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File.37 つながり広がる、独立系フェスティバル 韓成南さん(アーティスト/IAFTディレクター)

韓成南さんはアーティストとしてご自身の制作を行いながら、Interdisciplinary Art Festival Tokyo(以下IAFT)という、オルタナティブなアートフェスティバルを継続して開催している。作品制作を継続しながらアーティストを繋ぎ、特定の場所や固定のメンバーを持たずにフェスティバルを継続している。アーティストが主宰するオルタナティブスペースはあっても、継続したフェスティバルを独立して行う例は、私が知る限りほかになく、そのバイタリティには驚かされる。アートはメインストリームからではなく、オルタナティブに新たな価値を発掘するところからはじまるのだ、という初心を思い出させてくれるお話をたくさんうかがうことができた。
取材・文=水田紗弥子(キュレーター) 
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(写真上)韓成南 "the Shipyard" IAFT19/20 in Osaka (2019)

——IAFTについてご説明をお願いします。

2014年からスタートしたフェスティバルで、ジャンルに特定されず表現する場所がないアーティストや既存の枠にはまらないようなジャンルの方々の表現活動を発表するために展覧会やイベントを行っています。フェスティバル名をインターディシプリナリー・アートとしたのは、ソ・ヒョンソクさんの演劇を体験したことがきっかけでした。その時、多元(ダウォン)芸術という「領域横断的なジャンル」という意味の言葉が韓国で使われていることを知りました。マルチメディアと呼ぶとメディアアートのような限定性があり、総合芸術というとオペラなどの印象が強い言葉ですが、インターディシプリナリー・アートは、名づけ得ない表現形態やジャンルを差す言葉だと思って、使っています。近年では海外のアーティストが、インターディシプリナリー・アートという言葉で自身の作品を表現しているので、世界的に定着してきているなと感じています。IAFTの重要な点は、国際的に活動し、交流することです。東アジア中心ではありますが、韓国、台湾、マレーシアなどのアーティストや、ヨーロッパとのコラボレーションも行っています。エクスチェンジプログラムでは、アーティストコレクティブや、現代アート系のギャラリー、アーティストランスペースなどの企画に招待されたり、こちらも招待したりして、交流しています。

画像5韓成南 "Blue on the face" at INTER–MISSION X IAFT 16/17 (2017)

画像4会場間に設置されたインスタレーション
韓成南 "Revealing Collective Unconscious" (2018)

——自由に移動する、ムーバブルなフェスティバルという印象を受けました。

そうですね。毎回場所を探すのは大変なのですが、場所を特定しないことも特徴のひとつです。助成金ベースで動いていることもあり、かなり流動的で縛りがなく自由にやっています。あとは会場も数カ所用意して、会場から会場を移動するときにも楽しめるアート作品を設置しています。サイトスペシフィックであることを点でのみ考えるのではなく、点と点をつなぐ線についても同じ強度で考えるべきだなと思っています。そして地域という面につながっていく……。ほかのアートフェスティバルでは、案外考えられていないように感じています。

——フットワークが軽い印象を受けます。アーティスト同士だとやりやすいのでしょうか。

どんどん繋がりが広がっていくのですが、同じような人たちばかりで集まって、馴れ合いにならないようにしています。旧知の仲だからという理由で一緒にやろうとすると、作品やイベントの質が担保できないこともあったり、「交流」が大切だったりするので。難しいのですが、こちらも新作をお願いすることが多いので、いつもはこういう作風だけど、前からこういうことをやってみたかったという作家の挑戦を一番大切にしています。私は、IAFTの企画者として、キュレーターの目線も持ちながら、アーティストとしてほかのアーティストの作品を見ることが大きな特長だと思っています。力のない作品をキュレーションという観点から採用するよりも、アーティストならではの厳しい目線で、力のある作品を見せたいと考えます。

——IAFTのアーティストは、ディレクターである韓さんがお一人で選んでいますか。

そうです。今後、キュレーションをほかの方にお願いしてみたいです。IAFTではなく、Art in Country of Tokyo (AICOT)という東京都の島と本土を繋ぐ企画を行った時は、四方幸子さんにアドバイザーを依頼しました。色々と試していきたいです。最近ではInterdisciplinary Art Project Kobe (IAPK)を2019年に立ち上げて、神戸・元町映画館を中心に定期的に上映会、ARを使ったショートムービーを制作するワークショップや展覧会を開催しています。2020年10月には9時間ほぼぶっ通しで上映会を行いました。映像を使って表現するさまざまなジャンルのアーティストを紹介し、好評でした。

画像6瀧健太郎 身体・映像ワークショップ-ハンドメイド・プロジェクションマッピングに挑戦!- (2019) Photo: Art in Country of Tokyo (AICOT) 

画像6AICOTでのインスタレーション 韓成南 "Environment Other Than You" (2019)

画像3 IAPK 2020 vol.5 『拡張現実(AR)で見るショートムービー制作ワークショップ』(2020) Photo: Interdisciplinary Art Project Kobe (IAPK)

——IAFTをはじめるきっかけは?

