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File.14 「身体」という主題に挑み続ける 三浦宏之さん(振付家/作家)

ダンスカンパニー「M-laboratory」、アートユニット「Works-M」、エデュケーションプログラム「M・O・W M-Lab Open class & Workshop」を三本柱に、幅広いプロジェクトを展開する三浦宏之さん。その創作の源を尋ねると、ひとつの核に行き着いた。
取材・文=呉宮百合香(ダンス研究)

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(写真上)Works-M Vol.11 Hiroyuki Miura solo exhibition 『語る末端』
©︎ Hiroyuki Miura

——1999年に結成された「M-laboratory」(以下「M-lab」)は、今年で20周年を迎えられました。活動の方向性に何か変化はありますか。

立ち上げ当初は、年に一回新作をやろうという感じで活動していました。そのうちにJCDN(ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク)の「踊りに行くぜ!!」など、色々な企画からお話をいただくようになり、最初の頃は仕事の機会が増えて嬉しく思っていたのですが、どこかで「これはちょっと自分のやり方とは違うな」と違和感もあったのだと思います。自分が作りたいと思ったものを作品にするには年1本くらいが限度だったのですが、「もっと違うものを」と常に求められ、年に数本のペースで作り続けなければならない状況となり、自分自身に疑問が生じてきました。自分のペースで作品を創作して発表するスタンスを守りたいと思って、2010年にM-labの活動を一時停止し、東京を離れて岡山へ移住しました。
移住後は、外部の企画から声がかかることが基本的に減りました。面白いことに、そうなると逆に自分の意志で企画・創作・発信していく数が増えたんですよね。月に一度の公演を12回続けたことがありましたが、毎月何かしらダンスが見られるという状況をお客さんは楽しんでくれて、リピーターも多かったです。
西日本を中心に9年間活動し、再び東京に戻ってきました。それに先立ち2017年にM-labの活動を再開してからは、以前とは異なり、カンパニーとしての活動をどのように継続するかを意識するようになりました。

——舞台作品から美術作品、文章による表現まで、既存のジャンルに捉われない活動を展開されています。ご自身の活動をどのように位置付けていらっしゃいますか。

ダンスという枠組みの中で何かをするのではなく、身体を素材に作品を作るという感覚が強いです。むしろダンスや美術とは一体何であるのか、作品の形態によって分けるジャンルとはそもそもなんなのかということに興味が傾いていると思います。ただ、自分の中でどこか区別はしているかもしれないですね。これは造形に、これは言葉での表現に、これは総合芸術的な舞台作品にしようとか。

——2020年からは新たに書籍出版も始められました。

全ての芸術作品は、言葉、つまり人と人とのコミュニケーションが生み出していると感じています。例えば著作『こぼれおちるからだたち』の中で岩渕貞太さんと対談していますが、そこで話した事柄は直ちに作品に反映されるわけではありません。しかし交わされた言葉は必ず互いの一部になり、間接的に次の作品を生み出すことに繋がるのではないかと思います。他者との会話を通じて、自分の身体の中に色々な人の言葉が集積され、それが一つの作品という形になって具現化されていくのです。
インターネットの時代ですが、だからこそ言葉というものをしっかり形ある物体として残していきたいと思っています。ネット上にあるものは具体的な形は持っていないわけで、パソコンを閉じればそこにある文字は消えてしまいます。対して本は、実際に形や重さがあって、文字がモノとして残っていく。その意味では一種の造形作品とも言えます。言葉そのものを作品にして、ある空間を占有するような具体的な「体」を持った物体にしていきたいのです。本は言葉の体である、という意識が自分の中にあります。そして、そんな「体」とはなんだろうなということが、今の私のテーマかもしれません。

三浦宏之著『こぼれおちるからだたち』

——その一方で、ウェブサイト上でのアーカイブ公開やニュースレターの配信等も積極的に行われています。書籍出版とはどのような違いがありますか。

書籍は、より高次のアーカイブだと思っています。ウェブ上の自分の作品のアーカイブは、誰しも閲覧可能な現在進行形の情報であり、ある意味では私自身やM-labの広告でもあります。書籍にすることは逆に、現在という時間軸からもう少し広げていくことかと思います。
図書館に行って時間をかけて探すことと、指先だけ動かしてネット検索するのでは、身体のエネルギーの消費量が違いますよね。それはアーカイブする場合も同じで、ホームページに情報を載せるのと本の形にするのでは、関わっている人の数からして違います。この熱消費量の違いには着目しておいた方が良いかなと。

