた。
この人も「草木の会」の会員なのだろうか。
何となく、いい人に思えた。

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