美術大学を卒業したわけではないので、アーティストの友人のつながりをもう少し増やしたいなという目的もありました。そうなると、個展やグループ展を行うより、自分でコンセプトを立ててフェスティバルにしてしまった方が、自分も発表の場ができるし、ほかのアーティストとも繋がれる。海外に行ける可能性も広がります。アーティストによっては自分の作品しか興味がない人もいると思うのですが、私はほかのアーティストの作品も、その人自身にも興味があります。
あとは最初に助成金をいただいたことが大きなきっかけとなり、継続することができたのかなと思っています。私は20代に、社会人経験を経たことで書類づくりができるようになったのかなと思っており、事業に関しては業界の常識にとらわれず、また、継続することで認められた、というサイクルがあるのかもしれません。今はマネージメント能力が高いアーティストが増えて、90年代、2000年代のアーティストはこうあるべきというアーティスト像が変わってきているなと実感しています。助成金を取ることは、さらに難しくなると思っています。

——フェスティバル自体が韓さんの作品みたいにも思っていますか。

よくそういうふうに思われるのですが、IAFTが私の大きな作品であるという認識は全くないです。当然、自分でコンセプトをつくっているので、それは大切に考えています。岡山芸術交流2019のキュレーターがピエール・ユイグでしたが、アーティストがキュレーターを担うこともそんなに珍しいことではなくなりました。ユイグのキュレーションは、彼の世界観を構築/拡張するためのキュレーションのように感じたのですが、私がやっているのは、自分の中に取り込もうというよりは、自身のコンセプトに沿いつつ、できるだけ客観的に、アーティストや関わってくれる団体と接しようと努力しています。

——IAFTを通じてお客さんにはどんなことを伝えたいですか。

アートを見ない人たちから、アートをよく知っている人たちまで、なるべく何かしらを受け取って欲しいということは意識しています。アートをあまり普段から見ない人には、鑑賞できる機会を増やして開こうとしています。開催する地域の人たちと接すると、こんなところでフェスティバルをやるの?という反応が絶えずあります。
アート好きの方々には、作品のラディカルさや批評性、コンセプトの面白さで楽しんでもらえたらと思っています。

——コロナのパンデミック下でも、2020年春と夏に開催していましたが、どのような工夫をしながらプログラムを開催しましたか。

IAFT19/20は、2019年5月から2020年3月まで、大阪、ヨーロッパ、東京で開催しました。東京で開催した時が、新型コロナ感染症の影響でちょうど緊急事態宣言が発令される直前くらいだったので、できる範囲で工夫しながら開催できるものだけ行いました。パフォーマンスやイベント的なものはできませんでしたし、お客さんもあまり集められず、実際に来日できなかったアーティストが多数いました。開催できなかったうちの1つ、スペシャルトークは、6月に人数制限をして行い、映像配信しました。
IAFT20≠21の最初のプログラムは、オンラインが本格化していた時期だったのでチャレンジしました。オンラインでリアルタイムのしっかりしたプログラムを自分たちでやるっていうのは結構良い試みだったなと思っています。シンガポールのアーティストたちと共催し、オンラインだけではなく、会場にお客さんも集めました。本当にIAFTらしいなと思うのは、臨機応変にその場その場で最善の策をやっていっているなと感じています。

画像7 IAFT19/20 in Osaka でのインスタレーション風景 (2019)
Photo: Interdisciplinary Art Festival Tokyo (IAFT)

韓さんは、アイディア次第でいくらでも機会をつくり出せることを体現している。創意工夫でさまざまなことを乗り越え、プロジェクトを次々とこなす姿は、純粋に誰かに作品を届けたいというアーティストの思いと、場をつくり参加アーティストも鑑賞者にも実りあるものになってほしいというプロデューサーの思いの両方が重なっているように思う。だからこそ、継続できる情熱があるのだと思う。

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韓成南(はん・そんなん)
シングル・チャンネル、インスタレーション、AR作品の展示や“スーパーリニア”という概念をもとに制作した映像×演劇×ダンスのアートパフォーマンスを上演する等、活動は多岐に渡る。記号論(言語・色・音・映像)を踏襲し、人間/性愛/宗教といったコードに対して暴発的なエフェクトで彩った作品を発表。近年は、ブルーバックによるキーイングという映像合成技術を用いた鑑賞者参加型のインスタレーションや映像パフォーマンス作品、携帯電話、小型カメラやモニターを用いたウェアラブルな映像作品やポケッタブルな映像を見ることについて考察した作品を制作する。2009年12月、当時アジア圏では唯一のaudio visual festivalを大阪で主催、オーガナイズ。現在は自身が立ち上げたInterdisciplinary Art Festival Tokyo(IATF/2014~)、Art in Country of Tokyo (AICOT/2019~)、Interdisciplinary Art Project Kobe (IAPK/2019~)の代表を務める。

公式サイト http://jonart.net/
IAFT公式サイト http://i-a-f-t.net/

画像1Photo:Nozomu Toyoshima







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