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File.43 新しいスキルで拓く、自分らしい未来 宮本あゆみさん(ハープ奏者)

若手ハープ奏者の宮本あゆみさんは室内楽やオーケストラといった舞台で活躍するほか、映画やドラマ、アニメ、ゲーム音楽などのレコーディングに数多く参加している。コロナ禍で演奏機会が軒並みキャンセルになるなか、作曲と宅録という新しい取り組みで自分らしい未来を切り開いてきた。ハープという珍しい楽器を手にする道のりから、2月11日に2枚目のCDをリリースした現在までをうかがった。
取材・文=鉢村 優(音楽評論)

——4歳からピアノ、6歳からハープを始められたそうですが、ハープとの出会いを教えていただけますか。ハープはちょっと縁遠く、憧れの楽器というイメージがあります。

国立音楽大学附属小学校(以下、音小)にピアノ専攻で入ることがほぼ決まっていたので、ついでにハープも習おうということになって始めました。たまたま母の友達がハープを趣味で習っていて身近だったんです。

——ハープは楽器が大きく、ある程度の年齢にならないと弾けないので、ピアノから始めるケースも多いそうですね。ハープとピアノはどのような点が似ているのでしょうか。

音域がほぼ同じで、ピアノのほうが少し音が多いですね。鍵盤と弦の並び方も同じで、低いほうから順にドレミファソラシドと並んでいます。主に左手で低音、右手で高音を弾くのも同じですが、指の順番が違います。ピアノは右手親指からドレミファソですが、ハープは右手薬指からドレミファになります。小指は短いし力も弱いので使いません。

——宮本さんは最初からハープを専門にされる予定だったのですか。

私というか母が「ピアノは人数が多くて競争率高いから、マイペースなあなたはハープにしましょう」という感じで、高校からハープに進むつもりで勉強しました。ハープは小型のアイリッシュハープから始めました。かなり小さいので、子供のうちはみんなここから始めます(*筆者注:アイリッシュハープとグランドハープの違いについては、こちらを参照)。

——小学校から音大附属というのもなかなかないご経歴かと思います。はじめから音楽家になる方向で考えられていたのでしょうか。たとえばお母様も音楽家ですとか、ご家族のすすめがあったとか。

小学校に入る前に色々と見学した際、ここがいい!と言った私が言ったみたいです。あまり覚えていないのですが……。母は小さい頃からピアノをずっと習っていて、でも音大出身ではないようです。ちょっとヤマハで働いていたことはあるみたいです。

——音小は普通の小学校のような教科もあるようですが、やはり音楽の比重が高かったのですか。

はい、普通の音楽の授業と、ソルフェージュ、リトミック、聴音といった科目がありました。小さいときはそれが普通なんだと思っていたので、特になんにも考えずに授業を受けていました(笑)。楽器の練習も、ただただやらなきゃいけない義務のような感じで……だからかえって楽器をやめたいと思ったことがないのかもしれません。練習は大嫌いでしたけど。

——大学まで国立音大で学ばれ、大学院で東京音大に進まれたそうですね。宮本さんにとって作曲はとても大切な活動かと思いますが、作曲はいつごろ始められたのですか。

一昨年CDを出そうと思った際、「どうせ出すならまわりのハーピストがやっていないことを」と思って、その時初めて作曲しました。

——「ハープのオリジナルの曲が少ないため、自身で作って演奏していきたい」とAUFの書類でも書いていらっしゃいましたね。ハープのために書かれた曲が少ないというのはとても意外でした。歴史の古い楽器なのに少ないのですね。

そうなんです。いずれは楽譜を発売して、他のハーピストが弾いてくれたりしたらいいなと思っています。ハープのための作品自体はあるのですが、やっぱりマイナーですね。よっぽどの音楽オタクか、ハープを習っているかじゃないとわからないと思います。
実は今のグランドハープが出来たのはラヴェルとかドビュッシーの時代、19世紀なんです。なのでそれ以降、特にフランスの作曲家の曲が多いです。一般にハープのための作品というとモーツァルトの『フルートとハープのための協奏曲』がおそらくいちばん有名ですが、これは今のグランドハープではなく、当時のハープで弾くことを前提に作曲されています。

——コロナ以前はスタジオでのお仕事も多かったそうですが、コロナ禍ではどれもなくなってしまったのでしょうか。

はい、見事に……唯一残ったのはコロナ前から決まっていた『オルタンシア・サーガ』というアニメのお仕事でした。これも急遽、スタジオではなく演奏家が各自で録音することになったのです。実はコロナで自粛が始まった時にエンジニアの古賀健一さんから「ハープ奏者で宅録している人はいないからできた方がいいよ!」と声をかけてもらい勉強し始めたところで、そのおかげでお断りせずに引き受けることができました。宅録ができなかったらそれすらなかったと思います。本当に古賀さんには大変感謝していて、一生ついていきたいと思っています。

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——2月11日に2枚目のCD『Reminisce』がリリースされましたね。デビューアルバムに続いて今作でも宮本さんの自作曲がたくさん収録されていますが、2枚組のうち1枚は自作曲、というのはなかなかない意欲的な構成ですね。

はい、結構思い切りました。これも去年のコロナ禍があったからこそですね。自粛中ほんとうに暇だったので……(笑)

——コロナ禍がなければ生まれなかったレパートリーでもあるのですね。中でもこれは!という思い入れの作品はありますか。

当時、仕事がなくてすることがなかったのでずっと作曲していました。CDのタイトルになっている『Reminisce』という曲はいちばん何もすることがなくてモチベーションも自己肯定感も下がっている頃に泣きながらハープを弾いては書いて……と作った曲です。自作曲はすべて自宅で録音しています。

——これからのご予定があればぜひ教えてください。

4/29にソプラノの清水梢さんと、シューベルトとマーラーの歌曲を東京都民教会で演奏します。同じ東京都民教会で、6/12にはヴァイオリンの中澤万紀子さんとコンサートをします。4、5月には葉加瀬太郎オーケストラコンサートツアーにサポートメンバーとして出演します。

「まわりのハーピストがやっていないことを」と始めた作曲で生まれた数々のレパートリー。そしてコロナ禍のなか身につけた宅録という新しい武器を手に、お人柄のにじみ出る宮本さんらしい音楽を奏でている。逆境を挑戦のチャンスにし、誰のものでもない独創的な道を開き続ける姿勢に今後も注目したい。

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宮本あゆみ(みやもと・あゆみ)
国立音楽大学附属小・中学校ピアノ科を経て高等学校よりハープ科に転科。
国立音楽大学卒業。東京音楽大学大学院科目等履修卒業。現在、ソロ、室内楽、オーケストラなどで活動をしている。スタジオミュージシャンとしても、映画やドラマ、アニメ、ゲームの劇伴音楽、著名アーティストのレコーディングに数多く参加。2019年1月ファーストアルバム「灯-AKARI-」、2021年2月セカンドアルバム「Reminisce」をリリース。葉加瀬太郎オーケストラコンサートツアー2021にサポートメンバーとして参加。

公式サイト https://ayumi-harp.amebaownd.com/
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