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Artist Note vol.8 光岡幸一

「Art Squiggle Yokoyama 2024」では、「アーティスト・ノート」というコンセプトを掲げ、各参加作家に本フェスティバルの準備段階で、まだ頭のなかにしか存在していなかった展示についてのインタビューを行いました。作品に込める思い、悩みや葛藤、インスピレーション源についてなど、まさに「Squiggle」の最中にいたアーティストの声がここには綴られています。

山下ふ頭の屋外に 「止まり木」を建て
その下に敷いた黒いシートに
鳥がフンを落とすのを待ってみる

山下ふ頭の屋外に高さ3メートルほどの 「止まり木」を設置する
作品 《Hyahbling Star》(2024) には、どんなアイデアがもとにあるか教えてください。

山下ふ頭へ下見に来たとき、倉庫の内部も広々としていいなと思ったのですが、むしろそこから外に出た瞬間の光景のほうが印象的でした。船のある海の風景や、鵜や鴨、ウミネコなんかの鳥がたくさん飛んでいて、なんだかこっちもいいなという気持ちになったんです。そこで、公園の遊具みたいに、 鳥のための大きな止まり木をつくつて、地面に黒いシートを敷いて、そこに鳥がフンを落としてくれたら、そのフンが夜空の星みたいに見えるドローイングができるんじゃないか、という何年か前に浮かんだアイデアを思い出しました。きっかけは、家のベランダにカラスが止まっていたことがあって、近寄るとパッと飛んでいってしまって。鳥って次に止まる場所をどうやって決めているんだろう?と不思議で気になったんですが、あとにはフンがひとつ落ちていただけ。そのこともこのアイデアに繋がっていると思います。

《Hyahbling Star》(2024)  Art Squiggle Yokohama 2024 Photo: 市川森一
《Hyahbling Star》(2024)  Art Squiggle Yokohama 2024 Photo: 市川森一

これまでにもAR技術を使って街中で体験できる作品や、通行人をも取り込むようなパフォーマンス作品などを屋外で展示されています。どの作品も、鑑賞する手前にある、まるで思わぬアクシデントに遭遇してしまったかのような自分の予期せぬ反応に出会えると思います。
そうなっていたらすごく嬉しいですね。パフォーマンスは単純に、なんだか楽しそうだな、どうなるんだろうと思ってやっている部分も大きくて、自分も同じ空間にいながら体験することがしっくりくるんですよね。例えば音楽のライブ会場で全然知らないバンドが出てきたとしても、聞いているうちにだんだんノってくることってあるじゃないですか。そうやって、説明や技術うんぬんを頭で考えるのではなく、体がわかってくる感じを大事にしたいといつも思っています。

印象に残っているオーディエンスからのフィードバックはありますか?
例えば《通達》(2021)では、隅田公園で高所作業車の上から言葉を書いた垂れ幕を下げるパフォーマンスをしました。公園って、バーベキュー禁止、スケポー禁止……と、できないことがどんどん増えていますよね。だから逆に、「いぬにてをふっていい」というように、いろんな “とうでもいい許可”をどんどん出してみようと思って。布にテープで文字を書いて高所作業車の上から垂らして、降りてテープを剥がしてはまた書くということを繰り返したのですが、下にいた通りすがりの女性が 「犬に手を振ってきます!」と大声で叫んでくれたんです。美術館やギャラリーではあまり起きないような、公園ならではのコミュニケーションが面白いなと思いました。見るつもりがなかった人が偶然見てしまうことが起こり得るのは、街中や屋外の面白さかもしれないなと思います。

《通達》(2021) Photo: Takafumi Sakanaka

自らが体感する経験は、アートだけでなく普段の生活においてもすごく大切ですよね。光岡さんにとって制作は生活と地続きになっている感じがします。
ひとつ思い出深い話があって、美大で唯一受かった建築学科に入学したのですが、2年生のときの課題をすごく頑張っていいのができたぞと提出したら、先生に「君がやってることは建築じゃなくて、アートだね」と言われて全然相手にされなかったことがあったんですよね。自分には建築とアー トの何が違うのか分からなくて、僕は建築ができないのかな、違う学科に転科したほうがいいのかな、でもアートが何か全然わからないし……と悩みまくった結果、夏休みに実家の愛知まで徒歩で帰ってみようと思い立った。「なんかアートっぽいものが見つかるかもしれない」。 そんな気持ちでした。歩いて帰ることができたら、とりあえず転科試験を受けてみようと決めたんです。
夏休みは、コンビニで地図を買ってその地図の端まで歩いたら、次のコンビニでまた地図を手に入れて、とにかく汗だくで知らない道を歩く日が続きました。駐車場で寝泊まりしたり、ご飯を食べさせてくれる人の優しさに触れたりしたのもいい経験です。およそ2週間ずっと知らない道を歩き続けていたんですが、実家に帰る旅なので、その知らない道が、ある一歩を境に知っている地元の道へと切り替わる特別な一歩がありました。その一歩を踏み 「あ、 ここ知ってる!」となったその瞬間、それまで歩いてきた道のりが一気に駆け巡り 「東京と愛知は地続きで繋がっているんだ!」 ということを、頭ではなく体全身が理解しました。そんな当たり前の車を鳥肌が立つほど新鮮に感 じたんです。誰でも知っていることでも、見方を変えればこんなに感動できたりするんだ、という何だかアートっぽい気づきは、まだ何も知らなかった19歳の自分にとって、創ることの大きな原体験になりました。

それから10年以上経った今、アートとは何かへの答えは見えてきていますか?
答えをあんまり求めていないというか、アートがなんでもいいとは言わないけれど、わからなくても別にいいやという感じです。アートとは何かということよりも、自分が何をしたいかのほうが大事だと思うようになってきていて、自分がやりたいことの純度を上げていったらいいんじゃないかって、そう考えています。

Interview Date: 2024/06/25
Text by Shiho Nakamura


PROFILE
1990年愛知県生まれ。名前は、字がすべて左右対称になる様にと祖父がつけてくれて、読みは母が考えてくれた。(ゆきかずになる可能性もあった。) 宇多田ヒカルのPVを作りたいという、ただその一心で美大を目指し、唯一受かった建築科に入学し、いろいろあって今は美術家を名乗っている。矢野顕子が歌うみたいに、ランジャタイが漫才をするみたいに、自分も何かをつくっていきたい。一番最初に縄文土器をつくった人はどんな人だったんだろうか?


About "ARTIST NOTE"
会場では、それぞれの作家ごとに用意されたテーブルの上に普段制作に使用している道具やアトリエにあるもの、影響を受けた書籍などが並ぶほか、インタビューや制作プロセスが垣間見れる写真などが掲載された「アーティスト・ノート」が2枚置かれています。会場を巡りながらそれらを集め、最後にはご自身で綴じ、自分だけの一冊をお持ち帰りいただけます。

光岡幸一のアーティストテーブル


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