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「災い」との共存

おまじない。それには、人間がウィルスという脅威を恐れ、縋ってきた歴史がある。今日のコロナ禍において、おまじないはワクチンに形を変えた。人々はなぜワクチンを打つのか。それは、「病気にかかるかもしれない」という不安の気持ちを捨て去るためではないかと思う。ワクチンが存在しなかった時代、人々はおまじないを通して、神仏とつながってきた。

「疫病・たいさ〜ん!江戸の人々は病いとどう向き合ったか」がアーツ千代田3331にて開催された(2021年5月31日まで)。この展示では、感染症がたびたび蔓延した江戸時代に着目し、パンデミックが当時の暮らしや文化にもたらした影響や、禍に立ち向かい打ち勝とうとした江戸の人々の取り組みを紹介している。

木下直之は「麦殿大明神呼び出しプロジェクト」と称し、麦殿大明神を制作、現代の東京に召喚している。江戸時代、疫病を追い払うためには、それを歓待し、一旦引き受けた後に、帰ってもらうことが必要だと当時の人々は考えていた。幕末のはしか流行時、疫病を追い払うヒーローの一人として現れたのが、麦殿大明神だった。

なぜ「麦」なのか。それは麦の中に「芒」(はしか)と呼ばれる植物の器官があるからだ。麦は最初から「はしか」を持っているということで、一度かかったものを軽くする、麦がはしかに打ち勝つと考えられた。

コロナウィルスワクチンにも、同じことが言える。今回のワクチン開発では、ウィルスの中にある遺伝子材料を使う、今までにない方法が取られた。つまり、コロナウィルスから、ワクチンが作られているのである。「災い」を取り込み、利用し、生きるための糧にして、共存していく。それが人間が長い間、生き残ってきた所以なのだと改めて感じた。可愛らしい麦殿大明神が次に現れるのはいつなのか。「災い」と共存している私たちにとって、きっとそう遠くない未来なのではないかと思う。

大島 有貴

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