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File.51 学び、感じる「オケマン」の暮らし 中舘壮志さん(クラリネット奏者)

若手クラリネット奏者の中舘壮志さんは中学校の吹奏楽部でクラリネットを始め、音楽科のある高校、音大に進学したのち2017年から新日本フィルハーモニー管弦楽団で副主席奏者を務めている。
ソロリサイタルや小編成の室内楽アンサンブルにも取り組み、さまざまなスタイルでクラシック音楽の楽しさを人々に広め、「自分自身の気持ちや考え方を音で表現する喜びを伝えたい」と後進の育成にも力を入れている。10月に予定されているソロリサイタルの話題を中心に、オーケストラ奏者としての経験がどのように自身の音楽への向き合い方に影響を与えているかについて聞いた。
取材・文=鉢村優(音楽評論)

——10月19日(火)に東京オペラシティホール(新宿・初台)の人気リサイタルシリーズ「B→C」に登場されますね。「激動の時代を生き抜いた作曲家の作品」を取り上げるそうですが、プログラムのコンセプトについて伺えますでしょうか。

フランスとドイツの作曲家による作品を取り上げます。戦争の中でも明るい作風を保ったフランセ(1912 - 1997)、収容所の中で作曲したメシアン(1908 - 1992)、ナチスの影響で日の目を見ることが少なかったドレーゼケ(1835 - 1913)などをピックアップしてみました。

——「戦争と作曲家」というコンセプトを立てたきっかけはどんなところにあったのでしょうか。

幼い頃から映画が好きで、特にナチス・ドイツの時代に生きた人々をテーマにした作品に関心を持ちました。『シンドラーのリスト』、『サラの鍵』、『黄色い星の子供たち』、『ソフィーの選択』、『ライフイズビューティフル』、『縞模様のパジャマの少年』、『戦場のピアニスト』など……。今回リサイタルで取り上げる中では、特にメシアンは特色が強い作品です。最近になってようやくその時代背景と音楽観がリンクしたのが楽しくて、このような内容を考えました。「戦争と作曲家」をテーマに、フランスとドイツの作曲家による幅広い時代の作品を取り上げます。

【中舘さんの映画愛についてはこちらも参照】

——メシアンはいわゆる「現代音楽」と思って敬遠しがちな方も多いと思いますが、どんなところに魅力を感じていますか。

メシアンは作品も時代背景も強烈な印象がありますからね。第二次大戦中、彼はドイツ軍の捕虜として収容所に入ったのですが、収容所は音楽に意外と寛容でした。今回リサイタルで取り上げる『世の終わりのための四重奏曲』は、そこで出会った音楽家の捕虜たちと、収容所で使うことのできた楽器(ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、ピアノ)で演奏するために作曲された作品です。こうした経緯でこの作品が生まれたこと自体、想像するだけでも奇跡に近いようなことだと感じています。収容所の付近を飛んでいた鳥の声がメシアンにインスピレーションを与えたと言われており、そんな厳しい環境の中でも、音楽と自然の音が流れ続けていたことがすごいと思います。

——中舘さんの中で「作品の時代背景と音楽観がリンクした」というのは何かきっかけがあったのでしょうか。

オーケストラ奏者は短期間のうちにたくさんの作品をリハーサルして演奏します。明確なきっかけは特にありませんが、こうした経験を通じて、少しずつではありますが、作品の時代背景にも興味や面白さを感じたからでしょうか。学生時代はコンクールや試験の作品をひたすら練習する日々でしたが、今は指揮者の話を聴いたり、ソリストの音から学んで考える機会が増えたのも影響を与えていると思います。

——オーケストラ奏者としての経験と蓄積が活きているのですね。ソリストの音から学んで考えることがある、というのはとても興味深いです。どなたか記憶に強く残っている方はいらっしゃいますか。

ソリストとして印象に強く残っているのは、これもあげたらきりがないですが、2020年2月に共演したヴァイオリンのアンネ=ゾフィ・ムターでしょうか。演奏家目線からみると、どうやってお客さんを楽しませるかというような小細工や特別な要素は何もなくて、ただ自然体で、その自然体で音楽を引っ張っていくパワーが素晴らしかったです。ベートーべンのヴァイオリン協奏曲はクラリネットを含む木管楽器とのアンサンブルがとても多い作品で、実はこれが私にとって初めて演奏する機会でした。ムターと音で絡んだ瞬間の緊張感は忘れられないですね。

2019年1月3日、新日本フィル「ニューイヤー・コンサート2019」で協奏曲を演奏新日本フィル「ニューイヤー・コンサート2019」で協奏曲を演奏

中舘さんは「コロナ禍以降のテレワークによるオーケストラ演奏やオンラインレッスンには新しい可能性も感じるが、コンサート会場で感じられる奏者の息遣い、聴衆の一体感など、音楽の醍醐味の核心を忘れたくない」と語る。オーケストラで、少人数の室内楽やソロリサイタルで、その熱い志に触れてみたい。

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中舘壮志(なかだて・そうし)
東京藝術大学音楽学部卒業。第87回日本音楽コンクール第1位、並びに岩谷賞(聴衆賞)、瀬木賞、E.ナカミチ賞受賞。第33回日本管打楽器コンクール第1位、並びに文部科学大臣賞、東京都知事賞、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団特別賞。第22回日本木管コンクール第2位。ほか、多数の国内音楽コンクールで入賞。東京藝術大学在学中に「安宅賞」受賞。茨城県知事奨励賞受賞。NHK FM「リサイタル・ノヴァ」に出演。新日本フィルハーモニー交響楽団副主席クラリネット奏者。「B→C バッハからコンテンポラリーへ」(2021年10月19日)、室内楽シリーズ XVⅢ ~楽団員プロデューサー編~#145 「芸術の秋に…」Produced by 岸田晶子(NJP第1ヴァイオリン奏者)(2021年11月17日)に出演予定。

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