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テーマパークのアトラクションに

【回想シーン2:ブリュッセル宮殿の一室で抱き合って喜ぶマーガレットとマリアの姿に、婚約指輪の受け渡しシーンをオーバーラップさせ、結婚式シーンへと移行していく。そのバックに流れるナレーションは、成人後のマルガレーテ:この回想シーンから38年後の1515年、十五歳でブルゴーニュ公を継ぐ甥っ子カール五世への語り掛け口調】
 「ほら、これがマクシミリアンからマリアへと贈られた婚約指輪よ。金の土台に、アルファベットのMをあしらったダイヤモンドが埋め込まれているでしょう? MはマクシミリアンのMでもあり、マリアのMでもあったのね。実は、ふたりは歴史上初めて婚約指輪の受け渡しをしたカップルなのだけれど、マクシミリアンはこのとき同時に二人の仲睦まじい似姿をデザインしたエンゲージメント・ブローチも贈ったのよ。ほら、素敵でしょう?
そしていよいよその翌日の8月19日、ゲントの聖バボ教会で、華燭の典が挙り行われたの。もちろん、私はまだ生まれてもいなかったので人々から伝え聞いただけですけど、この機会に覚えている限りのことを、あなたにも伝えておきたいと思います。
教会に現れたマリアは、金羊毛を身にまとった騎士たちに伴われ、まるで女王のような風格だった。招かれた人々は、文字通り息をのんでその美しくも威風堂々たる、それでいて初々しさの極みのような姿を見つめた。
一方、花婿マクシミリアンは、驚いたことに銀の鎧をまとい、立派な栗毛の馬に跨って登場し、さっと地上に降り立って兜をとると、真珠と宝石の輪に縛られた流れるような巻き毛がふわりと現れ、そのきりっと引き締まった容貌とともに、人々に強く快い印象を植え付けた。
参列者の一人は、「まるで古き良き騎士道の時代のページェントを見ているかのようだった」とさえ書き残しているそうです。
そのほか、二十の国々からの大臣使節、お祝いの積み荷を満載した商船団とともにやってきたロンバルドとヴェネツィアの商人たち、そして地元のネーデルラント人や招きに応じてはるばるやってきたオーストリア人も、この華やかかつ初々しい二人の主役の姿に感動を禁じえなかった。
そうして、ローマ教皇使節が若い二人の手を結び合わせて、神の祝福を与えた時、一斉に祝福と歓喜の声が沸き起こり、どこまでも広がっていった。でも、王族の華燭の典にもまさるその結婚式には、まだ人々を驚かせるページェントが待っていた。
それは、華々しく装飾されたキャノピーを打ち立てた六輪のフロートだった。女神に扮した侍女たちや、金羊毛騎士団員たちが優雅に舞い踊る御者台の後ろの一段高くしつらえられ豪奢な絨毯を屋根としたキャノピーの下に、新郎新婦が左右からブルゴーニュ公国に片手を触れてたたずみ、沿道に立ち並ぶ祝福者たちに笑顔で手を振って応えるという趣向。人々は、これがフランスに対する戦の凱旋と、新たなブルゴーニュ公夫妻の婚姻を同時に祝い誇示する仕掛けであることを即座に理解して、大歓声で迎えたそうよ」

映像プロモーションの原作として連載中。映画・アニメの他、漫画化ご希望の方はご連絡ください。参考画像ファイル集あり。なお、本小説は、大航海時代の歴史資料(日・英・西・伊・蘭・葡・仏など各国語)に基づきつつ、独自の資料解釈や新仮説も採用しています。