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演劇のPR方法を考えてみた

 配信演劇「反復かつ連続」の座組み立ち上げから早1か月が経ち、3月3日にはSNS各所で情報解禁、宣伝活動をスタートしました。今回は情報解禁に至るまでの行程を演出の立場から紹介します。


演出家はいつでもいる

 演出の仕事は演技指導や音響照明効果の構想にとどまりません。現場によって違いはあると思いますが、私の場合は演出を「ありとあらゆる物事の意思決定をおこなう仕事」であると捉えています。そのため、すべてのセクションのあらゆる話し合いに、いつでもどこでも参加して、とにかく口を出し、目指すべき公演の姿を伝えます。この1か月で、もっともそれを発揮したのは制作業務においてです。制作業務は、会場探しや公演のPR活動、感染対策、予算管理、予約管理など、多岐にわたります。今回はこれらの仕事を「制作」セクションのメンバーが担い、私はその方針決定に立ち会ってきました。特に議論が盛り上がったのは、公演のPR方針の決定です。本公演のPRポイントはなんであるか、どんな宣伝を行えば集客に繋がるのか、議論しました。

 

この公演のPRポイントとは

 今回の公演は、前回のnoteでも述べている通り、「コロナ禍でも、私たちは演劇がやりたい」「コロナ禍の中でもできる演劇って何だろう」という発想から出発しているため、どのような手法で作品を作るか、どんなテーマを扱うかという選択はほとんど成り行きでした。しかし、偶然にも集まった「一軒家」「配信演劇」「コロナ禍の演劇」「一人芝居」「Wキャスト」といった本公演の特徴は、どれも今まで経験したことのないものばかりで、とても話題性がありそうです。

 お宅を貸してくださる家主さんは現在、誰も住まなくなってしまったお家の貸し手や、家具の売り手を探している最中でした。演劇を通じてそのお手伝いをする、なんてことをすれば話題になるかもしれません。また、お家はお寺を営まれており、そのことと公演を結び付ければ、地域メディアや市報などに取り上げてもらえ、大きな宣伝効果がありそうです。
 配信演劇は、zoomの画面越しに座ったまま演技をするというイメージが強い中、今回は役者が部屋の中で自由に動き回り、それを複数台のカメラで映します。技術的に新たな挑戦が沢山あることを前面に出し、配信演劇の可能性を広げる公演である、とPRしても良いかもしれません。こちらは演劇界の方たちに興味を持ってもらえそうです。

 制作会議では他にも、「話題のclub houseを使ってみるのも面白そう」「こういう所に情報を送れば記事にしてくれるかもしれない」「あの劇団は〇〇をしていた」と言ったように、話題になりそうな様々な企画が提案されました。この活気は、公演の枠組みが毎回だいたい決まっているサークルの定期公演ではなかなか生まれません。普段の制作の仕事はどうしても、演出である私が提案したことを実行してもらう、一方通行の関係性になりがちです。しかし、今回の制作は0から公演を作り上げるが故に、盛んに議論を行い、今までやったことないPR活動に挑戦する雰囲気に恵まれました。

 

大事なのは話題性だけじゃない

 一方で、面白そうな宣伝方法が多く出されたからこそ、「あれもこれもできそうだけど、結局は何がしたいのか良く分からない」案が乱立していることが、今回の課題でした。宣伝の意図が明確に分かり、本編を見てみたいと思える方法を選び取る必要があります。そこで私は、制作的な成功=集客目標を達成するためには、
 ① 応援したくなるミッションがあること
 ② 新しい・珍しい取り組みであること
 ③ 公演立ち上げの動機や目的が分かりやすいストーリーとして伝わること
この3つの観点からPR方針を整理する必要がある、と考えましました。

 例えば、「演劇やって家を売る」というミッションを設けたとします(売りませんし、家主さんにも決して頼まれていませんが)。この場合、①は演劇を通じて家の売り手や家具の買い手を見つけるミッション、②は演劇を通じてスポンサーである家主さんのお家や家具をPRすること、③はオンライン演劇やりたい若者と住まない家を活用したい家主さんが出会った話、ということになります。こんな企画があったら、なんだか興味がわきそうです。ただ、ここまで考えて私は思います。

「話題にはなるかもしれないけど、そんなのやりたかったっけ?」

 上記の①~③は、先に何か目的があって、その手段として演劇を開催するのであれば理想的なPRですが、今回の場合は順序が逆です。話題性を意識して、後付けで無理に公演の果たすミッションを設定するのでは、自分達が本来大切にしたいと感じている「純粋に演劇がやりたい」といったような初心からは離れた企画に力を注ぐことになってしまいます。そこで、方針の決め方の理想は伝えつつ、「制作的な成功ももちろん大事だけれど、自分達がやって良かったと思える公演、という成功も大切にしたいよね。」と仲間たちに投げかけました。この投げかけを境に、集客の方法と自分達の思う公演の魅力は結び付くべき、という方向で改めてPR方針を議論することにしました。


テーマは「家の記憶」と「家族の気配」

 こうした紆余曲折を経て、私たちは2つのテーマを掲げ、魅力をアピールすることを決めました。(写真は制作のメンバーが書いてくれたPR方針のメモです)


 1つ目は「家の記憶」。本作は、とある家族の朝の風景を描いており、食卓やキッチン、洗面台など、家庭を象徴するものが多く登場します。そうした象徴的な風景を劇場ではなく一軒家で表すことで、“現実”と“物語”が融合されることを魅力と捉えました。“現実”とは、キッチンや洗面台などの本物の設備があるというだけでなく、人が長年住むことで生まれる生活感を指し、これは劇場では再現できないものです。
 2つ目は「家族の気配」。本作は、一人芝居によって家族6人を演じることで、お客さんが頭の中で何もない空間に家族の姿を浮かび上がらせる魅力があります。それに加え、「家族の物語でありながら1人の女性の人生の物語である」という視点を私たちは演出で強調し、家族が人の人格形成に与える影響(その人自身から滲む「家族の気配」)を伝える作品であることを魅力としました。この方針を決定したことで、PR活動は一気に具体的なものになりました。


情報解禁を迎えて

 たどりついたPR方針は、商業目的ではない私たちならではの着地点であったと思います。現在公開されている作品のあらすじや公演を紹介する文章などは、些細なところまで全て「家の記憶」「家族の気配」というテーマが反映されています。おかげさまでSNSのフォロー数や閲覧数は順調に増え、徐々に注目して頂けるようになりました。私が特にお勧めしたいPR活動は、公式Instagram、そして、家主さんとの座談会企画です。Instagramでは、役者の金子と高橋が今回使用させて頂くお家を探検し、見つけた家具や家主さんの思い出の品を紹介することで、「家の記憶」という作品のテーマとの接点を伝えています。家主さんとの座談会では、家主さんや座組メンバーの家族の話、実家の存在などについて語り合いました。座談会の記事はnoteにて近日公開します。他にもたくさんの情報を発信していますので、ぜひ公式SNSを覗いて頂けると嬉しいです。

公式Twitterはこちら/ 公式Instagramはこちら

 PR方針を決定することで、宣伝を行える準備が整っただけでなく、作品の魅力はなんであるかを座組全体が共有し、演出家としてこの作品で何を表現するべきか考えることができました。役者との稽古や映像や音声などのテクニカル面の演出も、このテーマを表現することを軸にプランを練っているところです。次回はそうした作品の中身の方で「家の記憶」「家族の気配」をどう表現するのか、紹介したいと思います。ご期待ください。


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