——コロナ禍の影響で、さまざまな領域で急速にオンライン化が進みました。このような時代における身体芸術の価値はなんでしょうか。

緊急事態宣言の解除後に舞台を見に行って、意外に大事なのが、客席に座っている他の人たちの存在であることに気づきました。自分が面白いと思って見ている時に、隣の人がうつらうつらしているとか、無音のシーンで何度も咳払いをしている人がいるとか、以前は雑な情報と思っていたこのような部分に、コロナ後の今、身体の存在を感じるのです。
オンライン配信もいくつか見ましたが、すごく個/孤の状態になると感じました。複数名が集って時間と場所を身体的に共有し、自分の先入観以外のことに気づく、すなわち100人観客がいれば100通りの受けとめ方があるということを体感できるのが、やはり劇場という場の面白さではないかと思います。

——定期オープンクラスなど、継続的なアウトリーチ活動に取り組まれる理由を教えてください。

作品を作って発表すること自体が他者に何かを伝える行為ですが、ワークショップやクラスは、作品という媒体を介さずに作家が直接受講生に伝える行為です。そして自分の経験をさらに他者に伝えていくという連鎖は、「伝統」を作ることにも近いように思っています。
大きな変動の中で、今この瞬間の新しさを求めるだけでなく未来をも捉えていくためには、過去の伝統からも吸収する必要があります。そのうえで創作活動を行う者として、将来伝統となりうるような力のある表現を作っていかなくてはいけないでしょう。そのような意識から私は、ダンスを踊るクラスではなく、身体の感覚的な捉え方や考え方、造形物として自分の身体をどう扱うかといった方法論を伝えるクラスにしています。新しい作品やムーブメントを求めるだけでなく、しっかりと体系立てて新しい伝統を作っていくことは、コンテンポラリー、すなわち現代芸術のもうひとつの考え方であると思うのです。

——最新作『DAWNORDUSK』では、日本の身体文化の歴史にも注目されていましたね。

日本の身体の歴史を紐解き、それを現在の時間軸に置き換えてみると、非常に雑多であることに気づきます。アジアや日本の古典、そこにバレエや、いわゆるコンテンポラリーな身体の考え方や舞踏も入っている。私自身、色々な踊りのワークショップやレッスンを受けてきて、まさに雑多な身体性なんですよね。
本作には能や日本舞踊の動きなど日本の文化的な身体性をかなり大胆に取り入れましたが、それは原点に一旦立ち返り、日本の今現在の身体とは一体何なのかを考えるためでした。このことは、人前で踊り、作品として提示するという構造が、現在の日本において何を指しているのかという問いにも繋がっています。

——今後の活動予定を教えてください。

2021年1月よりTDT (Toronto Dance Theater・CANADA)のCo-Conspirators Project にコラボレーターとして参加し、2月には先ほどお話しした『DAWNORDUSK』の沖縄公演を、3月には仙台公演を行います。また、総合的な芸術祭の開催も計画中です。2022年1月には、M-labの新作公演を予定しています。

『DAWNORDUSK』Tokyo 2020 ©︎ M-laboratory 撮影:MILLA『DAWNORDUSK』Tokyo 2020 ©︎ M-laboratory 撮影:MILLA

身体に対する一貫した深い興味と、その多彩な表現形態——揺るぎなさとしなやかさを併せ持つ三浦さんの創作姿勢は、まるでプリズムのように、身体表現が持つ豊かな可能性を映し出している。

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三浦宏之(みうら・ひろゆき)
1999年ダンスカンパニー、M-laboratoryを設立。これまでに28作品を発表、国内外で活動を行う。2002年にはソロワークも開始。2010年にはアートユニットとしてWorks-Mを設立し、これまで9作品を発表。2015年よりM・O・W M-Lab Open class & Workshopを主宰、アウトリーチ活動にも注力。
横浜ダンスコレクションR ソロ×デュオコンペティションナショナル協議員賞受賞。東京コンペ#2優秀賞受賞。

M-laboratory 公式サイト
https://worksmlabo.wixsite.com/m-laboratory/home
Works-M 公式サイト
https://worksmlabo.wixsite.com/works-m
M・O・W M-Lab Open class & Workshop 公式サイトhttps://mlabinstitute.jimdofree.com/

三浦プロフィール写真_撮影:タカハシアヤ撮影:タカハシアヤ


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