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永原トミヒロ展 2021

人の気配。それがこんなにも愛おしく思えたことが、今までにあっただろうか。昨年、同じ場所で見た、同じ作家の作品から受けたこの印象がより一層、強まった。それは、鑑賞者の心持ちによるものなのか、作家の心境の変化によるものなのか。両者の精神が共鳴できることが、アートの面白さだと改めて感じた。

コバヤシ画廊で「永原トミヒロ展」(2021年2月1日から13日まで)が開催された。永原トミヒロは、大阪岸和田に生まれ、今も暮らす。自身の原風景をモチーフにした油彩平面作品を描写し続けている。

昨年の展示で、永原の作品を鑑賞した際に感じたのは、「懐かしさ」であった。彼の原風景への愛着が、作品からあふれていた。対して、今年の展示では「そこにいたはずの人への愛おしさ」がある。

つい、さっきまで子どもが遊んでいたであろう、滑り台。つい、さっきまで人が歩いていたであろう、小さな橋…。その「つい、さっき」とは、コロナ禍以前の日常なのではないか、と思わざるをえなかった。作品全体から滲み出る、人の気配。それに寂しさと愛おしさを、感じた。

画廊のスタッフによると、永原はコロナ禍で制作の時間をたっぷり取ることができたそうだ。彼の作品にはめったに登場しない生物、ネコが描かれた作品も展示。きっと、彼の心の中でも、何かが変化したのではないか。

当たり前の風景が目の前から失われた時、初めてその大切さ、愛おしさに気づく。ここ一年で誰しもが、そのことを痛感したはずだ。新しい日常、新しい暮らしを作る、そんな良いきっかけになった側面もある。だが、「そこに確かにあったはずのもの」への愛おしさを忘れずに、これからも生きていきたい。そう、思った。

大島有貴

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永原トミヒロ展2020


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