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File.12 真面目すぎるマジシャンが生み出した危険すぎるショー TanBAさん(マジシャン)

TanBAさんのイメージは、すでに彼のシグニチャーになっている、剃刀を舐める挑発的な顔、パーフェクトにショーアップされた舞台。
彼が憧れる、ラスベガスの世界にぴったりだ。
2017年に大喝采を浴びた、言わずと知れた大人気番組「Britain’s Got Talent」では、剃刀を次々に飲み込み、会場の嫌悪感を煽ったあと、思いもよらない形でそれをリバースしていき、胸のすくようなラストへ。
完璧に描かれたシナリオ。1つ1つの題材は古典的でも、こんなに見事なストーリーに仕立てるとは、よほどの完璧主義に違いない!
世界を唸らせたエンターテイナーは、いったいどんな人物なのだろう?
取材・文=田中未知子(瀬戸内サーカスファクトリー代表)

——最近のお仕事について教えてください。

いちばん最近だと(2020年)11月に、マッスルミュージカルのラスベガス公演でもご一緒した吉川泰昭さんとのご縁で、「Online Circus」の劇場公演とオンライン配信に出演しました。実は、その前の9月、10月はドイツに渡って、予定していたヴァリエテに出演したのです。自分が行った時は問題なく出入国できましたが、その後すぐ再び、劇場も飲食店も営業制限に入ってしまったようです。

——それはすごいですね! 本当にたまたま扉が開かれたタイミングだったのですね……! ところで、TanBAさんはマジック界の巨匠、渚晴彦さんのもと、15年間も修行をされたとのこと。古典芸能ならば修行に20年という話もよく聞きますが、マジック界でもそうした修行は一般的だったのですか。

そういうわけでもないのですが、僕がマジックを始めた当時は、今のようにインターネットで映像や情報を得ることもできなかったので、弟子入りする以外の方法がなかったのです。僕が師匠の会社に入った頃はバブル真っ只中。仕事はいくらでもありました。その後バブルが崩壊して景気が悪くなると、マジックの仕事は減り、事業も徐々に縮小していきました。僕は長く会社にいたので、離れるに離れられない、そんな感じで15年が経ちました。

——今のようにインターネットで技術を学ぶのと、弟子入りすることの一番大きな違いはなんだと思われますか。

人との接し方、そして仕事の取り方などでしょうか。直接教えてくれるわけじゃないけど、見て盗むという感じですね。

——今のTanBAさんのシグニチャーである「危険芸」や独自のスタイルはどこから生まれたのでしょう。

師匠もそうでしたが、マジシャンはクールにカッコよく見せるのが一般的でした。また、内容も、鳩を出したり、美女を侍らせたり、イリュージョンの大技を取り入れたり………それで60分くらいのショウを構成するのですが、自分に果たしてそのスタイルが向いているんだろうか?と、ずっと疑問でした。
そんな中、マッスルミュージカルと出会い、自分はアメリカ公演のチームに入れた。会場はラスベガス、まさに世界中の人が集まる、エンターテインメントの最高峰でした。演者が世界トップクラスなのはもちろん、客の中にもトップスターがいたりする。そんな中から新たなビジネスチャンスが生まれたり、刺激的でした。
ラスベガスでは、ショーに出るだけでなく、ほかの沢山のパフォーマーの演技を見る機会にも恵まれ、こんな芸もあるんだ!こんな風に見せていいんだ!と、目から鱗が落ちる場面がたくさんありました。
 
——ラスベガスでのマッスルミュージカルへの出演が大きな転換点をもたらしたのですね。

はい。マッスルミュージカルのアメリカ人演出家にクラウニング(クラウンの演技)を求められた時、全然できなくてすごく恥ずかしい思いをしました。それまで正直、クラウンを舐めてたんだなと(笑)

——ヨーロッパなどのクラウンは、日本でのクラウンのイメージとは全く異なりますよね。

昔はただ、派手なメイクをしてだぶだぶの服で面白いことおかしいことをやっていればいいと誤解していたんです。でも、本当のクラウン芸はそんなのものではなかった。何でもできるのがクラウン。サーカスで一番尊敬されるのがクラウン。また、クラウンが本職でマジックを取り入れているひとはいますが、マジシャンでクラウニングをきちんと学んでいる人って少ないと気づいたんです。
マジックがうまく出来たら「不思議だな」とは思うけど、芸がうまければ面白いかっていうと、そうとも限らない。僕は、マジックは面白くなきゃ意味がない、と思うんです。お客さんを楽しませる、エンターテインメントでなければ。 
自分がクラウニングを学んだ時の先生はシルク・ドゥ・ソレイユでも有名なクラウンで、そこには一流のクラウンも習いに来ていた。昔はプロになることが到達点だと思っていたけれど、プロになってからが始まりなのだと気づかされました。
また、サーカスのように、15分〜20分のショーがいくつか集められて1つのショウになるスタイルを見た時、自分が目指すのはこれだ!と思いました。60分や90分のショーでなくても、お客さんを楽しませることができるスタイルもあるんだと。

——今後、コロナ禍が終息し、活動を本格的に再開できるようになったら、何を一番やりたいですか。

ラスベガスでショーの契約を得て、舞台に出たいですね。それと、自分には子どもがいるのですが、子どもに世界を見せてあげたい。世界には、全く違う価値観や生き方があって、どんな生き方もありなんだ、ということを感じてもらいたいのです。

——感覚や意識の解放って、すごく大事ですね。TanBAさんご自身で解放されたと感じる部分もありますか。

実は僕、自分で言うのもなんなんですけど、すっごく真面目で(笑)。師匠にも「お前は真面目すぎる」って言われて、どうしたら良いんだろうと家に帰っても考えていました。それを兄弟子に言ったら「家でまで考えてたって?それが真面目なんだよ!」って。
芸人は破天荒っていうイメージがあるでしょう。向いてないのかなぁとずっと悩んでいました。
けど、ラスベガスのマッスルミュージカルでご一緒したアクロバットアーティストたちは、みんな、すごくストイックに身体を鍛えるでしょう。日々真面目に鍛錬して、家族も大切にしていて、あんなに素晴らしいショーをやって、賞賛されてる! それを見て「あ、なんだ!パフォーマーだって、真面目でもいいじゃん!」と初めて思えたんですよ。

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Britain’s Got Talentで披露したショーは2011年から6年間かけて徐々に完成されたものだそうで、あの完成度の高さは、TanBAさんのたゆまざる努力の賜物でした。
長い修行時代と、挑戦を重ねてきたTanBAさんの言葉はリアルなのに重さはなくて、解放感に満ちていました。殻を破って飛び出したTanBAさんが夢を懸けるラスベガスで、パワー200%の舞台を早く見たい!

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TanBA(たんば)
クラシックなマジックから世界でも珍しい「危険術」マジックまでを幅広くこなす。2008年には「マッスルミュージカル」に入団。2011年まで、「マッスルミュージカルラスベガス公演」のため、ラスベガスに滞在。世界的に有名なイギリスのTV番組「Britain's Got Talent 2017」の出演を皮きりに、世界各国で活躍中。AXN ”Asia's Got Talent 2019”(マレーシア)、日本テレビ「行列のできる法律相談所」、読売テレビ「情報ライブ”ミヤネ屋”」、CW “Penn&Teller Fool Us”(アメリカ)、SCTV "The Grand Master Asia 2017”(インドネシア)などに出演。
公式サイト http://www.tanbamagiclown.com

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